1. 逐次思考の概要

OpenAIのo1モデルは回答をすぐに生成するのではなく、内部で一連の「推論ステップ」を踏んでから回答する**逐次思考(Sequential Reasoning)**を特徴としています​

ai.stackexchange.com

。具体的には、ユーザからの質問に対し、**回答に至るまでの長い内部の思考過程(チェーン・オブ・ソート, chain-of-thought)を見えない形で展開し、その後に最終的な回答をユーザに返します​

ai.stackexchange.com

。これは人間が難問に答える前に頭の中でステップごとに考える様子にたとえられ、従来のモデルに比べて「答える前によく考える」**アプローチと言えます​

leehanchung.github.io

datacamp.com

他の従来型LLM(GPT-4など)との違いとして、o1モデルはあらかじめ強化学習によって段階的な推論スキルを訓練されており、問題解決の際には即答せずシステム2的なゆっくりした思考モードで臨みます​

leehanchung.github.io

。これにより複雑な論理課題やマルチステップの問題への対処能力が飛躍的に向上しており、数学やプログラミング、科学分野の難問でGPT-4oを上回る成果を示します​

datacamp.com

techtarget.com

。一方で、一般的な日常会話や単純な質問では逐次思考は必ずしも必要なく、むしろo1モデルは内部で余計な思考プロセスを行う分だけ応答に時間がかかる傾向があります​

datacamp.com

。そのためOpenAI自身も、即時性が重要な用途ではGPTシリーズを、深い推論が必要な用途ではo1シリーズを使い分けることを推奨しています​

datacamp.com

なお、OpenAIはGPTシリーズとは別に推論特化の「oシリーズ」を新設し、カウントを1にリセットしてo1と名付けています​

datacamp.com

。これは従来のGPTモデルとは異なる設計思想(論理的推論への特化)を強調するためであり、o1モデルは常にチェーン・オブ・ソートを用いた深い思考を行う点でGPT-4などとは一線を画しています​

leehanchung.github.io

。例えば、GPT-4が直感的な即答(システム1的思考)で対処しようとする問題でも、o1モデルは一度立ち止まって推論を積み重ねるため、難易度の高い問題でより高い正答率を発揮できます​

github.com

github.com

2. メカニズムの詳細

(a) アルゴリズムとトレーニング手法: o1モデルは大規模な強化学習(RL)によって逐次思考能力を獲得しています​

github.com

。OpenAIの研究者たちはまず既存の大規模言語モデルに「Chain-of-Thought」すなわち思考の連鎖を行わせるような訓練を施しました​

leehanchung.github.io

。具体的には、モデルに難しい問題を解かせ、その途中経過(思考プロセス)も生成させるようフィードバックし、最終的な答えの正確さに基づいて報酬を与える強化学習アルゴリズムを適用しています​

github.com

。この訓練によってモデルは「どう考えればうまく問題を解けるか」を学習し、時間をかけてでも論理的に筋道立てて考える戦略を身につけました​

github.com

。OpenAIはこのアプローチについて「訓練計算量を増やすほど、またテスト時により長く考える(=より多くの推論ステップを許す)ほどモデルの性能が向上した」と報告しており​

github.com

、従来の事前学習とは異なるスケーリング特性を示すと述べています。さらに強化学習を通じて、モデルは誤りに気づいて修正することや、難しいステップをさらに細かく分解すること、今の方針で行き詰まったら別のアプローチに切り替えることまで学び取ったとされています​

github.com

。このようにして磨かれた逐次思考能力が、o1モデルの高い推論力の根幹にあります。

(b) 推論時の内部処理: 推論(回答生成)の際、o1モデルは入力に対してまず**「見えない推論トークン」群を内部で生成します​

ai.stackexchange.com

。これがモデルのチェーン・オブ・ソートに相当し、モデル内部の一時メモリ(いわばスクラッチパッド**)に思考過程として蓄積されます​

leehanchung.github.io

。モデルはこの隠れた領域でユーザの質問内容を分析し、考えうる解法を列挙したり試行錯誤したりします。例えば「問題を読み解く」「必要な情報を列挙する」「部分計算を行う」「一度仮定した答えを検証する」といったステップを、一連のテキスト(推論トークン列)として内部的に綴っていきます​

