弁理士 田中智雄のブログ

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海外経験が豊富な弁理士田中智雄が特許・商標・著作権など知的財産に関する課題を解決するための助言をします

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発明者は人間に限られます。AIが自律的に出力しただけのアイデアは、現時点では「発明者不在」として拒絶・無効の対象となります。

ここで重要になるのが、「創作的寄与」の分断点です。

「〇〇の課題を解決する新材料を10個提案して」という程度のプロンプトは、単なる「発注」であり、創作的寄与とはみなされません。

具体的な数値範囲、特定の化学構造の組み合わせ、あるいは「Aという事象とBという法則を組み合わせて解決策を提示せよ」といった、技術的思想の核心部分を人間が入力した場合は、その人間が発明者となる余地があります。

AIが1,000個出した案の中から、人間が専門知識に基づき「これが最適だ」と選択し、さらに実験データで裏付けを行った場合、その「選択と検証」のプロセスに創作的寄与が認められます。

現代のシステム開発において、ソースコードやログは自社サーバーではなく、海外企業のクラウドやSaaSに存在することが一般的です。

民事訴訟法における「所持」は、金庫の中の書類のように、対象物を物理的に支配していることを前提としています。しかし、クラウドデータの場合、サーバー自体は海外のデータセンターにあり、当事者の手元には端末しかありません。

実務上は「物理的にどこにあるか」よりも、「そのデータを意のままにダウンロードしたり、表示したりできる権限(アクセス権)を持っているか」が重視されます。

例えば、特許侵害が疑われる企業のエンジニアが、GitHubに非公開リポジトリを持ち、日常的にコードを編集・取得できる状態にあれば、その企業はソースコードを「所持」しているとみなされます。裁判所は「GitHub社」ではなく、その「利用企業」に対して文書提出命令を出すことが可能です。

 

法廷には「傍聴人」がいます。もし弁護士が「このソースコードの120行目のアルゴリズムが……」と口頭で詳しく説明すれば、秘密は傍聴人の耳に筒抜けです。

詳細な営業秘密を記載した準備書面を提出し、法廷では「準備書面の通り陳述します」と一言述べるだけに留めます。

裁判官と相手方(秘密保持命令下にある当事者)は手元の端末で中身を確認できますが、傍聴人の耳には何も入らないという、実質的な非公開状態を作り出せます。

さらに、閲覧制限を申し立てて当事者以外も見られないようにします。

特許権者にとって、侵害を見つけた瞬間に警告するよりも、「相手のビジネスが軌道に乗って、売上が最大化したタイミングで訴える」ほうが、計算上の損害賠償額は跳ね上がります。

権利者は3年前から侵害を知っていた。

容易に警告できたのに、あえて沈黙を守った。

その沈黙が、被告に「この技術は使っても大丈夫だ」という誤った安心感を与え、損害を拡大させた。

裁判官は「容易に損害の発生を防止できた。あえて放置して損害を拡大させたことは、信義則上の義務(損害軽減義務)に反する。」として、過失相殺を適用し賠償額を大幅にカットする判決を出すかもしれません。

共有者と仲が悪くなったので共有関係を解消したい。持分を処分する場合は共有者の同意が必要である特許権をどのように分割するのか。

特許法は「他の共有者の同意がなければ持分を譲渡できない」と規定しています。共有者に分割を求めても同意してくれなければ共有関係を解消することはできません。

裁判所の形式的形成訴訟による分割の判決は特許法の制限を上書きします。当事者間の勝手な処分を制限する特許法は、裁判所による公的介入に服することになります。

契約書で日本が専属管轄と決めていても、被告が他国の裁判所で議論に乗った瞬間、当事者はこの裁判所でやることに同意したとみなされ、契約上の合意が上書きされてしまいます。

現地の弁護士は、往々にして「中身で勝てるならここ(現地)で戦いましょう」と提案してくることがあります。しかし、遠隔地での訴訟コストや言語の壁、知財法制度の違いを考慮し、「何が何でも日本の管轄へ戻す」という方針を最初から強く指示しておく必要があります。

AIエージェントが、A事業者の技術開発のために、あるオープンソースプロジェクトに参加しようとし、相手方のAI(または人間)とチャットで交渉しました。

相手方は「このコードを使いたければ、Aの持っている関連特許も我々に使わせてくれ(クロスライセンス)」と要求し、A事業者のAIが「了解。こちらの開発効率が上がるなら合意する」とした場合、AIが「A事業者の代理」と言わなくても、この合意はA事業者を縛ります。

A事業者が「一部の非公開特許」だけを想定していても、AIが結んだ契約の文言が「本人が保有する全特許」を対象としていた場合、商法504条が橋渡し役となって、A事業者の基幹知財が法的・自動的にライセンスアウトされてしまうリスクがあります。

 

施錠された会議室にプロトタイプを置いて、担当者が昼食に出た隙に盗まれた。ホテル側は「自分たちに過失がなかったこと」を証明しない限り、損害賠償責任を免れません。もしフロントに預けていたなら、不可抗力でない限り逃げられません。

一方で、不競法における営業秘密として保護されるには、「秘密管理性(アクセス制限や客観的な秘密認識)」が必要です。

裁判所は、秘密管理性を「社会通念上合理的な努力」によって判断します。 「ホテルの会議室に、自社の従業員が誰もいない状態で、かつホテル従業員がマスターキーで入れる状態で放置した」という事実は、「秘密として管理する意思が欠けていた」とみなされる強力な証拠になり得ます。

「ホテルが責任を負うほどの盗難事件であっても、知財法上は『管理が甘い』と切り捨てられる」という逆転現象が起こります。

不正競争防止法は強力ですが、「それが『営業秘密』であることの立証(秘密管理性など)」という高いハードルがあります。一方、会社法は「取締役としての不適切な振る舞い」を突くため、初動のスピード感で勝ります。

「そのデータにはパスワードがかかっていたか?」「アクセス制限は適切だったか?」という秘密管理性の立証に時間がかかる不競法に対して、「会社の重要データを私的ストレージに移す行為」そのものが、会社の利益を害する法令・定款違反として、情報の中身を精査する前段階で「アウト」と言いやすいのが会社法の善管注意義務です。

A社からB社への吸収分割

  1. 3月1日(効力発生日): A社の特許がB社に包括承継される(B社が真の権利者)。

  2. 3月10日(名義はAのまま): A社が、事情を知らない悪意の第三者C社に、同じ特許を売却する契約を結ぶ。

  3. 3月15日: C社が特許庁で移転登録を完了させる。

  4. 3月20日: B社がようやく移転登録をしようとする。

     

    この場合、先に登録を備えたC社が勝ちます。 たとえB社が法律上の真の権利者であっても、一般承継による権利取得を第三者に対抗するためには、遅滞なく届出(登録)を行う必要があるからです。B社はA社に対して損害賠償請求はできますが、特許権自体は取り戻せない可能性が高くなります。

    このリスクを最小化するには、組織再編のスケジュールに特許庁への手続きを完全に同期させる必要があります。

    「包括承継だから安心」と高をくくらず、効力発生日と同時に特許庁へ駆け込める準備をしておくことがリスクヘッジの極意と言えます。