3.出逢い
平成9年5月6日
GW明けの今日初部活動である。
なにも分からないまま俺とタケルは練習場へ向かった。といってもグランドの近くのベランダである。
この場所が3年間変わらず着替えや休憩した場所であった。
新部活動のため部室もなければ、決まった練習グランドもない。普通の中学校の陸上部は、グランドにトラックがあって練習する。
だが、野島中学校ではグランドはあるが、そこはサッカー部が使ってグランドとはいえず走れる場所がない。
だから、駅伝部は、外周を走る。
どこかというとスタート地点が保健室前ベランダで反時計周りにまず西に向かい野球グランド裏通って南に向かい東へバックストレート通って体育館裏通って戻ってくる。
口で説明するのは難しい。一周485㍍である。めっちゃ中途半端な距離だ。
ココの場所もなにひとつ変わらない。
練習場所としては環境はよくない。なぜならそのルートを全部の部活が使っている。
駅伝部にとって一番最悪だ。みんなはゆっくり走っているけど、駅伝部は走ることが部活なのだから速さが違う。
だから邪魔なのだ。駅伝が特別扱いはされない。俺らが気にすることだけ。
まず、一人一人自己紹介をした。
駅伝部員を紹介しよう。
3年1組
脇田 康志(ワキタ ヤスシ)
駅伝部主将
見た目はクールで無口。おとなしそう感じである。真面目なタイプ。めっちゃ足が速い。唯一の3年生である。
2年1組
野村 茜(ノムラ アカネ)
副主将
元気いっぱいでいつも笑顔。俺達1年生にちょっかいかけてくる姉御。頭がよく、運動神経もいい。人気者である。
1年1組
星 和彦(ホシ カズヒコ)
あだ名:カズ
同じ小学で双子の弟である。小さい時はどっちがカズなのか分からないほどやっぱ似ている。チーターみたいな走りをする。
1年1組
川下 将太(カワシタ ショウタ)
あだ名:ショウちゃん
見た感じひ弱そうな感じ。あんまりしゃべらない。だが俺とタケルとは仲良く話す。走りに一番安定感がある。
1年2組
原田 隆則(ハラダ タカノリ)
あだ名:タカ
いつも俺に対して偉そうである。よく叩かれる。イジメられてるわけではない。でも強いものには弱いタイプ。足が長く理想的なフォームで走る。
1年2組
谷川 健(タニガワ タケル)
あだ名:タケル
俺の大親友。いつもふざけて面白くないギャグをいう。いじられキャラだ。足が一番速く、粘り強い走りをする。
1年3組
飯山 雄介(イイヤマ ユウスケ)
あだ名:ユウスケ
イケメンで女たらし。体が白い。短距離が速い。彼女がいる。チームをまとめるのが上手で気持ちが熱い。
1年3組
藤木 彰(フジキ アキラ)
あだ名:アキラ
話すことが苦手。でもタケルのギャグに一早く突っ込みを入れる。生まれ持った走るセンスはピカいち。走るのがかっここいい。
1年3組
梅田 憲太郎(ウメダ ケンタロウ)
あだ名:ケン
福岡からの謎の転校生。見た目は間違いなくおっさんだ。博多弁が面白い。よくしゃべる。チームのムードメーカー。足は俺より遅い。
1年3組
田亀 愁二(タガメ シュウジ)
あだ名:たんめ
このストーリーの主人公である。走りに無縁な男。根性も負けず嫌いでもない。気持ちが一番弱い。
監督 立井 弘(タテイ ヒロシ)
数学の先生。めちゃくちゃ授業は怖い。この授業だけはみんな真剣で授業前に必ず全員机に座って予習している。部活の時は厳しい時は厳しいが笑いもある。理想の大人である。俺の恩師である。
監督とこの10人で『野島駅伝部』がスタートした。
『私たちが野島駅伝部をつくりました。』
つづく2.決断