ai.stackexchange.com

。こうした内部思考の手順を十分に踏んだ後、モデルは最終結論となる回答文を出力トークンとして生成しユーザに返します​

ai.stackexchange.com

。生成後、内部の推論トークン列はコンテキストから捨てられ、ユーザからは最終回答のみが見える仕組みです​

ai.stackexchange.com

。これにより、モデルは**「考えるだけ考えて、答えだけ話す」**動作を実現しています。

 

内部で推論トークンを用いる効果は顕著で、モデルは文章を生成しながら逐次的に自己対話を行うような形で問題解決を試みます。例えば人間がホワイトボードに解決手順を書き出して考えるように、o1は自分自身に対して段階ごとの指示を与え、局所的な誤りに気付けば訂正し、アプローチを必要に応じて変えながら解を探ります​

github.com

。この内部推論中には、最終的に不必要となる情報や一時的な試行錯誤も含まれるため、OpenAIはこれをユーザにそのまま見せることはしていません​

simonwillison.net

simonwillison.net

。推論内容を隠す理由の一つは安全性で、モデルが方針遵守や内容フィルタリングについて内心で検討する際に、未加工の連想やポリシー違反の兆候が含まれ得るためです​

simonwillison.net

simonwillison.net

。もう一つは競争上の理由で、OpenAIの投じた学習データや手法が詰まった「思考過程」をそのまま公開しないことでモデルの優位性を保つ狙いがあります​

simonwillison.net

。したがってAPI経由では推論トークンは一切見えず、ChatGPT上でも要約されたステップタイトルだけが表示される形になっています​

leehanchung.github.io

leehanchung.github.io

(c) 逐次思考に伴う処理負荷: o1モデルの内部推論には追加のトークン生成と計算が必要なため、応答時間と計算コストに直接影響します。モデルは回答を得るまでに大量の「思考用」トークンを生成する場合があり、これらもトークン数として課金対象になるうえ(APIでは推論トークン数もカウントされます)、その間モデルは次のトークンを通常よりゆっくり出力します​

datacamp.com

。実際、o1-preview版が公開された当初、挨拶の「Hi」に答えるだけでも10秒以上かかるケースがありました​

datacamp.com

。その後モデルの改善により不要な長考は減りましたが、それでも全般的にGPT-4等より応答は遅いです​

techtarget.com

。また、推論トークンはコンテキストウィンドウを消費するため、入力や出力に使えるトークンの一部を圧迫します​

leehanchung.github.io

。例えばo1-previewでは小型版のo1-miniより32,768個も多くの推論トークンを使用可能ですが​

leehanchung.github.io

、これはすなわち内部で長い思考チェーンを保持するために大きなコンテキスト予算を割いていることを意味します(その分、ユーザプロンプトや回答に使える枠が減る可能性があります)。もっとも、OpenAIの発表によればo1モデルの推論は前方方向の逐次展開であり、Monte Carlo木探索のような高度な木構造サーチをそのまま内部で行っているわけではないようです​

leehanchung.github.io

leehanchung.github.io

。推論ステップ中に方針の見直しや視点の変更が起こることはありますが、それもテキスト生成の流れの中で順次的に再評価しているに過ぎず​

leehanchung.github.io

、モデルが並列的に分岐探索して最善解を探すようなアルゴリズム(たとえばMCTSやTree-of-Thought)は用いられていないと推測されています​

leehanchung.github.io

。要するに、o1の逐次思考はテキストとして一筆書きで綴られる思考プロセスであり、アルゴリズム的には1回のプロンプト応答生成と同じ枠組みの中で完結しています。そのため計算コストは従来モデルより大きいものの、逆に言えば専用ハード検索などをせずに言語モデル自身が思考をシミュレートしている点が巧妙な設計です。

