自殺専用特急 ~ DEATH EXPRESS 3話 (夏詩の旅人2 リブート篇) | Tanaka-KOZOのブログ

Tanaka-KOZOのブログ

★ついにデビュー13周年!★2013年5月3日2ndアルバムリリース!★有線リクエストもOn Air中!



 2022年 5月
東ヨーロッパに位置する国家「ウクレイラ」は、2月からルシアの軍事侵攻を受け続け、ついに「ハリキウ」にもルシア軍が入って来た。

「キーフ」に続く第2の都市「ハリキウ」は北東部に位置し、人口140万人が住んでいた。

しかし、「ハリキウ」はルシア国境付近に位置する事もあって、街の被害は甚大なものとなっていた。

以前は、華やかで人通りの多い町であったが、今はその面影も残す事なく、市部全体は徹底的に破壊されていた。

市民たちの大半は、中部にあるポルタバへ避難して行ったが、一部の逃げ遅れた市民たちは、まだハリキウに数百名取り残されていたのであった。

逃げ遅れた市民たちは、町にある大型工場施設の中へ避難し、ウクレイラ軍からの救出を待っていた。



そんな中、ウクレイラ青年のイヴァンは、ルシアからの攻撃で破壊された病院での生き残りである3人を、避難場所の工場まで送り届けている最中であった。

イヴァンが送り届けているのは、老人のマルーシャばあさんに、その孫たちのレーシャとユーリイであった。

その子供たちの両親は、ルシアからの砲撃で亡くなってしまったが、病院に入院中であった祖母のマルーシャは、奇跡的に助かった。

しかし、ガレキの下敷きになったマルーシャは、足を骨折してしまい、車椅子を余儀なくされた。

孫娘のレーシャは、急いでマルーシャが座る車椅子を押して走った。
それは、すぐ近くまで銃を持ったルシア兵が追いかけて来ているからだ。

「はぁ、はぁ、はぁ…、姉ちゃん、早くッ!、早くッ!」
レーシャの弟のユーリイが、恐怖で顔を強張らせながら走って言う。



「分かってるッ!、はッ、はッ、はッ…!」
ユーリイに、力強く言うレーシャ。

彼女は、もうこれ以上、家族を亡くしたくない思いで、懸命にマルーシャの車椅子を押して走った!

「急げッ!、急げッ!」
ウクレイラ青年のイヴァンは、レーシャとユーリイにそう叫んだ。

彼のすぐ後ろには、銃を構えたルシア兵士数名が、獲物を追うハンターの様な目つきで迫って来ていた!

ガーーンンッ!

その時、ルシア兵が銃を発砲した!

「うぁッ!」
弾はイヴァンの右腿を貫通した!

「うう…ッ」
跪くイヴァン。そして彼が続けて叫ぶ!

「逃げろぉッ!、レーシャッ!、ユーリイッ!」(イヴァン)

ガンッ!

「うッ!」
逃げろと叫ぶイヴァンの頬を、銃把部分で殴りつけるルシア兵士。

「おらッ!、立てよッ!」
ルシア兵が銃を突きつけ、イヴァンを拘束する。

「あッ!」
そして、車椅子を押して走るレーシャは、そう言うと立ち止まった!
それは彼女の目の前に、先回りしていたルシア兵2名が、立ちふさがったからだ。

「この子達に手を出すんじゃないよッ!」
車椅子の老婆マルーシャが、目の前に立ちふさがるルシア兵に怒鳴った。

「へっへっへっ…」
ニタニタと笑いながらルシア兵が、3人に近づく。

「ほれ…、お前たちにこれをやるよ…」
マルーシャばあさんが、そう言って小さな袋をルシア兵に渡すと、ニヤッと笑みを浮かべた。

「何だ、これは…?」
小袋を手にしたルシア兵が言う。



「ヒマワリの種じゃよ…(笑)、お前にそれを渡すから、ずっと持っているが良い…」
「すると、この後、銃で撃たれて死んだお前さんの死体が、やがてその土地に、美しいヒマワリの花を咲かす事だろうよ…(笑)」

マルーシャはそう言うと、ヒヒヒ…と、笑い出した。

「このッ、クソババアがぁッ!」
マルーシャの言葉にキレた兵士が、車椅子をなぎ倒した!

ガシャーーンンッ!

「ぎゃぁッ!」

マルーシャが叫ぶ!
老婆は、地面に胸を強く叩き付けた!

「おばあちゃんッ!」
孫娘と孫息子のレーシャと、ユーリイが叫ぶ!

「お前は、こっち来いッ!」
ルシア兵の1人が、レーシャの腕を掴んで言う。

「嫌ぁッ!、離してぇッ!」
腕を掴まれた涙目のレーシャが叫ぶ。

「姉ちゃんを離せぇぇッ!」
弟のユーリイが、ルシア兵に掴み掛かった!

ガブッ!

レーシャを掴む、ルシア兵の手首に嚙みついたユーリイ。

「ぎゃあッ!」
その痛みで、手を離すルシア兵。

「このガキッ!」

バキッ!

「うぁッ!」(ユーリイ)

「ユーリイッ!」(驚く、レーシャ)

ルシア兵は10歳のユーリイにも、手加減無しの鉄拳を喰らわせた!

「わああああ…ッ!」
泣き叫ぶユーリイ。

「何て酷い事するのよぉッ!」
レーシャが殴ったルシア兵に掴み掛かる!

「うるせぇッ!」

バシッ!

ルシア兵から、強烈な平手打ちを喰らったレーシャ!

