「寂しくなるな」
「ねえ。昨日もスターでいたとよ」
「油もんばっか食っとってさ。サラダも多めにしてさ、ドレッシングもかけんと出しとったのよ」

睨むような視線でメニューを置いていった後、少し間を空け、私はウインナーコーヒーを頼んだ。
「ウインナーコーヒーね」
屈託のない笑顔で注文を取る。

いつもの客が亡くなったらしい。
白い杖を持った常連がマスターと話している。
マスターの温かく少し嗄れた声を聞き祖母を思い出す。
「あせらず楽しみながらがんばれ。元気の源です。嬉しいです。」
3年前に届いた祖母からのメールを3年ぶりに開いてみる。
私がどれほど祖母を好きだったか。祖母のためにと思うと、真っ直ぐ生きねばと思う。不意に思い出すのだ。

彼此、もう4時間ほど居座っている。
東京から宮崎まで、帆船で来た。東京港、串本に停泊しながら、12日間かかった。
途中、4メートルの時化に襲われ、酷い船酔いを経験した。私にとってはこれが初めての航海であった。
夜の海は荒れ狂い、この世のものとは思えない音が鳴り響いていた。ウイングに出て下を覗き込むと、無限の闇に吸い込まれそうになる。
だが、空には満天の星空。

海運会社に入社し、現在は航海士になるための教育機関に通っている。乗り込んだ船は海王丸という練習船。
101人の実習生を乗せ、講義・航海演習をしながら各地を回る。

久しぶりに陸地に上がると、平凡な日常が尊いものに見えるので良い。船乗りの特権である。

外は雨。1時間ほど前から降り始めた。
明日からはまた海に出る。次の目的地は鹿児島。
菓子を買って帰ろう。