3. 逐次思考をする場合としない場合の違い(具体例付き)

逐次思考の効果は複雑な課題ほど顕著に現れます。以下に、o1モデル(逐次思考あり)と従来のLLM(逐次思考なし)の挙動の違いをいくつかの例で比較します。

  • 例1: 自己言及型の問題(回答内の単語数を問う質問) – 「あなたのこの回答にはいくつの単語が含まれますか?」という意地の悪い質問を考えてみましょう。通常のLLMの場合、これは非常に難しい問いです。なぜならモデルは自分の回答を作りながら同時にその語数を予測する必要があり、しばしば誤った語数を答えるか、回答を生成できずに失敗してしまいます。しかしo1モデルの場合、まず内部で「回答文を仮定→語数を数える→語数に合わせて回答を調整する」という推論を重ね、最終的に**「この文には7つの単語があります。」**と正しく答えることができます​

    simonwillison.net

    。実際にo1-previewはこの質問に10秒ほど“考え込んだ”後、「There are seven words in this sentence.」(この文には7つの単語があります)と返答してみせました​

    simonwillison.net

    。逐次思考により、回答そのものを計画・制御する能力が向上している例と言えます(他のモデルではまず成功しない類の問題であり、o1の推論力の高さを感じさせる場面です)。
  • 例2: 論理パズル(ジョークの解釈) – 「2頭の牛が野原に立っていて…もう一頭が『俺はヘリコプターだ』と言った」という一見ナンセンスなジョークの意味を説明させる課題では、従来モデルは文脈を見失い適切にオチを解説できないことが多々ありました。しかしo1モデルは内部でジョークの背景知識や文脈を一つずつ整理し、「狂牛病で頭が混乱し、自分をヘリコプターだと思い込んでいる」という趣旨を正しく汲み取った解説を提示できます​

    simonwillison.net

    。このような一見不条理な問題でも、逐次思考により隠れた前提を推論し、筋の通った説明にたどり着くことが可能になっています​

    simonwillison.net

  • 例3: クロスワードパズル(複数要素の組み合わせ問題) – クロスワードのように複数の手がかりを同時に満たす必要がある問題は、通常のLLMが大の苦手とするところです。従来のモデル(例:Claudeや従来GPT)は「1ダウンの答えは...」と最初の推測を埋めた後、それを前提に突き進んでしまい、間違った推測に基づいたまま他のマスが埋まらず行き詰まってしまうことがあります​

    oneusefulthing.org

    。一度出力した内容を後から訂正することが難しいため、途中で誤りに気付いても取り返しがつかなくなるのです​

    oneusefulthing.org

    。一方、o1モデル(開発コード名「Strawberry」)ではこのようなパズルに対して、まず108秒間という長い時間をかけて頭の中で試行錯誤を重ねました​

    oneusefulthing.org

    。具体的には「1ダウンの答えをいくつも候補を試す→他の単語と整合するか検証→矛盾があれば最初から別の候補を試す」という探索的なアプローチを内部で繰り返し、かなり難しいクロスワードをほぼ解答することに成功しています​

    oneusefulthing.org

    。例えば推論の過程では「1ダウンと1アクロスの頭文字が合わないので、1アクロスの答えを別案に変更しよう」といった記述も見られ、モデルが自分の出した部分解答を批評・修正しながら進んでいる様子が確認されています​

    simonwillison.net

    。結果として、若干のヒントを与えれば最終的に全ての答えを正しく埋めるところまで到達しました​

    oneusefulthing.org

    oneusefulthing.org

    。この例から、逐次思考によりモデルがバックトラッキング(手戻り)や計画の練り直しを柔軟に行えるようになり、従来は不可能だった複雑な相互制約付き問題にも対応できるようになったことが分かります。
  • 例4: 数学の多段問題 – たとえば「ある人とその娘の年齢の問題」や「塀を乗り越えるカタツムリの問題」など、文章から式を立てて解く必要がある数学パズルを考えます。従来のモデルでも簡単な問題なら正解できますが、途中計算が多い場合や一見するとトリックがある問題では、誤った推論をして見当違いの答えを返すケースがよくありました。しかしo1モデルでは、内部で「問題文の条件を整理→式を構築→段階的に解を計算」という手順を書き下すため、正答率が飛躍的に高まります​