「ああ~~んん…!ッ、ああ~~んんッ!」
レーシャが泣き叫ぶ。

「ほら…、立てよ…(笑)」
そう言って、レーシャの腕を掴んで立たせるルシア兵士。

「ああ~~んん…!ッ、ああ~~んんッ!」(レーシャ)

「へへへ…、俺…、オンナとやんの久々だよ…(笑)」
そう仲間の兵士に言う男。

「へへへ…、お前の後で良いからさ…、俺にもヤラセロよ…(笑)」

「良いけど、後始末はお前がやっとけよな…」

「分かった、分かった…(笑)」

彼らの言う、“後始末”とは、レイプを終えた後、その女性を殺す行為の事である。

「わああああ…ッ!、わああああ…ッ!」
泣き叫ぶ、弟のユーリイ。

「おい、ガキの方はどうするよ…?」
レーシャの腕を引く仲間に言う、ルシア兵。

「ガキも一緒に連れてけよ…。ガキの臓器が不足してッから、売れば軍事費の足しに、多少はなるんじゃねぇの?」
レーシャの腕を掴むルシア兵は、そう言うとニヤッと微笑んだ。



「ああ~~んん…!ッ、ああ~~んんッ!」(レーシャ)

「わああああ…ッ!、わああああ…ッ!」(ユーリイ)

シュウ…、シュウ…、シュウ…。

「ん!?」

その時、彼らルシア兵の目の前に、突然、奇妙な音と共に光が出現した。



シュウ…、シュウ…、シュウ…。

蒼白いその光は輪になり、その中には人影が確認できた。

「何だありゃあ…?」
銃を抱えたルシア兵が、光の輪を見つめて言う。

シュウ…、シュウ…、シュウ…。



やがて音が小さくなると、蒼白い光も弱くなった。
そして、その光の中からは、人間が立膝を突いてしゃがんでいる後姿が見えた。

しゃがんでいた人間が、スクッと立ち上がり、ルシア兵の方へ振り返る。

「あん…?、東洋人かぁ…?」
あっけに取られるルシア兵。
やつが言った先に立つ者は、男性であった。

東洋人の男性はポケットから小瓶を取り出すと、おもむろに中の錠剤を1粒口に入れて、ガリガリと嚙み砕いた。

「おッ!?、おッ!?、おお~ッ!?」
東洋人は、何かを確認している様な感じで、驚いていた。



中出氏からもらった強力ハリモトを飲み込んだマスオカは、身体の血が逆流する様な感じに戸惑う。
そして同時に、全身から抑えきれない力が、ふつふつと沸き上がって来る感覚も受け止めていた。

(中出氏の言った事は本当だったんだ…ッ!)
マスオカはそう思うと、ルシア兵の方へ歩きながら近づく。

「オイッ!、何だよテメエはッ!?」
銃を構えるルシア兵が、近づくマスオカに言う。
隣のレーシャとユーリイも、その光景に驚いて泣き止んでいる。

「お前ら…、消えろ…ッ!」
冷めた表情のマスオカが、銃を構えるルシア兵へ静かに言う。

「消えろだとぉ~ッ!?、ハハハッ!、お前みたいなヒョロヒョロのチビに言われるとは驚いたぜ(笑)」
プロレスラーの様な体格のルシア兵が、銃を抱えて笑い出した。

ガッ!

その時、笑うルシア兵の胸倉をおもむろに掴むマスオカ。

「えッ!?、えッ…!?」
マスオカに、片手1本で軽く持ち上げられたルシア兵が驚く!

ブンンッ!

そしてルシア兵がマスオカにひょいと、投げ飛ばされた!

軽く投げた仕草のマスオカだったが、ルシア兵は一直線に50m程飛んで行った!

「うわぁぁぁぁぁ…ッ!」

バシッ!

投げられたルシア兵が、街路樹に激突!

ドサ…ッ

ルシア兵は街路樹の下に落ちると動かなくなった。

「うわッ、ああああ~~~~ッ!」
その光景を横で見ていたもう1人のルシア兵は、そう叫びながら急いでその場から走り去って行く。

「ど…、どうもありがとう…」
涙で目を晴らした17歳のレーシャが、無言のマスオカに礼を言う。

「あ…、あの…ッ、イヴァンを助けて下さい…ッ!」
レーシャは続けて、十数メートル先で、銃に撃たれて拘束されているイヴァンも助けて欲しいと言った。

無言のマスオカが、イヴァンの方へ向く。
すると、あちらの方でも今の光景を見ていた様で、慌ててマスオカに向けて銃を構えていた。

マスオカは、グッと踏ん張ると、そのままイヴァンが拘束された場所までジャンプした!

ザシッ!(着地するマスオカ)

「うわぁッ!」
突然数十メートル先から、飛んで来たマスオカに驚くルシア兵!

そしてマスオカは、驚くルシア兵の肘をいきなり掴むと、ブンッ放り投げた!

ビタンッ!

投げられたルシア兵が、ガレキとなったビルの壁に背中から激突!
一瞬、ビルに貼り付いたかの様に見えたルシア兵は、そのまま無言で、高さ10m位から下に落下して行った。

銃を突き付けられているイヴァンと、ルシア兵が驚愕の表情でマスオカを見つめる。

バラバラバラ…ッ!

その時であった!、ルシア軍の戦闘ヘリが上空にイキナリ現れた!



ガガガガガ…ッ!

ヘリから機銃が掃射された!
地面を弾丸が這う!

「うわぁッ!」
すぐ真横に弾丸が走ったのを見て、イヴァンが驚いて叫ぶ。

ガガガガガ…ッ!

マスオカの背中に、ヘリから掃射された弾丸が斜めに走る!
しかし、その弾はマスオカの背中から全て弾き返されてしまった。

背中を向いているマスオカは、そんな事を気にする事なく無言で何かを作業する。
彼は倒れた電柱を地面から引っこ抜いていたのであった。

マスオカはその電柱を肩に担ぐと、上空のヘリに向けて槍投げの要領で放った!

ブンッ!

ガンッ!

マスオカが投げた電柱が、ヘリの窓をぶち抜いて刺さる!

キュルキュルキュル…。

敵の軍用ヘリが、キリモミ回転しながら墜落して行く。

ズガ~~ンンッ!

地面に墜落したヘリは、大きな音と共に大爆発した。

「大丈夫か?、さ…、これを飲むんだ」
ヘリを撃墜したマスオカは、右腿を撃たれて座り込んでいるイヴァンの元に行き、中出氏からもらった薬を彼に渡した。

「これは…?」
目の前でしゃがむマスオカから貰った、1粒の錠剤を見つめて、イヴァンが言う。

「大丈夫だ…。それを飲めば傷はすぐに治る…」
静かな口調で、マスオカはイヴァンに言う。

薬を飲むイヴァン。
すると彼の撃たれた傷跡が見る見る内に治って行く。

「えッ!?、傷口の血が止まった!?…、というか、傷がどんどん小さくなって塞がって行く…ッ!」
イヴァンが傷の状態を見つめながら、驚いて言う。

そしてマスオカはスクッと立ち上がると、残ったルシア兵の方へ、くるりと振り返る。

「うわッ…!、ひッ…、ひいいいい…ッ!」
銃を脇に抱えて、怯えたルシア兵がマスオカを見ながら後退りする。

「殺せッ!、そいつを殺せッ!」
マスオカの後ろにへたり込む、イヴァンがマスオカに叫ぶ!

