3. 光量子コンピューティングの将来性と投資戦略

3.1 今後の技術進展と市場展望

光量子コンピューティング技術は今後10年で大きな進展が見込まれます。まず技術面では、単一光子源・光検出器の性能向上や光集積回路の高度化により、実用規模の光量子ビット数を持つプロセッサが現れるでしょう。PsiQuantum社は2027年までに誤り耐性を備えた実用機を動作させる計画を公表しており​

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、各社が後半ニーズ(後発技術ならではの飛躍)を狙って開発を加速しています。短期的には、クラウド上で動作する小規模なフォトニック量子デバイスが増え、研究者や企業が量子アルゴリズム実験に利用するケースが増加するでしょう。例えばXanadu社やQuandela社は既にクラウドサービスを展開済みで、今後はそれらの量子ビット数・安定性が漸進的に向上していくと考えられます。将来的には、光量子コンピュータが量子ネットワークと結合し、遠隔の量子計算ノードを光ファイバーで繋いで計算資源を共有するといった、新しいコンピューティング形態も登場する可能性があります​

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市場規模の展望としては、量子コンピューティング産業全体が2030年前後に急成長期に入ると予測されています。特に光量子分野は、2020年代後半から2030年代にかけて市場の一部を占め始め、2030年までに数十億ドル規模に達する可能性があります。ある調査では量子フォトニクス市場は2023年の4億ドルから2030年には33億ドルへ年平均成長率40%で拡大すると報告されています​

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。また別の予測でも、2025年時点の光量子市場は数億ドル規模ながら、2034年には300百万ドルに成長するとされています​

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。この成長は、製薬・金融・輸送など多様な業界で量子計算がゲームチェンジャーとなる期待に支えられています​

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。特に光量子コンピュータはネットワーク適性から通信インフラ産業との親和性も高く、新たな市場セグメント(例えば量子クラウドサービス、量子ネットワーク機器)を創出すると考えられます。もっとも、これらの予測は研究開発の成功が前提であり、技術的ブレークスルーの達成時期によって実現時期は変動し得ます。総じて、2030年前後には光量子コンピュータが早期利用可能な技術として姿を現し、市場も徐々に形成されていくという見通しが有力です。

3.2 個人投資家が投資可能な上場企業のリストアップ

光量子コンピューティング分野の多くの企業は未上場のスタートアップですが、直接・間接に関連する上場企業も存在します。以下に個人投資家が投資しやすい銘柄を挙げます。

  • Quantum Computing Inc (QCI) – 米国ナスダック上場(ティッカー: QUBT)。2022年にフォトニック量子計算機のスタートアップQPhoton社を買収し、光量子技術を取り込んだ量子コンピューティング企業です​

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    。同社は小型の光量子デバイス「Diracシリーズ」を開発中で、室温動作の量子計算機をオンプレミス提供可能にする計画を発表しています​

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    。量子分野の純粋持株としては数少ない光量子関連上場企業です。
  • NTT(日本電信電話) – 東証プライム上場(9432)。日本のNTTは独自に光量子コンピューティング研究を進めており、理研や東大と共同でフォトニック量子計算機を開発しました​

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    。NTT自体は巨大通信企業で量子事業はごく一部ですが、長期的に見ると光量子ネットワーク構想などフォトニクス分野での先行投資を行っており、間接的に光量子計算の恩恵を受ける可能性があります。
  • IonQ – NYSE上場(IONQ)。技術方式は異なりますが、量子コンピュータ専業で上場している企業として参考になります。IonQ社はイオントラップ方式の量子計算機を商用展開しており、将来的に光通信で量子ネットワークを構築する戦略も掲げています。光子は使いませんが、量子産業全体の成長に乗る企業として注目されます。
  • Rigetti Computing – ナスダック上場(RGTI)。超伝導量子ビット方式のスタートアップで、量子クラウドサービスを提供しています。フォトニクスではありませんが、上場している量子コンピュータ企業として投資対象に挙げられます。もっとも近年は技術目標の遅延から株価が低迷し、ハイリスクな銘柄となっています。
  • D-Wave Quantum – NYSE上場(QBTS)。量子アニーリング専業で、量子計算機とはアプローチが異なりますが、広義の量子コンピューティング企業として上場しています。フォトニックではありませんが、量子分野ETFなどでは組み入れられることがあります。
  • 大手ハイテク企業 – 例えばAlphabet (GOOGL)IBMIntelMicrosoftなどは量子コンピュータ研究に巨額投資しています。これらは上場企業として流動性が高く、量子分野の成功による恩恵を間接的に享受できます。ただし光量子に特化しているわけではなく、全体事業に占める割合も小さいため、純粋な光量子投資とは言えません。