中学入って約2週間くらい経って、やっと中学校生活にもなれ、クラスに溶け込み少しずつではあるけど友達も出来てきた。なかなかの俺にとってはいい中学校生活スタートとだと思う。
『なあ、たんめ。部活どうする?』
タケルだ。
『えっ!。むっん~。どうするか?』
と俺は答えた。
中学生と言えば青春時代である。
【青春=部活動】これは俺の勝手な思い込みだ。
俺は、運動神経全くないためいつも体育の通知表は、2か3だった。だからといって文学部に入ろうとは思わなかった。と言っても文学部は吹奏楽しかないのだが。吹奏楽は絶対無理で、体育よりセンスがなくいつも評価は2だった。
うちの中学校は特段強い部活はない。野球・バスケ・バレー・サッカー・卓球など、どの中学にでもある部活動ばかりである。
『やっぱ、卓球部入ろうぜ』
とタケルが言った。
『そうだな。』
と俺は返答した。
このとき、自分のなかであんまり乗り気がしていなかった。まだ、悩んでいたのだ。
なぜ、卓球部かというと他の部活よりはちょっとだけ自信があった。なぜなら小学生の時、卓球クラブに入っていたからだ。全然うまくないのだけど。それで、小学生のとき『一緒に卓球部入ろうよ。』と俺からタケルを誘っていた。
やっぱりタケルとは一緒の部活動に入りたいと思っていた。そこだけは自分の中で譲れなかった。
誰もが部活動は悩むと思う。コロコロ部活動は変えれないし、3年間続けていかないといけない。俺らは入部届けを見ながら悩んでいた。部活動入部届けの紙に部活動一覧が書いてあり、その中で目についた部活動があった。
それは【駅伝部】だ。
陸上部ではなく【駅伝部】。なんの違いなのかはそのときは分からなかった。恐らく目指すのは駅伝で長距離のみ。あと、今年度から出来た部活動だった。だから、先輩も2人しか入部していなかった。
”なんだろう?”この時何かを感じたことは覚えている。ただ、なんだったかは覚えていない。
俺はタケルに小さな声で
『駅伝部か?』
『う~っ?何?』
とタケルは言った。
『駅伝部入ろうぜ!』
俺ははっきりタケルに聞こえるように言った。
『マジで。なんで?』
と不思議そうにタケルは言った。
そりゃそうだ。卓球部に入る約束はしていたし、何より俺は足がめちゃくちゃ遅い。短距離も長距離も遅い。
だから駅伝部には絶対向かないのだ。それをタケルは誰より知っている。
俺は、その時の思いを素直にタケルに伝えた。
『分からないけど、強くなりたい。頑張りたい。自分を変えたい』
とそんな感じのことを言ったと思う。
でも、自分が熱くなっていた。たぶん今思い出すと一番は、
【己を変えたい】
と思っていた。卓球部に入っても変わるかもしれない。でも、自分の中で180度世界を変えたかった。
そんな俺にタケルは
『よし。一緒に駅伝部に入ろう』
と言ってくれた。素直にうれしかった。
多分普通だと、『え~。駅伝部?嫌だよ』と答えるだろう。そう言われれば『そうだよね。』と返したと思う。
でも、タケルは違っていた。あの時なぜ一緒に、駅伝部に入ってくれたか知らない。
でも、このときこそが、俺にとって人生の決断であり、運命を変えた瞬間であった。タケルもそうだと思う。
そして、二人は入部届けを先生に提出した。先生も『本当にいいの?』って言ってきた。普通希望して入るのだから言われない台詞だ。他の友達も何でって思っていただろう。
そして、GW明け5月6日 初部活動にタケルと行った。
あの日にみんなと出逢えたことこそがキセキなんじゃないかと思う。
これから俺達が起こすキセキを、俺達は知らずにいた。
つづく
1.はじまり
平成9年4月10日
この日から全てが始まっていた。
今日は待ちにまった中学入学式である。みんなは入学式にどんな思い出があるだろうか?