(ん…?、こいつまだガキじゃないか…?)

怯えるルシア兵を見つめながら、マスオカがそう思った。
兵士は、まだ学校を出て間もない、明らかに未成年者の様相であった。

「殺れッ!、早く殺れッ!」
後ろのイヴァンが、マスオカにけしかける!

「行け…」

マスオカは目の前の兵士にそう言うと、兵士は「ひぃぃぃ…ッ!」と叫びながら、その場から走り去って行った。

「おいッ!、あんたッ!、助けてくれたのは礼を言う!、だがな、なんでアイツを逃がしたんだッ!?」
それを見て怒ったイヴァンが、マスオカに詰め寄った。

「あいつは、まだガキだ…」
イヴァンへ、静かに言うマスオカ。

「ガキだろうが敵だッ!、アイツを逃がしたら、やつはもっと多くの仲間を連れて、俺たちを殺しに戻って来ンだぞッ!」

治まらないイヴァンが、更にマスオカに詰め寄る。
その時、敵の兵士が逃げて行った方角から銃声が聴こえた!

バババババ……ッ!

「あ!」

銃声の方向へ振り返るマスオカが言う。
そこには、先程逃がした若い兵士が、仲間のルシア兵に撃たれ、崩れる様に倒れ込む光景が見えた。

「な…ッ!、なんで、やつらは仲間を殺したんだぁッ!?」
マスオカが驚いて、イヴァンに振り返って言う。

「やつが敵前逃亡をしたからさ…」
イヴァンがボソッと言う。

「え?」
どういう事だ?、という感じのマスオカ。

「あれは、FSBだ…」(イヴァン)

「FSB…?」(マスオカ)

「通称、“FSB”…、ルシア連邦保安庁だ…」
「旧ソ連時代の、KGB( ソ連国家保安委員会)が、現在のルシアではFSBとなっている…」

「やつらはKGBの時代から戦場へ常に同行している。そこでクーデターを起こさせない様に、軍人を見張り、さっきみたいな、敵を前にして逃亡する兵士を殺すんだ…」(イヴァン)

「何て、恐ろしい国なんだ…」(蒼ざめて言うマスオカ)

「それが、ルシアだ…。だから俺たちは戦う…!、あんな国に取り込まれるのは、もう懲り懲りだからな…」

イヴァンが吐き捨てる様にそう言うと、先程救った少女たちの方から声がした。

「おばあちゃんッ!、しっかりしてッ!」
レーシャが、車椅子から倒された老婆に叫んでいる。

「どうしたッ!?」
イヴァンはそう言うと、マスオカと共にレーシャの元へと駆け寄った。

「おばあちゃんッ!、おばあちゃんッ!」(レーシャ)

「うう…、はぁ、はぁ、はぁ…ッ」(マルーシャばあさん)

「どうしたッ!?、大丈夫かぁ、ばーさんッ!」
イヴァンが、苦しそうにうずくまるマルーシャへ声を掛ける。

「へへへ…、わしゃあもうダメみたいだ…。さっきの連中に倒されて、あばらをやっちまった…。骨が肺に刺さってるみたいだよ…、ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ…」

マルーシャばあさんは、そう言うと咳と共に血を吐いた。

「ばぁーさん、しっかりしろッ!」(イヴァン)

「おばあちゃんッ!」(レーシャ)

「死んじゃヤダよぉッ!」(ユーリイ)

「おばあさん、これを飲んで…」
マスオカは、マルーシャを見つめる3人から割って入り、先程イヴァンに飲ませた薬を取り出した。

「これは…?、はぁ…、はぁ…」(苦しそうなマルーシャばあさん)

「これを飲めば大丈夫…ッ!、絶対に死なない…ッ」
錠剤をマルーシャに握らせて、マスオカが言った。

「そんな気休めは、もういいんだよ…。はぁ、はぁ、はぁ…」(マルーシャ)

「いいから早く飲むんだッ!、心臓の鼓動が止まる前だったら、薬が効くッ!、早くッ!」
叫ぶマスオカに急かされて、マルーシャが錠剤を何とか飲み込んだ。

「どうだ?、気分は…?」(マスオカ)

「ど…、どおって…ッ!?、ん!?…、ありゃあッ!?」(マルーシャばあさん)

「どうしたの、おばあちゃんッ!?」(レーシャ)

「痛みがどんどん消えていく…?、こりゃあ一体…ッ!?」(マルーシャばあさん)

「ばあさん、立ってみなよ(笑)」(マスオカ)

「立つって…ッ、わしゃあ、足が骨折しとるんじゃぞ!」(マルーシャばあさん)

「ほら…」(笑顔のマスオカ)

「ありゃあ~ッ!?、立てるぞいッ!、足の骨折も治っちょるッ!、どぉ~なっとんじゃあッ!?」
マスオカに言われた通り、立ち上がったマルーシャが驚いて言う。

「その薬は、どんなダメージも瞬く間に治しちまうんだよ(笑)」(マスオカ)

「ばあさん!、信じられねぇだろうがホントなんだ!、俺もさっきルシアのヤロウに撃たれた脚が、あっという間に治っちまった!(笑)」(イヴァン)

「スゴイッ!、あなた一体、何者なのッ!?(笑)」(レーシャ)

「俺は日本人だ…。信じて貰えないだろうけど、22年前の過去から来た」(マスオカ)

「いいえッ、信じるわッ!、だって現に、凄い能力で私たちを助けてくれたじゃないッ!」(レーシャ)

「日本ってのは、すげぇ技術を持ってるんだなぁ…?」(イヴァン)



「いや…、日本と言うか…、1人の変人が開発したものなんだ…(苦笑)」
マスオカはそう言うと、少しシャクれたアゴの中出氏を思い出す。

「へ~え…」
少年のユーリイが感心する。

「じゃあ、そろそろ避難場所へ向かおう!、またルシア野郎どもが現れたら厄介だからな…」
イヴァンはみんなにそう言う。

「あなた泊まる場所は?」
笑顔のレーシャがマスオカに聞く。

「いや…、特に…」(マスオカ)

「だったら一緒に来てッ!」(笑顔のレーシャ)

「え!?」(マスオカ)

「そうだ!、それが良い!、晩飯くらいならご馳走するぜ!(笑)」(イヴァン)