以上のように、直接的な光量子コンピュータ銘柄はごく限られます。現時点ではQCIがほぼ唯一のフォトニクス純粋株に近い存在ですが、小型株ゆえボラティリティも高い点に注意が必要です。他は量子全般のテーマ株となります。個人投資家は、これら上場企業への投資を通じて間接的に光量子技術の成長に参加することができます。

3.3 未上場企業に対する投資可能な手段

未上場の光量子コンピューティング企業(PsiQuantum、Xanadu、Quandelaなど)に個人が直接投資することは難しいですが、いくつか代替手段があります。

  • ベンチャーキャピタル(VC)ファンド経由: 光量子分野は専門性が高く、有望スタートアップはVCによるプライベートラウンドで資金調達するケースが大半です。例えば欧州のQuantonationや米国のNYU Langone Quantum Venturesなど、量子技術特化型VCがあります。富裕層や機関投資家であれば、こうしたVCファンドにLP出資することで間接的に未上場株にアクセスできます。ただし一般個人にはハードルが高く、最低出資額や資格要件があります。
  • クラウドファンディング/私募債: 深刻技術系スタートアップではエクイティ型クラウドファンディングはまだ一般的でありませんが、国によっては可能性があります。英国などではInnovateUK系のスキームで個人投資を募る例もありました。もっとも光量子クラスのハード技術では基本的にVC主導となり、個人向け枠はほぼないのが現状です。
  • SPAC経由の上場: 量子コンピューティング業界では、IonQやRigettiがSPAC(特別買収目的会社)合併で上場しました。同様に、将来PsiQuantumやXanaduがSPAC上場する可能性も指摘されています。個人投資家は有望な未上場企業がSPAC上場の噂を得た際に、そのSPACに投資する戦略があります。しかしSPACは不確実性が高く、合併失敗のリスクもあるため慎重さが必要です。
  • 関連企業への投資: 未上場企業に大企業が出資している場合、その大企業株を買うことで間接的に利益を享受できます。例えばPsiQuantumにはMicrosoftやBlackRockが投資しています​

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    。BlackRockやBaillie Giffordなどは上場投信やファンドを通じ誰でも投資可能です。ただし大企業全体への投資となるため光量子に限定した効果は希薄です。

総じて、未上場の光量子スタートアップに個人がアクセスするのは非常に困難であり、現実的には上場を待つか、関連する公開ファンドを通じて間接的に参加する形になります。最近では量子技術をテーマとしたETF(後述)も登場しているため、それらを活用するのも一手です。

  • 量子コンピューティングETF: テーマ型ETFとして、米国のDefiance Quantum ETF(ティッカー: QTUM)などが挙げられます​

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    。QTUMは機械学習・量子計算関連60社以上で構成され、上記IonQやRigetti、QCIといった純粋量子株も組み入れています​

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    。ETFを利用すれば個別企業リスクを分散しつつ量子分野に投資できます。ただし現状これらETFの構成銘柄の多くは大手ハイテク企業で占められ、光量子スタートアップの寄与は限定的です。

3.4 リスクと成長可能性の分析

光量子コンピューティングへの投資はハイリスク・ハイリターンの典型と言えます。まずリスク面では、技術的実現が計画通りに進まない可能性が挙げられます。量子コンピュータ全般がまだ商用アプリケーションを確立できておらず、光量子方式はその中でも最先端で不確実性が高いです。開発の長期化により企業が資金枯渇するリスク、他の量子方式(超伝導やイオン)が先にブレークスルーを達成しマーケットを独占してしまうリスクもあります。また投資先企業が非上場の場合、流動性がなく資金が長期間ロックされる点にも注意が必要です。上場株であっても、IonQやRigettiのように業績未達で株価が急落する例もあり、ボラティリティは非常に高いです。量子分野は「将来大きなリターンをもたらすが、現状はVCでも最も遠い将来を見越した投資領域」と言われており​