    datacamp.com

    。実際、OpenAIによれば数学オリンピック級の問題でもo1モデルは高得点をマークしており、GPT-4oの正答率13%に対してo1モデルは86%という驚異的な成果を示しました​

    techtarget.com

    。これは逐次思考によって、複雑な数式変形や論証をモデルが一貫して追跡できるようになったためです。要するに、簡単な暗算や記憶では解けないような問題こそ、逐次思考の恩恵で飛躍的に解けるようになっているのです。

以上の例から、逐次思考が威力を発揮するのは主に**「ステップを踏んで考えないと解けないタスク」**であることが分かります​

datacamp.com

ai.stackexchange.com

。特に:

  • 数学: 多ステップの計算や文章題、論証問題など(例: 難関コンテスト数学​

    techtarget.com

    )。
  • 論理パズル・推論: クロスワード、謎解き、自己言及クイズ、なぞなぞ、複数条件問題など​

    oneusefulthing.org

    oneusefulthing.org

  • プログラミング: コーディング問題・デバッグ・アルゴリズム設計(モデルが問題を分解し、コードを段階的に構築​

    github.com

    github.com

    )。
  • 科学技術: 物理や化学の問題(複数の公式適用や推論を要する問題。OpenAIはo1が難解な物理問題で博士号保持者に勝る場合があると述べています​

    oneusefulthing.org

    )。
  • マルチステップ計画: 複数のサブタスクに分解して解決するようなタスク(エージェントのプランニング、データ検証手順の構築など)​

    ai.stackexchange.com

こうしたタスクでは逐次思考により中間ステップでの誤り検知・軌道修正が可能になり、モデルの回答精度・一貫性が飛躍的に向上します​

github.com

。一方、次に述べるように逐次思考は万能ではなく、使わなくても良い場面や逆に邪魔になる場面も存在します。

4. 推論モデルと逐次思考の関係

OpenAIのo1は「推論(Reasoning)モデル」と位置付けられており、従来のGPT系LLMとは目的最適化の方向性が異なります​

ai.stackexchange.com

。技術的にはo1もGPT-4系列の大規模言語モデルをベースとしていますが、連想的な文章生成よりも論理的な問題解決に重点を置くよう追加訓練されているため、OpenAIはマーケティング上これらをGPTとは別カテゴリに区分しています​

ai.stackexchange.com

。つまり、GPT-4が汎用的な知識想起と流暢な文章生成に優れるのに対し、o1は困難な問題を解くために追加の思考工程を挟むよう最適化されたモデルです​

ai.stackexchange.com

ai.stackexchange.com

。実装上の大きな違いは前述した「推論トークン」の有無で、o1は内部に思考を書き留める領域を持つのに対し、従来のGPT-4にはそのような明示的機構はありません。結果として、o1はより深い推論能力を獲得しましたが、応答速度や汎用性では譲る部分があります​

datacamp.com

leehanchung.github.io

推論モデルであるo1が推論能力の向上につながった理由は、逐次思考によってモデルが自らの出力を内省・統制できるようになったためです。従来のLLMは基本的に次の単語を予測する「即時応答」の連鎖でしたが、o1では内部対話によって**「このまま答えて良いか?間違いはないか?」と吟味しながら進むため、複雑な問題でも論理の整合性を保ちやすいのです​

github.com

。例えば、通常のモデルが一発で間違った答えを出してしまうような場面でも、o1は内部で「違う、これでは辻褄が合わない」と気付き別解を試すことができます​

github.com

。また一つの課題に対し多角的に検討**(複数のアプローチを比較検討)する余地もあり、これが事実上モデル内でのエラー訂正ループセルフチェックのような役割を果たしています​

