世界のデータセンター総数(大規模 vs 中小規模)
世界全体で稼働中のデータセンター施設は、約1万1千拠点にのぼります。2023年末時点の推計では約10,978拠点が存在するとされており
、国別では米国が突出して多く(約5,381拠点)、欧州全体で約2,100拠点、日本で219拠点といった偏在が報告されています
。このうち、ハイパースケール(大規模)データセンターと分類されるものはごく一部で、約1,000拠点程度です。実際、ハイパースケールデータセンター施設数は2024年初頭に世界全体で1,000拠点を超えたと報じられています
。したがって、残りの約1万拠点余りは中小規模のデータセンター(企業のオンプレミス施設や、小規模・中規模のコロケーション施設など)に分類できます。
ハイパースケール級の施設は数としては全体の1割未満ですが、設置容量や処理能力では大きな割合を占めます。Synergy Research社の分析によれば、ハイパースケール事業者が全データセンターの**37%の容量を占め(2023年時点)
、トップ3社(後述)がその中でも容量の60%**を占める状況です
。一方、中小規模データセンターは数こそ多いものの、一拠点あたりの規模(設置ラック数や消費電力)は比較的小さい傾向があります。
主要なデータセンター所有者の一覧と特徴
ハイパースケールクラウド事業者(大規模クラウドプロバイダ)
ハイパースケール型のデータセンターを世界中に展開する主要クラウド事業者として、以下が挙げられます。
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Amazon Web Services (AWS) – 世界最大のクラウドサービス事業者です。世界各地に多数のデータセンターを自社保有し、現在36のリージョンと114のアベイラビリティゾーンを運用しています
(2023~2024年時点)。正確なデータセンター棟数は公開されていませんが、各リージョンに複数の大規模施設を持ち、全世界で数百棟規模のデータセンターを運用すると推定されます。米国本土に巨大な拠点を多数構えるほか、欧州(アイルランドやドイツ等)、アジア太平洋(日本、シンガポール、インド、オーストラリア等)、中東、南米など世界中に分散配置しているのが特徴です 。サービスの可用性を高めるため各リージョン内に複数のゾーン(独立したDC施設群)を持ち、カスタム設計のサーバやネットワークで大規模かつ効率的に運用されています。また再生可能エネルギー活用にも積極的で、後述のとおり2025年までに全施設を100%再エネ化する目標を掲げています。 -
Microsoft Azure – 世界第2位のクラウド基盤を提供するMicrosoft社の事業です。公式に「60以上のリージョンにわたり300以上のデータセンターを展開」していると公表されており
、グローバルな分散インフラが強みです。特に米国や欧州に多数の拠点があり、アジア(日本、東南アジア、インド、中国北部など※)、中南米、アフリカにもリージョン展開しています。Microsoftのデータセンターは高度なセキュリティとエンタープライズ向けの信頼性を備えつつ、サステナビリティ(環境持続性)に注力している点も特徴です。たとえば水の使用効率や冷却技術の改善、エネルギー効率の高い運用に加え、再生可能エネルギー調達にも積極姿勢を示しています(2025年までに全消費電力相当を再エネで賄う契約を締結する計画 )。 -
Google Cloud (Google) – Google社は自社検索サービスやYouTube等のためのインフラとして非常に大規模なデータセンター群を持ちつつ、Google Cloud Platformとしてクラウド事業も展開しています。全世界で約35~40のクラウドリージョンと100を超えるアベイラビリティゾーンを運用しており
、北米、欧州、アジア、南米、オーストラリアなどに大規模拠点があります。Googleのデータセンターは効率性と環境性能で知られ、平均的な施設でPUE1.1台という高いエネルギー効率を達成しています。また再生可能エネルギーの活用では業界をリードしており、2017年以降年間消費電力量相当の100%再生可能エネルギー調達を達成 。2030年までに**24時間365日カーボンフリー(時間毎に再生可能エネルギーのみで運用)**を目指すと公約しています 。地理的な拠点としては、米国ではアイオワ州やオレゴン州の大規模キャンパスが有名で、欧州ではベルギーやフィンランド、アジアでは台湾やシンガポールに主要DCがあります。 -
Alibaba Cloud (阿里雲) – 中国を代表するクラウド事業者で、近年グローバルにも拡大しています。Alibaba Cloudは世界で24〜29のリージョンと約74〜87の可用性ゾーンを有し
、特に中国本土に多数の大規模データセンターを展開しています(北京、張北、杭州、深圳など)。海外ではアジア太平洋(シンガポール、香港、シドニー、東京等)や中東、欧米にもリージョンを設け始めています。中国政府や国内企業需要に支えられた巨大施設が多いことが特徴で、AIや電子商取引向けのハイパフォーマンスコンピューティング需要にも対応しています。環境面では2030年までにサプライチェーンも含めたカーボンニュートラル達成(Scope3までの排出ゼロ)を目標に掲げています 。 -
IBM Cloud – IBM社のクラウドサービス基盤で、かつてSoftLayer社を買収した経緯から世界9地域に46以上のデータセンターを保有しています
。北米や欧州、アジアを中心に中規模な拠点を多数配置し、特に企業向けのホスティングやハイブリッドクラウド用途に利用されています。IBMはハイパースケール3社に比べ規模は劣りますが、企業のレガシー資産との親和性やメインフレーム接続など独自の強みがあります。特徴として、再生可能エネルギーの導入比率を着実に上げており2023年時点で消費電力の74%を再エネで賄ったと報告されています 。2030年までに90%再エネを目指すなど環境目標を掲げています 。 -
Oracle Cloud (OCI) – Oracle社のクラウド基盤で、データベースサービスをはじめとするエンタープライズ向けクラウド需要に対応しています。リージョン数は2023年時点で世界約40地域(北米、欧州、アジア、ラテンアメリカ、中東など)に拡大しており、オンプレミスとの連携や2地域ペア構成などが特徴です。Oracleは既に欧州のデータセンターで100%再生可能エネルギーを達成しており、2025年までに全世界の施設を100%再エネ化する計画です
。2022年時点では全体で80%の電力を再エネで賄っていました 。他社に比べ規模は小さいものの、高性能なハードウェア(GPU搭載インスタンスなど)やOracle DBとの親和性を強みに市場展開しています。
(※補足: Azureの中国リージョンはパートナー運営です。AlibabaやTencentも米国に拠点を設けるも規制で縮小など、各社事情がありますが概要のみ記載しています。)
施設数が多い主要コロケーション事業者(データセンター専業/通信事業者系)
大規模なデータセンターを多数保有し、他社に設備を貸し出す「コロケーション(データセンターサービス)事業者」の主要企業は以下の通りです。
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Equinix(エクイニクス) – アメリカに本社を置く世界最大のコロケーション事業者です。世界70以上の都市に約240~260拠点のIBXデータセンターを所有・運営しており
、北米・欧州・アジア太平洋・中南米・中東アフリカまで5大陸にわたるグローバル展開が特徴です。Equinixのデータセンターは**キャリアニュートラル(通信キャリアやクラウド各社が集まる相互接続拠点)として知られ、クラウド事業者のリージョン拠点や海底ケーブルの陸揚局に直結したものも多く、ネットワークハブとして機能しています。総市場シェアは世界の約13%**を占め首位 。環境面でも積極的で、2022年時点で全拠点の95%以上で再エネ電力を使用するなど持続可能性を追求しています(社内報告値)。 -
Digital Realty(デジタル・リアルティ) – 米国発の大手データセンター事業者で、Equinixに次ぐ規模を持ちます。世界50以上の都市圏で300拠点超のデータセンターを運営しており
、北米・欧州を中心に、アジア(日本・シンガポール等)や豪州、南米、アフリカにも展開しています。近年欧州のInterxion社を買収したことで欧州拠点が大幅増加しました。Digital Realtyは**大規模ホールセール型(ラック単位・ケージ単位で大口顧客に提供)から小規模コロケーションまで幅広いサービスを提供し、クラウド事業者のハイパースケール需要にも対応しています。市場シェアは世界約11%**で2位 。グリーン電力の導入にも積極的で、RE100に加盟し再エネ100%を目指すなど取り組みを行っています。 -
NTTグループ(NTT Global Data Centers他) – 日本のNTTグループ(NTTコミュニケーションズ他)が展開するデータセンター事業で、世界20ヶ国以上で150拠点超のデータセンターを運営すると公表しています
。日本国内(首都圏・関西圏・札幌や福岡など各地)に多数の大規模DCを持つほか、欧州(旧e-shelter社の拠点を含むドイツ・英国・フランス等)、インドやシンガポール、米国(旧RagingWire社)などグローバルに展開を拡大しています。信頼性の高い設備と日本企業との関係性を強みに、大企業や金融機関、クラウド事業者の需要を取り込んでいます。世界シェアは約**6%**で業界3位に位置付けられます 。NTTもグリーン電力利用を推進しており、例えば欧州拠点では再生可能エネルギー100%電力を達成済みとの報告もあります。 -
その他の主要コロケーション事業者 – 上記以外にも、地域ごとに大手事業者が存在します。例えば米国ではCyrusOneやCoreSite、Iron Mountain、Switchなどの事業者が多数のデータセンターを運営しています。欧州ではフランスのAtos(Eviden)やイギリスのTelehouse(KDDI傘下)などが主要プレイヤーです。中国では通信キャリア系の**中国電信(China Telecom)や中国移動(China Mobile)が国内各地に非常に多くのデータセンターを所有し、また民間コロケーションの万国数据(GDS Holdings)**なども台頭しています。これらの事業者もそれぞれ数十拠点規模の施設網を持ちますが、世界全体のシェアでは上位3社に次ぐ位置付けです。
データセンター1施設あたりの平均電力消費量(大規模 vs 中小規模)
大規模(ハイパースケール)データセンターでは、単一施設が消費・供給できる電力が非常に大きく、平均で数十メガワット(MW)規模に達します。一般にハイパースケール施設の標準的な電力容量は30~40MW程度とされており、近年では100MWを超える超大型施設の建設も始まっています
。例えばMicrosoftのシカゴ・データセンターは約19万平米の延床面積で最大198MWもの電力需要に対応可能とされ、米国の平均的な家庭約15万世帯分に相当する電力を単一施設で消費し得る計算です
。今後AI需要の拡大に伴い、一拠点あたり数百MW級のメガデータセンターも登場すると予想されています
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中小規模のデータセンターでは、一般に数MW程度の電力消費に収まるケースが多くなります。国際エネルギー機関(IEA)の分析によれば、平均的なデータセンターの電力需要は5~10MW規模とされています
。企業のオンプレミス(自社ビル内)のサーバルームや、小規模コロケーション施設ではそれ未満(数百kW~数MW)のレンジも多く、ラック数にして数十~数百本規模のものが該当します。一方で、ハイパースケールほどではなくとも比較的大きな都市型データセンター(大規模コロケーション施設など)では10~20MW級のものも存在し、中小とハイパースケールの中間に位置するようなケースもあります。総じて施設規模が大きいほど電力容量も大きい傾向にあり、昨今のクラウド・AI需要で大型化が進むハイパースケール施設群は、従来比でも桁違いの電力を一箇所で消費しています。
なお、大規模施設ほどエネルギー効率(PUE)が高い傾向も指摘されています。最新鋭の大型データセンターは高効率な機器や冷却システムを導入しており、小規模施設よりも電力あたりの計算処理効率が良いことが報告されています
。例えばGoogleやFacebookの大規模DCではPUE1.1前後を達成していますが、伝統的な企業サーバルームではPUE2.0近い場合もあります。このため「同じ計算負荷なら集約したハイパースケール型に移行したほうが総エネルギー消費は削減できる」との分析もあります
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データセンターにおける再生可能エネルギー利用割合(世界全体)
データセンター業界では近年、電力の再生可能エネルギー(再エネ)への転換が急速に進んでいます。特にハイパースケール級の主要テック企業が再エネ利用を強力に推進しており、その動きが世界全体の割合向上を牽引しています。具体的なポイントを挙げます。
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主要クラウド事業者の再エネ100%目標: GoogleやMicrosoft、Amazonなどトップクラウド企業は、2025~2030年までに自社データセンターを100%再生可能エネルギーで運用する目標を掲げています
。例えばMicrosoftは2025年までに全消費電力を再エネ調達で100%相当カバーすると宣言し、Googleも2030年までに全データセンターをカーボンフリー電力で稼働させる計画です 。Amazonも当初2030年目標だった100%再エネを前倒しして2025年に達成見込みとし、現時点で事業全体の電力の85%を再エネで賄っていると報告しています 。 -
再エネ調達の大規模化: これらハイパースケール事業者は、自社運営DCの電力需要を満たすため**大規模な再エネ発電プロジェクトとの電力購入契約(PPA)**を次々に締結しています。Amazon、Microsoft、Meta(Facebook)、Googleの4社は累計50GWもの再生可能エネルギー容量を契約済みであり
、その規模は一国(例えばスウェーデン)の総発電容量に匹敵します。実際、Amazonは世界各地で274件以上の再エネプロジェクトに出資しており、史上最大の再エネ購入企業となっています 。このような動きにより、データセンターで消費される電力の相当部分が再エネ由来となりつつあります。 -
大手企業の達成状況: 再エネ利用割合は既に各社で大きく伸長しています。Google、Microsoft、Appleなどは2021年時点で自社運用電力の100%を再エネで相殺しており
、Amazonも2021年時点で85%を達成、2023年には100%相当を調達できたとされています 。IBMは2023年に74%を再エネで賄い、2025年までに75%超、2030年までに90%に高める計画です 。Oracleも2022年に80%に到達し、ヨーロッパの拠点では既に100%再エネ運用済みです 。また中国のAlibabaやTencentも2030年前後までに100%再エネ化をコミットしています 。このようにハイパースケール事業者の大半が実質100%に近い電力をクリーン化しており、残る数年で達成予定です。 -
コロケーション事業者・その他の取り組み: コロケーション大手各社も同様に再エネ化を進めています。EquinixやDigital RealtyはRE100に加盟し、全拠点での再エネ100%運用を目標に掲げています。実際、Switch社(米国のデータセンター事業者)は自社の4施設で2016年以降一貫して100%再エネ運用を達成するなど
、一部の事業者は既に完全再エネ化済みです。もっとも、依然として全世界のデータセンターが一様に100%再エネという状況には達しておらず、特に規模の小さい事業者や途上国の施設では地域電力グリッドの制約もあり化石燃料由来電力に頼る部分が残ります。しかし再生可能エネルギーの価格低下や企業の脱炭素志向により、その割合は年々縮小しています。
以上を踏まえると、世界全体のデータセンター電力に占める再エネ比率は確実に上昇しています。正確な全球平均値を算出することは難しいものの、主要ハイパースケール企業だけでも膨大な電力消費をほぼ再エネ化しているため、2020年代前半時点で業界全体としても数十%規模の電力が再エネ由来になっていると推測されます。IEAの報告でも、データセンター需要の増大にもかかわらずIT業界の排出量増加が緩やかに留まっている背景には、事業者による再生可能エネルギー調達の拡大が大きく寄与していると分析されています
。今後もデータセンター新設・拡張の際には再エネ電源の確保が重要課題となっており、各国政府と業界の協調した取り組みにより世界のデータセンターをクリーンに運用する流れが一層強まっていくでしょう。
参考文献・出典:
- 世界のデータセンター拠点数・内訳:
- ハイパースケールDC数・容量シェア:
- 主要クラウド事業者の施設数・地域: 他
- 主要コロケーション事業者の施設数: 、市場シェア:
- データセンターの電力消費(大規模 vs 小規模):
- データセンター業界の再エネ利用動向: 他