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、投資回収までに10年以上を要する可能性もあります。

一方、成長可能性は極めて大きいです。量子コンピュータが実用化すれば、それは現代の計算機パラダイムを覆すゲームチェンジャーとなります。産業構造にも変革をもたらし、先行企業には莫大な利益機会が生まれるでしょう。特に光量子コンピュータは将来的に通信ネットワークと融合した新サービス(クラウド型量子計算や量子セキュア通信)を創出できるポテンシャルがあります。さらに、環境面でも低消費電力計算機として注目され、グリーンIT需要にマッチする可能性があります​

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。市場規模が2030年代に急拡大すれば、関連企業の企業価値は現在の数倍から数十倍に跳ね上がる可能性も否定できません。また各国政府の支援が厚く、倒産しても別企業が技術を引き継ぐなどプロジェクト継続性が比較的保たれやすい領域でもあります。このように、「成功すれば社会を一変させるが、成功確率は高くない」点が光量子計算への投資リスクとリターンの本質です​

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3.5 投資戦略の提言

以上を踏まえ、個人投資家が光量子コンピューティング分野にアプローチする際の戦略を提言します。

  • 長期視点と余裕資金で臨む: 光量子のみならず量子分野全般への投資は超長期戦です。短期間でのリターンを求めず、10年スパンで成長を見守る姿勢が必要です。したがって、生活資金とは切り離した余裕資金の一部を割り当てるのが望ましく、ポートフォリオの中で5~10%程度にとどめるなどリスク管理を徹底しましょう。
  • 分散投資: 個別の勝者を当てるのは難しいため、分散が重要です。先述のETFを活用したり、複数の量子関連株(例:IonQとQCI、NTTなど異なるタイプ)に分散投資することで、特定企業の失敗リスクを和らげます。分散先には光量子以外の量子企業も含め、量子業界全体の成長に賭ける形が現実的です。
  • 段階的な投資: 技術マイルストーンの達成状況を見ながら段階的に追加投資する方法も有効です。例えば「PsiQuantumがプロトタイプチップを公開したら投資額を増やす」「Quandelaの受注件数が増えてきたら買い増す」など、重要ニュースをトリガーにすることで、闇雲な先行投資を避けられます。
  • 情報収集とアップデート: この分野は日進月歩で状況が変わるため、常に最新情報を追うことが求められます。企業の技術発表や資金調達ニュース、政府の量子政策などにアンテナを張り、戦略を適宜アップデートしましょう。特に未上場企業については業界ニュースサイト(Quantum Computing ReportやThe Quantum Insiderなど)で動向を掴むのが有用です。
  • 大手企業で下支え: ハイリスク部分を補うために、比較的安定した大手テック株も組み合わせることを検討します。例えば通信インフラを持つNTTや、量子研究を進めるGoogle/Alphabetなどに投資しておけば、たとえ直近で光量子技術が成果を出せなくても他事業でカバーできます。また大手企業は有望スタートアップを将来買収する可能性もあり、間接的に恩恵を受けられます。
  • Exit戦略: 非常に先の話にはなりますが、もし投資対象企業が大きく成長し評価額が高騰した場合、段階的な利益確定も考えておきます。量子バブル的な過熱局面が来たら一部売却し元本を回収するなど、出口戦略も念頭に置くことで、長期投資のリスクを下げられます。

 

光量子コンピューティング分野は、「高い不確実性」と「潜在的リターン」の両極を併せ持つ領域です。他の資産で土台を固めつつ、この分野には将来へのオプション(選択肢)として適度に参加するのが賢明でしょう。適切なリスク管理を行いながら、将来の技術ブレークスルーによる果実を狙う戦略をとることをお勧めします。現時点では研究段階が長く感じられるかもしれませんが、各国政府や企業のコミットメントから判断すると、量子の時代は確実に迫っていると言えます。その中で光量子コンピューティングが重要な一翼を担う可能性は十分あるため、長期の成長物語に参加する意義は大きいでしょう。

参考文献: