弁理士 田中智雄のブログ

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不正競争防止法は強力ですが、「それが『営業秘密』であることの立証(秘密管理性など)」という高いハードルがあります。一方、会社法は「取締役としての不適切な振る舞い」を突くため、初動のスピード感で勝ります。

「そのデータにはパスワードがかかっていたか?」「アクセス制限は適切だったか?」という秘密管理性の立証に時間がかかる不競法に対して、「会社の重要データを私的ストレージに移す行為」そのものが、会社の利益を害する法令・定款違反として、情報の中身を精査する前段階で「アウト」と言いやすいのが会社法の善管注意義務です。

A社からB社への吸収分割

  1. 3月1日(効力発生日): A社の特許がB社に包括承継される(B社が真の権利者)。

  2. 3月10日(名義はAのまま): A社が、事情を知らない悪意の第三者C社に、同じ特許を売却する契約を結ぶ。

  3. 3月15日: C社が特許庁で移転登録を完了させる。

  4. 3月20日: B社がようやく移転登録をしようとする。

     

    この場合、先に登録を備えたC社が勝ちます。 たとえB社が法律上の真の権利者であっても、一般承継による権利取得を第三者に対抗するためには、遅滞なく届出(登録)を行う必要があるからです。B社はA社に対して損害賠償請求はできますが、特許権自体は取り戻せない可能性が高くなります。

    このリスクを最小化するには、組織再編のスケジュールに特許庁への手続きを完全に同期させる必要があります。

    「包括承継だから安心」と高をくくらず、効力発生日と同時に特許庁へ駆け込める準備をしておくことがリスクヘッジの極意と言えます。

一般財団法人は、貸借対照表上の純資産額が300万円を下回った状態が2期連続すると、法律上強制的に解散します。特許権を3,000万円と評価して拠出し、財団を設立したとします。特許権の法定耐用年数は8年ですので、単純計算で毎年375万円ずつ価値が減っていきます。ライセンス収入などの現金収入をすべて研究助成(目的事業)に使い切ってしまうと、特許の価値が減るスピードに純資産の目減りが耐えられず、数年で法人が消滅してしまいます。

そして、もし、特許が無効になったら、その資産価値は一気にゼロになります。1期目で純資産が300万円を割り込み、2期目の決算までに代わりの財産を補充できなければ、その時点で法人の命脈は尽きます。

対策として、例えば、ライセンス収入をすべて使い切るのではなく、一定割合を強制的に「一般正味財産(現金)」として積み立てるルールを定款に定めておきます。

個人で保有する特許権が権利者死亡により相続されると、相続人の1人でもハンコを押さないと誰にも使わせることができず塩漬け特許になります。このリスクを一般財団法人の遺言設立で回避します。

例えば、

特定の難病治療に関する重要な特許を保有するA氏が自分の死後、親族が権利を争って開発が止まることを恐れ、以下のスキームを実行します。「私の死後、特許権と300万円を拠出し、難病研究支援を目的とする『A記念財団』を設立する」と遺言し、相続人に権利を分け与えるのではなく、「法人(財団)」という一つの人格に権利を集中させます。定款に「評議員のうち1名は、外部の弁理士から選任する」と定めます。これにより、親族の感情論ではなく、プロの視点でライセンスの可否を判断できる体制を作ります。

遺言により設立された財団は、財団が窓口となり、一元的にライセンス交渉を行い、得られたロイヤリティを、定款に定めた「研究助成」や「育英金」に充て、財団が特許維持年金を支払い続けることで、技術が20年間(または延長期間)守られ、その間にさらなる改良発明を財団名義で出願することも可能になります。

Webページ作成プラットフォームにおいて、AI機能で生成された素材については「他者の権利を侵害しないことの保証」をユーザー側に求めているのが一般的です。AIが学習データとして他者の著作物を使用しており、生成された画像やコードが既存のサイトと酷似していた場合、その責任はプラットフォームではなく、「公開したユーザー(または制作会社)」が負うことになります。

制作会社は、どのような指示を与え、人間がどう介在したかのログを保存しておき、将来「創作的寄与」を証明する際の有力な証拠を残す、契約書において「一部にAI生成物を使用すること」「AI特有の権利不確定リスクがあること」をクライアントに明示し、免責または責任範囲の合意を得ておく、AIが生成した画像や重要なコードブロックについては、Google画像検索やGitHub等で既存の著作物と酷似していないか「検品」を行う工程をルーチン化する、ことで会社法上の善管注意義務を果たしていることを明確化します。

吸収分割が行われると、分割契約で定めた権利義務は、承継会社に「一括して(包括的に)」引き継がれます。これは個別の譲渡手続きを簡略化するための法律上の大原則です。

特許法でも、通常実施権は「その実施の事業とともにする場合」には、相手方の承諾がなくても承継できるとされています。

しかし、現実のライセンス契約にはほぼ確実に「第三者への譲渡禁止(No Assignment)」「Change of Control(支配権の変更)」に関する条項が入っています。

例えば、

メーカーA社は、ベンチャーB社から「AI画像解析エンジン」の通常実施権を得て、自社のデジカメ事業で使用していました。

A社はデジカメ事業を、新設した子会社C社に吸収分割で承継させました。

A社は、これは会社分割(包括承継)だから、契約上の『譲渡』には当たらない。B社の承諾なしにC社でもAIエンジンを使い続ける権利がある、と主張し、B社は、契約書には『いかなる形式でも第三者に承継させてはならない』とある。C社は別法人(第三者)だ。使い続けたいなら、ライセンス料を再交渉しろ、と反論します。

裁判例では、合併や会社分割による承継は「譲渡」には含まれない、と解釈される傾向が伝統的にありました。しかし、最近の実務では「契約書の文言」が優先されるケースが非常に多いです。

 

ホールディングス化において、バラバラに散らばった特許権を「知財管理会社」や「親会社」に集約することは、ライセンス収入の一元管理や、係争時の機動性を高めるための定石です。

通常、特許を移転するには「譲渡(売買)」が使われますが、グループ内再編ではキャッシュを動かしたくない場合があります。

そこで特許権の現物配当を行います。

 

実務で最も揉めるのは、「あえて特許を出さない」という判断をした時です。

「予算が足りないから出願を遅らせる」あるいは「製法ノウハウがバレるのを防ぐために特許化せず秘匿する(ブラックボックス化)」。これらは立派な知財戦略です。

しかし、後に他社に特許を取られたり、ノウハウが流出したりした際、「なぜあの時、手を打たなかったのか!」と批判の矢面に立たされます。

そこで判断のプロセスを取締役会議事録に刻み込んでおきます。そうすれば、後から「不作為」を責められても、「あの時点で、これだけの情報を基に、これだけの議論をして、合理的に判断した」と証明でき、任務懈怠の責任を回避できます。

「エンジニアへの報奨金が少なすぎて訴えられる」という事態は、会社にとって数億円〜数十億円の損失を招く可能性があり、これを放置することは取締役の善管注意義務違反に直結します。

合理的な「職務発明規定」を整備せず、多額の賠償支払いを余儀なくされた場合、取締役は「リスク管理体制を構築していなかった」として、会社に対して損害賠償責任を負う可能性があります。

訴訟になった際、裁判所は「取締役会がどれだけ真剣にこのルールを検討したか」を議事録で確認します。議事録が「職務発明規定の改定を承認した」という一行だけで終わっているのと、策定プロセスが詳細に記されているのとでは、取締役の免責(善管注意義務を果たしたか)の判断が180度変わります。

通常、株式会社の責任は「有限責任」であり、役員が個人の財布から会社の借金を返す必要はありません。しかし、役員が第三者(被害を受けた商標権者など)に対して直接、個人の資産で賠償する義務を負う場合があります。

商標侵害のケースにおいて、裁判所が「社長、それはあまりにも不注意ですよ」と判断するポイントは、主に「事前の調査」の有無にあります。「現代のビジネスにおいて、名称を使用する前に商標権の有無を確認するのはイロハのイである。それを怠ったのは、取締役としての善管注意義務に著しく違反する(=重大な過失)」と判断されやすいからです。