「じゃあ決まりだね!?、にいちゃん!(笑)」
ユーリイ少年は、そう言うと、マスオカの袖を引いた。

こうして5人は、逃げ遅れたウクレイラ人たちが隠れる、工場の倉庫へと歩き出すのであった。


「ねぇ…、あなた名前は…?」
美しいブロンド髪をなびかせながら、歩くレーシャが言う。

「俺は…、増岡ヒデユキって言う…」(マスオカ)

「そう…、じゃあ、これからはヒデユキって呼ぶわね(笑)」(レーシャ)

「君は…?」(マスオカが聞く)

「私はレーシャ。この子は弟のユーリイ…、そして祖母のマルーシャよ」
レーシャが、それぞれを紹介すると、みんなが軽く会釈する。

「俺は、イヴァンだ。よろしく!」
そして、マスオカよりも大きくて体格の良いイヴァンが、自分を紹介するとマスオカとガッチリ握手をした。

「戦争はいつから始まったんだ?」
そしてマスオカは、隣を歩くレーシャに聞いた。

「もう3ヶ月は経つかしら…?」
「ある日、いきなり戦争が始まったの…。今までの日常がまるで嘘の様に…、信じられなかったわ…」(レーシャ)

「そうなんだ…?」(マスオカ)

「ここはね…。今はこんな風にガレキの山になってしまったけど、元々は広い大通りだったの…」
「学校や公園や、ショッピングモールとかもあって、とてもきれいな町だったわ…」

「でもね…。あの日以来…、ここはめちゃめちゃにされてしまった…」
「私たちの学校も攻撃されて、友達もその家族もたくさん死んだの…」

「自転車に乗っていた人…、ジョギングをしてた人…、犬の散歩をしてた人…」
「ルシア兵は、そんな何も関係ない人たちをいきなり銃で撃って殺したの…ッ!」

レーシャは、そこまで言うと、涙で言葉を詰まらせるのであった。

「ルシアのやつらは、ホント酷いやつらだよ!」
ユーリイ少年が憤慨して言う。

「でもね…、ユーリイ…、みんながみんな、悪い人ばかりじゃないのよ…」
涙目のレーシャはユーリイをなだめて言う。

「そんな事あるもんかッ!、あいつらは全部、悪いやつらだッ!」(ユーリイ)



「違うのよ…。本当に違うの…。ルシアの人々の中にも、この戦争を反対している人や、悲しんでる人がたくさんいるのよ…」(レーシャ)

「じゃあ何で、こんな酷い事すんのさッ!?」(ユーリイ)

「勇気を持って、戦争反対を訴えてる人はたくさんいるの…。だけどそういう人たちは、みんな拘束されて牢獄へ入れられてしまってるの」

「ルシアの一部の悪人が、ルシア国民を恐怖で押さえつけて、そういう意見を封殺してしまってるのよ」(レーシャ)

「結局、自分がかわいいんだよ!、ルシア人は!」(ユーリイ)

「ユーリイ…、あなたがもし戦争反対と言ったら家族を殺すって脅迫されたらどうする?、それでも…、家族を殺されると脅されても戦争反対だって言える?」(レーシャ)

「え…?、それは…」(ユーリイ)

「でしょう?、だけどルシアの人たちには、それでも勇気を持って戦争反対だと叫ぶ人たちが大勢いるのよ!」

「そういう人たちの事も一緒に悪く言うのは、お姉ちゃんはいけないと思うわ」(レーシャ)

「う~ん…」
ユーリイはレーシャの言った事に考え込む。

「レーシャは心優しいねぇ…(笑)」
「いいんだよ!、ユーリイの言う通りだ。あいつらはみんな悪人だ!」

聞いていたイヴァンが、2人に割って入って言う。

「イヴァンは、物の考え方が乱暴よ!」(レーシャ)

「はい、はい…」
イヴァンはレーシャの言葉に苦笑いする。

「ねぇ、ヒデユキ…。この戦争はいつ終わるのかしら…?」
レーシャが、今度はマスオカに話し掛ける。

「そうか…!、戦争の終結がいつになるのか見届けてから、こっちに来るべきだった!」
マスオカが、ふと気が付いて呟いた。

「あなた、戦争が終わる時期が分かるの!?」
驚くレーシャ。

「ああ…、理論上では分かるはずだ…。俺は今日までの未来しか観てないで、ここへ慌ててやって来たから…」(マスオカ)

「未来が分かるの?」(レーシャ)

「だから、俺は過去から来たって言ったじゃないか…。TVみたいな機械で、未来の様子を観て、ここの戦争を知ったんだ」(マスオカ)

「また元に戻るかな…?、この町、この大通りも前みたいに…」(レーシャ)

「必ず戦争は終わるはずだ…」(笑顔のマスオカ)

「そうしたら、また友達と一緒に笑いながら、町を歩く事が出来るのかな?」(レーシャ)

「もちろんだよ!」
マスオカは笑顔で、レーシャにそう言った。



「ほら、着いたぞ!」
それからしばらく歩き続けると、イヴァンがみんなに言った。

「ここは…?」
マスオカがイヴァンに聞く。

「ここは、工場の倉庫だ。広いだろ?(笑)」
「逃げ遅れたウクレイラ人が、今はここで隠れて救援を待っている」(イヴァン)

「何人くらい、ここに居るんだ?」(マスオカ)

「300人はいる。だが、いつまでもここで救援を待ってるワケにもいかない…、食料がそろそろ底をついて来たからな…」(イヴァン)

「ここを出て、どこへ向かう気なんだ?」(マスオカ)

「取り合えず、この先のポルタバへ行くつもりだ。あそこには、まだルシア軍が入って来てないからな」(イヴァン)

「ポルタバ…?」(マスオカ)

「中部にある小さな田舎町じゃよ…」
傍に居たマルーシャばあさんが、マスオカに教える。

「静かで良いところじゃよ…。あの町には、大きなヒマワリ畑があってな…」
「それはもう壮大な景色で、地平線まで続くかと思わせるほど、ヒマワリが咲き誇ってるんじゃ」(マルーシャばあさん)

「行った事あるのかい?」(マスオカ)

「もちろんじゃよ…。若い頃…、デートで行ったわい(笑)」
マルーシャは少し照れながらそう言うと、キヒヒヒヒ…と、笑い出した。

「ほれ…、お前さんにこれをやる」
そしてマルーシャはそう言って、小さな小袋をマスオカに渡す。

「これは…?」(マスオカ)

「中に、ヒマワリの種が入っちょる…。ヒマワリの花はな、ウクレイラの国花なんじゃよ」(マルーシャばあさん)

「そうなんだ…?」
布の小袋を手にして見つめながら、マスオカが言う。



「お前さんが、もし生きて日本に帰れたら、その種をお前さんの国にも蒔いて、花を咲かせておくれ…」

「そして大きなヒマワリが咲いたら、わしらの事や、この国の事を思い出しておくれ…」

「今、ここで何が起こってるのか、少しでも多くの人たちに伝えておくれ…、もう2度と、戦争なんていう愚かな行動を、人間たちが考えない様な世界に変えておくれ…」

マルーシャは寂し気な表情でそう言うと、マスオカの手を両手で包み込む様に、そっと握った。

「分かった…。約束するよ…」
手を握るマルーシャに、マスオカはそう言った。



 夜7時
ウクレイラ人が避難する工場倉庫内

避難民たちは、それぞれが小グループに分かれて固まっていた。
ランタンランプを焚いたり、小さな焚火で明かりを取って、食事をを作っている。
マスオカたちは、ウクレイラの郷土料理である、ボルシチのスープを作っていた。

パチパチ…、パキ…。(薪が燃える音)

マスオカや、イヴァン、レーシャたちは、焚火の火を囲みながら見つめている。
その火の上の大きな鍋からは、ボルシチがもくもくと湯気を上げていた。

「くそッ!…」
その時、スマホを手にしたイヴァンが呟く。

「それ…、何だい?」
2000年から来たマスオカは、まだスマホの存在を知らなかったのだ。

「お前、スマホ知らないのか?」
イヴァンがちょっと驚いて言う。

「ああ…」
頷くマスオカ。

「これはスマートフォンといって、アメリカのアップル社が開発した携帯電話だ」
「これはノートパソコンを小型化した様なもので、TV動画とかもこれで見れるんだ」(イヴァン)

「へぇ…、すごいな…」
スマホを覗き込んで、マスオカが言う。

「ほら…、これを見てみろ…」
イヴァンはそう言って、スマホからニュース映像をマスオカに見せた。

「やつらルシア人は、俺たちが倉庫に隠れているのを知ってる様だ…」
「明日の朝8時までに、全員が投降しない場合は、攻撃を仕掛けると発表したそうだ」(イヴァン)

「どうするんだ?」(マスオカ)

「降伏はしない!、やつらは俺たちが投降したら、そのあと、どんな目に合わせる気か、たまったもんじゃないからな!」
「どうせ殺されるか、強制収容所で死ぬまで奴隷労働させられるかの、どっちかに決まってるッ!」(イヴァン)

「まさか、戦う気か!?」(マスオカ)

「それは無理だ。俺たちには武器は無い…。それに、ここには女、子供、老人がたくさんいる…」
「明日の日の出と共に、ここをみんなで脱出する!」

イヴァンは力強くそう言うが、果たしてそれで大丈夫なのか?と、マスオカは思うのだった。

 その時、マスオカの頭の中に話し掛けて来る声がした。



(中出氏です!、どうですか、そちらでの生活は?)
相変わらずの間の抜けた声で、車掌の中出氏がマスオカに話し掛ける。

(どうもこうもねぇよ…!、こっちは酷い状況だ)
マスオカが頭の中で、中出氏に返答する。

(ところでマスオカさん、明日の朝にはルシア軍が、その工場を攻めて来るみたいですよ)と、中出氏。

(知ってる…)と、マスオカ。

(危ないから、そろそろ元の世界に戻って来た方が良いんじゃないですか?)と、中出氏。

(ここの人たちを置いて、そんな事はできん!)と、マスオカ。

(そうですか…)と、中出氏。

(なぁ、中出氏…。この戦争はいつ終わるんだ?、結末はどうなるんだ?、お前なら分かるだろ?、教えてくれ…)と、マスオカ。

(ええ…、TV画像を早回しで観れば分かります)と、マスオカが映っているTVを観ながら中出氏が言う。

(だったら観てくれ!)と、マスオカ。

(良いですけど…、そうすれば、あなたは元の世界に戻れなくなっちゃいますよ)と、中出氏。

(え!?、どういう事だ?)と、マスオカ。

(早送りすると、あなたと繋がってる回線を切らないといけません。回線は一旦切ると、もうあなたのいる次元とコンタクトするのは不可能なのです)と、中出氏。

(なんでだよぉッ!?)と、中出氏に怒るマスオカ。

(以前、言ったでしょう…。次元は同じ時代や時期だけでも何層にも折り重なり、無限大に同時進行に流れているって…)
(だから、あなたがいるその次元に再びアクセスするのは、不可能なのです)と、中出氏。

(くそッ!)と、悪態をつくマスオカ。

(どうします?、戻りますか…?)と、中出氏が聞く。

(いや…、もう少しここに居て様子を見る…)と、マスオカが言う。

(分かりました…。では、お気をつけて…)
中出氏は他人事の様にそう言うと、マスオカとの回線を止めた。



「お前、何やってんだ?」

その時、マスオカの隣に座るイヴァンが彼に聞く。
マスオカが無言で、表情を変えながらソワソワしているのを不思議に思った様だ。

「いや…、何でもないよ」
マスオカはイヴァンに、それだけ言う。
頭の中で考えた事を、そのまま通信できるなどと、説明するのが面倒だったからだ。

「ああ…、頭が痛いぜ…、いっそこのまま自害しちまった方が、どんなにラクか…、ついつい、考えちゃうぜ…」

焚火の前に座るイヴァンは、頭を抱えながら、そう呟く。

「分かるよ…。俺も死にたいと考えてた時期があったからな…」
マスオカが、イヴァンをいたわる様に言う。

「お前も、自害しようと考えた事が…?」
イヴァンがちょっと驚いて聞く。

「ああ…、でも俺のは、君らのものとは比べ物にならないけどな…」(マスオカ)

「何があった…?」(イヴァン)

「いや…、大した事ない…。単なる職場でのパワハラってやつだ…。嫌な上司がねちねち責めて来て、それが嫌んなって自殺しようとしたんだ…」

マスオカがそうポツリと言うと、イヴァンの表情が見る見る怒りの顔に変化した。

「ふざけんなぁバカヤロウッ!、何が上司のパワハラだぁッ!、そんなものと俺の苦しみを一緒にすんじゃねぇッ!」
突然怒り出したイヴァンに、驚くマスオカ。

「お前の命は、そんなくだらねぇ悩みで捨てられんのかぁッ!?、嫌な上司が居たって、1日の中の数時間我慢すりゃ済む事だろうぉッ!」
「会社が終われば、お前にはその後、自分が安らぐ時間があるじゃねぇかぁッ!」

「だが俺たちは違うッ!、一時たりとも心が安らぐ時なんかねぇッ!」
「しかもお前は、その会社にいた時間だけ、金だって毎月貰えるじゃねぇかぁッ!」

「ふざけんじゃねぇッ!、テメエみてぇなのが、ここに居たら、みんなの決意が損なわれちまうぜぇッ!」
イヴァンは、マスオカの考えに我慢ならなくて怒り出すのであった。

「イヴァンやめてッ!、何て酷い事言うのッ!」
怒るイヴァンを止めるレーシャ。

「出てけぇッ!…、テメエみてぇな、コールカ野郎は、ここから出てけぇッ!」
※コールカ:チキンの事。弱虫野郎という意味。

イヴァンはそう言うと、立ち上がり、怒りが収まらないまま、ここから立ち去って行った。

「ごめんなさい…、ヒデユキ…」
申し訳なさそうに謝るレーシャ。

「いや…、確かにイヴァンの言う通りだ…。俺は腰抜けのコールカだ…」

マスオカは、低いトーンで呟く。
その時、ボルシチを作っていたマルーシャばあさんが、口を開いた。

「ヒデユキよ…、悩みなんてものは、誰々の方が大きい、小さいなどと測れるもんじゃない…」

「お前が死にたいと悩んでいた時期、その時に感じた苦しみは、お前にとっては、本当に死にたくなる様な悩みだったはずじゃ…」

「人は経験を積んで強くなる…。お前さんも今回、ここに来て以前よりも心が強くなったはずじゃ…、こんな経験をしてみて初めて、更に大きな苦しみがあるという存在を知るんじゃ…」

「だから気にするな…。ほれ…、食え…」

マルーシャはそう言うと、マスオカにボルシチが入った皿を渡す。

「ばぁさん…」
マスオカはそう言うと、目が潤ませながら肩を震わせ、その皿を受け取るのであった。


  翌、早朝
工場の倉庫内では、くじ引きが行われていた。

それは、倉庫の裏口に停めてある2台の軽トラックの荷台へ、誰を優先的に乗せて逃げるかを決める為の、くじであった。

子供、怪我人、老人、女性の中から30人が選ばれる事になっているが、子供は年齢、怪我人は怪我の度合い、老人は年齢などを考慮しながら選ばれる。

「どうだった?」
マスオカが、くじ引きから戻って来たレーシャとユーリイに聞く。

「ダメ、ダメ…(苦笑)」
レーシャが、自分とユーリイはハズレだったと、マスオカに報告した。

「そうか…」
マスオカが、ポツリと言うとマルーシャばあさんも、くじ引きから戻って来た。

「おばあちゃん、どうだった!?」
ユーリイが、そう尋ねるとマルーシャは少し緊張した面持ちで言った。

「当たった…。当たったぞい…」
プルプルと震えながら、マルーシャが茫然として言った。

「え~!、凄~い、おばあちゃん♪」(レーシャ)

「おめでと~♪」(ユーリイ)

孫たちは大喜びで、マルーシャを迎える。

「お…、お前たちは…ッ!?」
今度はマルーシャが、慌てて孫たちの結果を確認する。

「ううん…、私たちはダメだった…。でも、いいの…。気にしないでおばあちゃん!」
首を左右に振って、レーシャが言う。

「そ…、そんな…ッ!」(マルーシャばあさん)

「良かったな、ばあさん!」
マスオカが笑顔で言うと、マルーシャは機嫌悪そうに言った。

「そんな孫たちを置いて、わしだけ行けなんて…ッ」(マルーシャばあさん)

「良いんだよ、気にすんなって!」
ユーリイが笑顔で言うが、マルーシャは、「良い事あるかぁッ!」と、怒鳴ると、プイっとそっぽを向いて、その場から立ち去ってしまった。


「よ~し、みんなぁ…、静かにしろぉ…。もうすぐ日の出だ…、ルシアが攻めて来る8時まで、まだ大分時間がある」

「今のうちに、そ~と裏口から脱出する!、さっきくじが当たった者は、裏口に停めてあるトラックの荷台に乗り込むんだぁ…!」

避難民たちのリーダーであるイヴァンが、声を殺してみんなに指示を出した。

その時であった。
遠くの方から、何か破裂した様な音が聴こえた。



ヒュゥゥゥゥ……。

何かが風を切る音。
それが近づく…。

ドカーーーンン…ッ!

その爆音と共に、倉庫の天井がいきなり崩れ落ちた!

きゃぁぁぁーーーッ!

うわぁぁぁーーーーッ!

避難民たちが驚き、パニック状態になる!

ヒュゥゥゥゥ……。

ドカーーーンン…ッ!

「やつらだッ!、やつらが撃って来たぁッ!、みんなぁッ!、逃げろぉッ!、早く走れぇぇーーッ!」
イヴァンが慌てて指示を出す!

ヒュゥゥゥゥ……。

ドカーーーンン…ッ!

鳴りやまない、爆音。
敵の砲撃が工場倉庫の天井を、どんどん破壊する!

「くそッ!、何でッ…!?、8時まで待つんじゃなかったのかよぉぉ…ッ!」(イヴァン)

ヒュゥゥゥゥ……。

ドカーーーンン…ッ!、ドカーーーンン…ッ!

その時、天井がガラガラと崩れる!
鉄筋やガレキが、イヴァンや、その周りにいる人たちの上に落ちて来た!

「うわぁぁぁーーッ!」(イヴァン)

「イヴァンッ!」
鉄筋やガレキの下敷きになったイヴァンたちを見て、レーシャが叫ぶ!

「くそッ!…」
マスオカが急いで小瓶から、“強力ハリモト”を1粒飲んだ!

「イヴァン!、大丈夫かぁッ!?、しっかりしろぉッ!」
薬を飲んだマスオカは、超人的なパワーを手にし、急いで鉄骨を持ち上げて、イヴァンを引きずり出す!