github.com

。その結果、総合的な推論力(複数ステップを要する問題に対する解決力)が飛躍的に伸びており、特に数学・科学・コーディングといった領域で既存モデルを凌駕する性能を示す理由となっています​

datacamp.com

techtarget.com

。実際、強化学習でチェーン・オブ・ソートを磨いたこの手法は「モデルの思考の質そのものを高める新たなパラダイム」として注目され、今後他の研究機関も類似の手法を導入していくだろうと指摘する専門家もいます​

simonwillison.net

現在、OpenAIの推論モデルにはo1シリーズの他に新たにo3-miniが投入されています。o3-miniは推論シリーズ第2世代とも言えるモデルで、パラメータ数は小さいものの効率的な学習によりo1に匹敵する推論力を持っています​

reddit.com

。特に注目すべきは、そのコストと速度の改善で、推論精度を保ちつつ応答が約24%高速化され(o1-mini比)​

theaitrack.com

、価格面でもo1の15分の1程度と非常に安価に提供されています​

reddit.com

。社内評価では「知的レベルは同等でレイテンシーと価格が同じなら、o1-miniより新しいo3-miniを推奨」とされており​

ai.stackexchange.com

、今後は軽量版ながら高性能なo3-miniの利用が主流になると見られます。また一部ユーザ報告では、o3-miniの上位モデル(o3-mini-high)はo1-proに迫る最高水準の推論性能を示し、数学ではo1と同等、コーディングではケースによってはo1を上回る結果もあったとされています​

reddit.com

。さらにo3ではChatGPT上で推論過程の概要を表示する機能も追加され、ユーザがモデルの考えたステップのサマリーを確認できるようになっています(ただし生の推論ログは非公開のままです)​

reddit.com

。このように、推論モデルの系譜はo1からo3へと進化しつつあり、より低コストで高度な逐次思考を実現する方向へ発展しています。

なお、OpenAI以外にもDeepSeek R1やGoogleの次世代モデルなど、類似の推論強化型LLMが登場しています​

medium.com

。DeepSeek R1は推論ステップをユーザに可視化する斬新な試みを行っており、コミュニティからは「OpenAIも生の思考過程を見せてほしい」という声が上がるほどです​

reddit.com

。今後、LLM分野において**チェーン・オブ・ソートを組み込んだ“考えるAI”**の潮流が大きくなっていくことは間違いないでしょう​

simonwillison.net

。o1はその先駆けとして、推論モデルがいかに問題解決能力を飛躍させるかを示した好例といえます。

5. 応用例と制約

✅ 応用例(逐次思考が活用できる分野): 逐次思考は、一度に多くの要素を考慮したり、段階を踏んで結論に至ったりする必要がある分野で威力を発揮します。以下に主な応用領域を挙げます。

  • 数学・物理: 複雑な方程式の導出、文章問題、物理現象の解析など、複数の式変形や論理推論を要する問題で有効です​

    techtarget.com

    。例えば微積分や力学の問題をステップバイステップで解く際、逐次思考により途中計算ミスを減らし正答率を向上させます。実際、o1モデルは高度な物理問題で専門家レベルの成績を収めたとされ​

    oneusefulthing.org

    、学術分野への応用可能性を示しています。
  • プログラミング・コード生成: コードを書いたりデバッグしたりするタスクでは、問題を関数ごと・モジュールごとに分解し、順に実装・テストする思考が重要です。逐次思考を備えたモデルは、要求仕様を分析してアルゴリズムを設計し、ステップごとにコードを書くプロセスを内部で進められます​

