波と貝とカニの話
朝4時、まだ空気が夜の名残をまとっているうちに出発。目的地は、いつもの“潮見”。車を走らせていると、徐々に空がほどけてきて、遠くの水平線がうっすら光を帯びる。7時にはバイパス下、例のビーチチェアーの前にたどり着いた。
波は腰くらい。程よいサイズだが、海にはすでにサーファーがわんさか浮かんでいる。潮のリズムを測りながら、ようやく1本、横に抜けられる波をキャッチ。風もない、夏のはじまりの朝。
午後、もう一度海に入ろうとしたら、状況が一変していた。波は消え、サーファーたちもまばらに。ふと足元を見ると、なにやらバケツを持った人たちがしゃがみ込んでいる。潮干狩りだ。何年ぶりだろう、自分もつい、車に積んでいたバケツとカギテを手に取って、彼らの真似をするように砂を掘り始めた。
最初は全く手応えがなかった。掘っても掘っても、ただの湿った砂ばかり。それでも気まぐれに適当に引っかいていると、「コツン」と小さな感触。指で慎重に探ると、つるりとした硬さ——貝だ。夢中で掻いていると、たまに違和感のある硬さがある。慎重に指を伸ばすと、今度はガブッと挟まれた。カニだ。不意打ちの痛みに思わず声が出る。
なんだかんだで30分ほどで10個ほどの貝がとれた。今日の収穫は、波1本と、貝10個、そしてカニの洗礼1回。予想外の展開だったけれど、こういう日も悪くない。波を待つだけじゃない海の楽しみ方を、ちょっとだけ思い出した気がする。