「うう…、うう…」
イヴァンがマスオカに支えられながら、苦しそうにうめく。

「ほらッ!、例の薬だ!、早く飲むんだぁッ!」
マスオカはそう言って、錠剤をイヴァンの口の中へ急いで放り込んだ!


 場面変わって、ルシア地上軍砲兵中隊の陣地

「撃てぇぇ~~ッ!、撃てぇぇ~~ッ!、やつらをいぶり出せぇぇ~~!」
ルシア軍中隊長が興奮気味に、戦車隊へ指示を飛ばす!

ドンッ!、ドンッ!

戦車が砲弾を次々と発射する!

ヒュゥゥゥゥ……。

ドカーーーンン…ッ!、ドカーーーンン…ッ!

 ルシア軍は、焦っていた。
それは、3日から1週間以内に終結すると思われた今回の戦闘が、思いのほか長引いてしまったからだ。

ウクレイラ軍の予想だにしなかった反撃に苦戦するルシア軍は、ここで何とか戦果を上げておきたかったのだ。

「あそこから出て来たやつらを、全員撃ち殺せぇぇ~ッ!」
「やつらは丸腰だぁぁ~ッ!、恐れるに足らんッ!、進めぇぇーーッ!、進めぇぇーーッ!」

中隊長の命を受けた兵士が、横一線に隊列組んで、機銃を発砲しながら前進した!



 場面変わって、再びウクレイラ民がいる工場倉庫内。

「ほりゃぁッ!、お前らぁ、こんなとこで何しとるッ!?」
工場の隅でへたり込んでいた幼い男の子と女の子に、マルーシャばあさんが声を掛けた。
子供たちは恐怖で立ち上がれず、ガタガタと震えて泣いていた。

「う…、うう…、こ、怖いよぉぉ…」
男の子が泣きながら言った。

「怖くても逃げにゃぁ、死んじまうぞッ!、立てッ!、立って走るんじゃぁッ!」(マルーシャばあさん)

「無理だよぉぉ…、立てないよぉぉ…」(涙目の少年)

「立ち上がらんと、わしがお前ら蹴っ飛ばすぞぉぉッ!」
マルーシャがそう怒鳴ると、子供たちは「わぁぁぁ!」と、驚いてその場から走り去った。

「ヒヒヒ…、上手く行ったぞい…」
「そうじゃ…、その調子じゃ、走れ…、走って、走って、生き延びるんじゃ…」
マルーシャは、泣きながら走って行く子供たちの後姿を見つめながら、そう言うのであった。

 一方、マスオカの方は…?

「どうだ気分は…?」
イヴァンを抱きかかえているマスオカが言う。

「うう…、もお大丈夫だ…。しっかし…、この薬はホントすげぇなぁ…」
回復したイヴァンがマスオカに言う。

「イヴァン、今の君なら俺と同じパワーがあるはずだ。まだガレキの下敷きになっている人たちがいる!、手伝ってくれ!」
マスオカがそう言うと、今度は別の場所の天井が崩れて来た!

ドカーンンッ!

ガラガラガラ……ッ

「うわぁぁぁーーッ!」
ガレキの下敷きになった人々が叫ぶ!

「俺は、あっちの人たちを救うッ!、マスオカは、こっちを頼むッ!」
イヴァンはそう言うと、今崩れ落ちて来た場所へ走り出した!

「レーシャッ!、ユーリイッ!」
マスオカが、2人を呼ぶ。

「俺がガレキを退かしたら、この薬を下敷きになってる人たちに急いで飲ませてくれッ!」
そう言ってポケットから、“強力ハリモト”の入った小瓶を出すマスオカ。

「ユーリイッ!、君はイヴァンの方を頼むッ!」
そう言ってマスオカは、小瓶から錠剤をザラザラとユーリイの手に半分ほど出す。

「レーシャ、これを持っててくれッ!」
レーシャに瓶ごと預けるマスオカ。

「大丈夫かぁッ!、しっかりしろぉッ!」
マスオカが鉄骨を急いて退かす!

「大丈夫ですかぁッ!?、これを飲んで下さいッ!」
マスオカが引き上げた怪我人たちへ、レーシャが次々と薬を飲ます!

「大丈夫かぁッ!?」
そしてイヴァンの方も、懸命に救出活動を続けた。


 一方、マルーシャは、またもや工場倉庫の端で座り込んでいる人を見つけた。
今度は小さな赤子を抱いた、若い母親であった。

「おいッ!、あんた!、こんなとこで何しとるんじゃあッ!、早よ逃げんかぁッ!」
マルーシャが怒鳴っても、その若い母親は、赤子をあやしながら平然としていた。

「もう良いのよ…。どこに逃げたってどうせ助からないんだし…」
「私はもうくたくたで、とてもこの子を抱いて、ポルタバまでなんか歩けないわ…」
「だからもう良いの…。私はここで、この子と一緒に死ぬの…」

若い母親が子供をあやしながらそう言った。

「この、バカたれッ!」
マルーシャはそう怒鳴ると、母親からいきなり赤子を奪い、走り出した!



「あ!」
子供を奪われた母親が驚いて、マルーシャを走って追う!

「待ってッ!、私の赤ちゃんを返してぇぇ…ッ!」
母親が赤子を脇に抱えて走るマルーシャを必死に追う!

マルーシャに奪われた赤ん坊が驚いてぎゃんぎゃんと泣き叫ぶ。
しかしマルーシャは、止まる事なく工場の裏側まで一直線に走り続ける!