俺には楽しみよりも不安ばかり。俺の中学校は、宮崎県の中央にある小さな野島町にという町に2つあるうちの一つで野島中学校という。野島中は二つの小学校卒業生が集まって入学する学校である。
だから半分は知らない子で半分は知ってる子。
朝、準備している時に兄貴のお下がりの制服をきてなんだかちょっとだけ大人になった気分になった。
俺の兄弟姉妹は、俺含め7人である。みんなは驚くが俺はあんま気にしていない。
俺の中で当たり前だけどなにかって感じだ。兄、姉、俺、弟、妹、弟、弟の順である。
忘れていたが、俺の名前は田亀愁二(タガメ シュウジ)という。
みんなから『たんめ』 と呼ばれいる。なぜそう呼ばれるようになったかは忘れた。
ただ、すごく気に入っている。
一生ずっと呼ばれていたいと思う。
入学式は、大体親父と二人である。父でも母でもいいが両方はまずない。兄弟が多いのでしかたいことである。
親父はお酒が大好きで毎晩のように飲んでいる。だからかは知らないがいつも酔って怒っていた。だから、小学校のころは怖くて嫌いだった。
母は強く、よく7人も産んで立派に育てたと今になって思う。
大黒柱でとても大きな存在の父親とやさしく逞しい母親がいるから俺がいる。
親にはいつも感謝だ。大人になった今、この世で一番の理解者であり、尊敬している存在である。
学校まで車で向かってるとき、凄くドキドキしている。
友達できるのか、勉強についていけるのか等色々考えてしまう。
車から降りて校内に入ったときに後ろから声が聞こえた。
『おはよう!たんめ』
と突然後ろから聞こえた。
ちょっと気付くのに時間が掛かったがアイツだと声だけで気づいた。
゛谷川 健(タニガワ タケル)゛である。
みんなから『タケル』とそのまま名前で呼ばれている。俺にとっては一番の大親友である。
向こうはどう思ってるか知らないが・・・。
『よっぉ!おはよう。タケル』
『おはようございます。』
タケルは父にも丁寧に挨拶した。俺もタケルの父親に挨拶をした。
なんだろう?こんな新たに始まる生活なのに、変わらない関係がココにはある。
このタケルとの関係性、大親友であることは一生変わらないとこの時から感じていた。
二人で校門を潜り正面玄関へ行った。玄関通った目の前にでかくクラス分け名簿が貼ってあった。
残念ながらタケルとは違うクラスだ。タケルが1年2組で、俺が1年3組だった。
でも、自分の心の中だけで喜んだことがあった。
大好きなみちるちゃん(本名 佐藤みちる)と同じクラスであったこと。
みちるちゃんは真面目で優等生タイプでみんなにやさしく元気な女の子である。
彼女は小学5年の時、神奈川から親の都合で引っ越してきた都会人である。
標準語を話してるのを生で聞いたのは彼女が初めてだった。
最初は気にもなっていなかったのだが、彼女だけが俺のことを『たんめちゃん』と呼ぶ。
それがなんだかうれしくて好きになった。俺は単純な男の子である。
親と別れ、タケルと別れ3組のクラスに入った。
入ってすぐ自分の席を探した。中学校からは小学校での誕生日順ではなく、名前順であった。
俺は”たがめ”であるので予想だと真ん中よりちょっとまえくらいであるとは思っていた。
クラスは3クラスあり、一クラス33名(男-15名 女-18名)ずつであった。
予想とは違い出席番号はまさかの男子で5番目であった。
小学校ではいつも8番目だったのが5番目になってなんだかうれしかった。
初めなので席は出席番号であった。席は最悪であった。一番後ろの右端であった。
みんなはラッキーだと感じるだろうが、俺にとっては最悪だ。
それは周りに知っている人がいなかったからだ。5人の班を作っても知らない子ばかりだ。
だからすぐに友達の林くんのとこにいった。
林くんの席はちょうど真ん中くらいで出席番号9番目だった。林くんは幼稚園から知っている仲である。
『おはよう』(俺)
『おはよう。たんめ』(林くん)
『一緒のクラスになれてよかったね。』(俺)
『そうだね』(林くん)
と、いつもの感じで話す。やっぱりすぐには知らない子とは仲良く話せない。
俺はものすごく人見知りなとこがある。でも、仲良くなればとことん男臭く付き合えるタイプだ。
4月10日は一日が長く、でも今となってはまったく覚えていない入学式。
この日からなにもかもが始まった。出逢いはココからだった。これから始まる青春を俺達はまだ知らずにいた。
つづく
以上です。まだまだ、書きますのでよろしくお願いします。読んで次読みたいのであるばアメンバーになってください。