    github.com

    。その結果、バグの少ないコードや論理的整合性の高いプログラムを生成しやすく、特に複雑なアルゴリズム実装や長いコードの一括生成で強みを発揮します​

    ai.stackexchange.com

    。また、複数ファイルにまたがるような大規模コードのプランニングや、エラーメッセージに基づくデバッグ方針の立案などにも適しています。
  • 科学技術・工学: 化学反応のメカニズム解明や、生物学における因果関係の推論、工学設計における要件の最適化など、論理的な試行錯誤を要するタスクに有用です。例えば、与えられた化学物質の溶液のpHを計算する問題では、逐次思考により解離定数の適用→式の設定→対数計算と段階を追って正確に計算できます(OpenAIのデモでも適度に複雑な化学計算問題を解いてみせています​

    simonwillison.net

    )。工学では要求仕様を満たす設計パラメータを探索する問題などで、モデルが内部で試行錯誤しつつ最適解を提案する、といった応用が期待できます。
  • 高度な意思決定・プランニング: 複数の条件や制約を考慮しながら計画を立案するタスク(例えばプロジェクト計画の立案、複雑なゲームの戦略策定、ロボットの行動プラン生成など)で、逐次思考モデルはシナリオをシミュレーションしながらベストな一手を探せます​

    ai.stackexchange.com

    。これは、内部で「もしこうしたらどうなるか」を順に検討できるためで、単なるルールベースAIでは困難な柔軟な計画策定が可能になります。
  • データ解析・検証: 大量のデータや文章を扱う際、その中から推論を組み立てる分野でも応用可能です。例えば、データベースから取得した情報を吟味して矛盾をチェックする、論文の内容を要約しつつ批判的に評価する、といったタスクです。OpenAIのクックブックでは、o1を使ったデータバリデーション(与えられた表形式データが条件に合致するか何段階も検証する)や手順書の生成(知識ベースから段取りを組んだ手順を作る)といった高度な例が紹介されています​

    simonwillison.net

    。逐次思考により、モデルがデータ内のルールを一つずつ検証していくため、抜け漏れのないチェックや精緻な手順書作成が期待できます。

以上のように、論理思考や多段推論が要求される領域では逐次思考型モデルが活躍します。特に信頼性が重視される科学技術計算や、手順の厳密さが重要なエンタープライズ用途(データ検証や安全性チェックなど)では、回答の一貫性と正確さが向上するメリットがあります​

github.com

⚠️ 制約(逐次思考の有効でない場合や注意点): しかし逐次思考にも弱点や向かない場面があります。主なポイントを挙げます。

  • 単純なタスクではオーバーヘッドになる: 事実や定型的な質問に答えるだけなら、モデルがわざわざ長考する必要はありません​

    leehanchung.github.io

    。例えば「フランスの首都は?」程度の質問なら、従来モデル同様に即座に「パリ」と答えれば十分であり、逐次思考は不要です​

    leehanchung.github.io

    。o1モデルも内部で無駄な思考をなるべく省くようには改良されていますが、依然として簡易なQ&AではGPT-4系の方が高速で効率的です​

    datacamp.com

    。したがって高速応答が求められる場面シンプルな対話アプリでは、逐次思考型モデルはオーバースペックと言えます。
  • 創造的文章生成ではメリットが小さい: 随筆や物語生成、詩作などクリエイティブライティングの分野では、逐次思考は文章の論理性よりも表現力や想像力が重視されるため、劇的な利点はありません。事実、o1モデルのオープンエンドな文章作成能力はGPT-4oと同程度であり、論理力が文章の質を向上させるとは限らないことが示唆されています​

    leehanchung.github.io

    。ユーザのトーンやスタイルに合わせて美文を書くといったタスクでは、従来モデルと比べて優位性がないか、場合によっては逐次思考ゆえに冗長な表現になってしまう可能性もあります。これはモデルが慎重に考えるあまり、簡潔さや創造的ひらめきが損なわれることがあるためです。
  • 応答時間・計算資源の負荷: 前述の通り逐次思考には計算コストが伴います。リアルタイム性が要求される応用(例えば即時応答のチャットボット、音声アシスタント、同時通訳など)では、o1モデルの遅さは実用上の障壁になるでしょう​