「私の赤ちゃんを返してぇぇ…ッ!」
工場の裏口で、ついに止まったマルーシャへ、母親が駆け寄って叫ぶ。

立ち止まるマルーシャの目の前には、軽トラックが荷台に、たくさんの人たちを乗せて待機していた。



「おう!、ばあさん!、やっと来たか!?、もう置いて行くとこだったぜ!」
運転手らしき男性が、マルーシャへニヤッと笑みを浮かべて言った。

「この女を乗せてやってくれ…」
マルーシャが、運転手に言う。

「え!?、無理だよ…。これ以上、乗れないよ…」
運転手が困惑して言う。

「わしは乗らん…。それなら問題あるまい…」(マルーシャ)

「え?」(運転手)

「そういう事じゃ、さぁ!、早く乗れ…」
マルーシャが、「え?」と驚く母親に言う。

「気にするな…。わしは最初から乗るつもりはなかった…」
そう言って、赤子を母親に戻すマルーシャ。

「え?、え?…」
状況がつかめない、母親が涙目で動揺する。

「お前、母親じゃろ!、しっかりせいッ!」
「こんなかわいい子供を死なせたらいかんぞ!、生きるんじゃ!、石にしがみついても生きるんじゃ!、それが親の役目じゃ!」
マルーシャがそう言うと、運転手が「早くしろぉ!、出発するぞぉ~!」と、声を掛ける。

「行け…」
マルーシャがそう言うと、赤子を抱いた若い母親は、荷台に乗った人たちに引き上げられた。

「あ…、ありがとうございます…。ありがとうございます…、。う…、ううう…ッ」
母親はマルーシャに深々と頭を下げて泣きながら感謝をした。

そして軽トラックは出発した。

「生き延びるんじゃぞ…」
走り去るトラックを、険しい表情で見つめるマルーシャがポツリとつぶやいた。


 場面は再び、マスオカとイヴァンたちのいる場所

「みんなぁ~ッ!、全員無事かぁッ!?」
イヴァンがガレキの下敷きになっていた者たち全員に声を掛ける。

仲間たちは「おうッ!」と、力強く応える。
彼らは全員、マスオカの持っていた錠剤、“強力ハリモト”を飲んで助かったのであった。

「なぁマスオカ!、俺たちもあの薬を飲んでるんだから、お前と同じ、弾丸も跳ね返すパワーが出せるって事なんだよなッ!?」
イヴァンがマスオカに振り返って聞く。

「ああ…」
頷くマスオカ。

「だったら俺たちは戦うぜッ!、あのルシア野郎どもを全滅させてやるッ!、なあ、みんなぁッ!?」
イヴァンは、仲間たちにそう言って激を飛ばすと、仲間らも「おうッ!」と、掛け声を上げた。

「ダメだッ!、ここは、みんな逃げるんだッ!」
するとマスオカは、慌ててみんなを制止して叫ぶのだった。

「何でだよぉッ!、ここでやつらを殲滅させなきゃ、また襲って来るだろうがぁッ!?」
イヴァンがマスオカに憤慨して怒鳴る。

「聞いてくれイヴァン…。その薬でパワーが出せる時間は30分だけなんだ…」
「たとえ今のやつらを全滅させられる事が可能でも、その前にやつらには援軍が現れる」

「そうすれば、30分でケリをつけるのは無理だ。その後、ポルタバへ避難する事が出来なくなってしまう!」(マスオカ)

「だったら、ここで玉砕してやるッ!、俺たちの根性をアイツらに見せてやるぜッ!」(イヴァン)

「バカヤロウッ!、お前はみんなのリーダーだろ、イヴァンッ!」
「お前はみんなを無事にポルタバへ送り届ける義務があるだろぉッ!」

そう怒鳴るマスオカの剣幕に、イヴァンが驚いて仰け反る。

「いいか…?、今ならみんなで怪我人や女、子供、老人を守りながら逃げられる…!」
「たとえ途中で敵に出くわしても、そいつらを倒しながら逃げきれる…!」
「だから、30分間の中で、出来る限り遠くまで逃げるんだ!」(マスオカ)

「逃げるったって…、今の状態じゃ、ここで敵を倒さなきゃ逃げられねぇ…。同じ事じゃねぇか…?」(イヴァン)

「俺が、ここに残ってやつらを食い止める…ッ!」
マスオカがそう言うと、イヴァンやレーシャらは、「え!?」と、驚いた。

「俺が、ここでやつらを食い止める!…、その間に、君らは逃げるんだ…!」(マスオカ)

「そんな事、出来るワケねぇだろぉッ!、俺も残って戦うッ!」(イヴァン)

「イヴァンッ!、まだ分からないのかぁッ!、お前はみんなのリーダーなんだッ!」
「お前がみんなを守らなきゃ、ここで全員死ぬんだぞぉッ!」(マスオカ)

「だけど…、お前…」(イヴァン)

「俺の事は心配するな…。俺はいざとなったら、元の世界にすぐ戻れる状態になっている」
中出氏と交信すれば、自分はすぐに元の世界へ戻れるマスオカが説明する。

「怖くないのか…?」(イヴァン)

「怖いさ…、俺は、“コールカ”だからな…」※コールカ(弱虫野郎という意味)
マスオカが苦笑いで言う。

「マスオカ…」
イヴァンはマスオカを見つめながら、言葉を失う。

「さぁ、早く行ってくれ!、レーシャたちの事を頼んだぞ!」
マスオカがそう言うと、イヴァンは、うつむき身体を震わせながらしゃべり出した。

「すまん…、うッ…、昨日の晩、俺、お前に、“コールカ”だなんて言って…、許してくれ…」

「お前は、“コールカ”なんかじゃなかった…。お前は俺たちウクレイラ人たちの、“ヘローヤム”だよ…」※ヘローヤム(英雄という意味)
涙目のイヴァンが、うなだれてマスオカに言う。

「よせよ…、英雄は君たちじゃないか…。俺と違って生身の体で、武器も持たずにここまで乗り越えて来た君たちの方が英雄だよ…」(マスオカ)

「すまねぇ…、うッ…、許してくれ…、ううッ…!」(イヴァン)

「顔を上げてくれイヴァン。じゃあ、みんなを頼んだぞ…」
マスオカがそう言うと、イヴァンは涙を袖で拭きながら何度も無言で頷いた。

「ヒデユキ…」
不安な表情で、レーシャがマスオカに近づく。
そしてユーリイや、マルーシャばあさんも…。

「ばあさん、死ぬなよ…」
マスオカが、マルーシャに笑顔で言う。

「あったり前じゃッ!、誰がこんなとこでくたばってたまるかいッ!」
「わしやぁ、もう1回、ポルタバのヒマワリ畑を見るまでは、絶対死なんからなッ!」

マルーシャがそう言うと、マスオカはクスクスと笑いながら、「その元気があれば大丈夫だ」と、笑顔で言う。

「それじゃあイヴァン、あとは頼んだぞ…」
マスオカがイヴァンに振り返って言う。

「マスオカ…」(イヴァン)

「ん?」(マスオカ)

「死ぬなよ…」
イヴァンがそう言うと、マスオカは無言で頷いた。

そして彼は、向かって来るルシア軍に、立ちふさがるのであった。



To be continued….

NEXT → 自殺専用特急 ~ DEATH EXPRESS 最終話