    datacamp.com

    。また大規模な推論を頻繁に行うとAPI利用料も嵩みます。例えば、あるユーザは「o1モデルに長い推論をさせると合計何トークンくらい消費するのか」という問いをコミュニティで投げかけています​

    community.openai.com

    。このように、コストと速度の面で逐次思考はトレードオフがあり、必要な場合に限定して使うのが望ましいとされています。
  • 逐次思考しても解決できない問題: モデルがいくら手順を踏んでも、知識そのものが不足している場合や未知の問題では正答に至れません。例えば最新の時事問題や固有名詞の質問など、必要な情報がモデルに無い場合、逐次思考は役に立たず的外れな推論を長々と行ってしまう恐れがあります。また、論理パズルでも問題自体がトリックで解のないものや、前提に間違いが含まれる場合、モデルは堂々巡りする可能性があります。逐次思考はあくまでモデル内の論理整合性を高めるものであって、外部知識の不足や問題設定の誤りを補うものではないことに留意が必要です。

  • 思考過程の不透明性: 安全上の理由で推論過程がユーザに公開されないため​

    leehanchung.github.io

    、モデルがどのように結論に達したかを完全には検証できないという課題もあります。特にクリティカルな分野(医療診断や法的判断など)でAIの判断根拠を説明する必要がある場合、逐次思考モデルの内部プロセスがブラックボックスだと人間が妥当性を評価しにくいという指摘があります​

    simonwillison.net

    。もっとも、ChatGPT上では推論ステップのタイトル表示や要約が行われるようになりつつあり、この点は徐々に改善される可能性があります​

    simonwillison.net

    leehanchung.github.io

  • 一部タスクでの相性問題: 興味深いことに、o1モデルは明示的に「考えて答えて」と指示されると却って精度が落ちるという報告もあります​

    leehanchung.github.io

    。例えば「9.11と9.8のどちらが大きいか答えよ」という単純比較問題で、普通に答えれば80%正解できたのに、「ステップバイステップで考えて」と指示すると正答率が20%に落ちたという実験結果があります​

    leehanchung.github.io

    。これはモデルが内部で最適化された推論プロセスとユーザからの指示が干渉し、かえって混乱するためと考えられています​

    leehanchung.github.io

    。つまり、逐次思考モデルはユーザが細かく推論過程を指示しなくても自律的に考えるよう設計されており、逆に細かく指図されるとパフォーマンスが低下するケースがあるのです。このような相性の問題も念頭に置く必要があります。

以上のように、逐次思考型のo1モデルは画期的な推論能力を備える一方、その導入には用途適合性の見極めが重要です。適材適所で使えば強力なツールとなりますが、不適切な場面で使うと速度低下や冗長性といったデメリットが上回る可能性があります。OpenAI自身も「画像入力や関数呼び出し、高速応答が必要な用途ではGPT-4系列を使い、深い推論が必要で余裕がある場合にo1を使うのが望ましい」とドキュメントで述べています​

simonwillison.net

。ユーザはこのガイダンスに従い、逐次思考の利点が活きるタスクかどうかを判断してモデルを選択すると良いでしょう。

最後に、逐次思考を取り入れた推論モデルはまだ新しい概念であり、今後も改良と研究が続く見込みです。より高速な推論モデル(oシリーズの更なる発展形)や、思考過程を部分的にユーザに開示して透明性を高める試みなども期待されています。逐次思考そのものも、現在は直列的なテキスト生成ですが、将来的にはモデル内部で並列的にアイデアを検討したり、外部ツールを使って検証したりといった**「より賢い思考」へと発展していく可能性があります。現時点でもo1モデルは従来にはない問題解決力を示していますが、これはAIが人間のように「考える」**方向へ大きく一歩を踏み出したことを意味しており、今後の推論モデルの進化によって解決できる課題の幅はさらに広がっていくでしょう。

【参考資料】