秋の夜長の盆踊り(夏詩の旅人2 リブート篇) | Tanaka-KOZOのブログ

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 2000年9月
午前9時、僕は会社の同僚であるグリオと一緒に、西武線の上石神井駅前で、カズの到着を待っていた。

 カズは、僕の大学時代からの友人でギタリストである。
自宅に録音スタジオを所有しており、僕の1stアルバムのレコーディングに協力してくれた。

 カズは現在、スタジオミュージシャンとして活動しているのだが、仕事でのレコーディングでは、自分の好きなジャンルの演奏はなかなか舞い込んで来ない様だ。
そこで、自分の好きな音楽は、プライベートでバンドを組んでやっている。

 今日は、そのバンドが埼玉県で行われる市民音楽祭に出演するという事で、僕とグリオはカズのライブを観に行く事になっていた。
現地までカズの車で一緒に乗せてくれるという事で、僕らは上石神井で待っているのだ。



「あ!、あれじゃないですか!?、アニキ!」
白いハイエースを指してグリオが言う。

(あいつの車と違うな…?)
その車を眺めながら僕は思う。

そしてその車が、西友ストア沿いの路上に停車した。

「あれ?、あんたは…」
見覚えのある顔に、僕はそう言った。



「ガハハハハ…、ハリーでやす」
浅黒く日焼けした、オールバックでグラサンのハリーが運転席から笑顔で言う。
どうやらこのハイエースは、ハリーの車の様だ。

「よお!、お待たせ!」
そして、カズが言う。
彼は助手席に座っていた。

僕とグリオは、ハリーとは既に面識があった。
去年の6月に、吉祥寺でやったカズのライブを観に行き、その時にバンドで、キーボード担当だったハリーとライブ後の打ち上げで一緒に飲んでいたからだ。
ハリーの年齢は、確か僕より、4歳~7歳くらい年上だったと思う。


※カズ(ギタリスト)の後ろのグラサンがハリー(キーボード)

「乗れよ!」
カズが後部座席側を顎でしゃくって言う。

「ああ…」
そう言って、僕とグリオは後部座席へと座った。
そして車が走り出す。

「今日は、ハリーの車で行く事にした。だって終わったら飲むだろ…?」
少し進んでから、カズが僕らに言う。

「ハリーは飲まないのか?」
僕が聞く。

「へい…、あっしは明日は警備の仕事が入ってやすんで…」
ハンドルを握るハリーが、正面を向きながら僕に言った。

ハリーは、幼少の頃からピアノを習っていたが、プロに成るまでには至らなかった。
それで彼は、普段は警備業をしながら生計を立てていたのだ。

「ふぅ~ん…」
なんかハリーに悪いなぁ…と思いながら、僕はそう呟く。

「だって今日は、東松山だぜ!」
今日のライブ地をカズが言う。

「滑川町でやす…」
運転するハリーがすかさず訂正する。

「同じ様なもんじゃねぇか。隣駅なんだから…」(カズ)



「東松山って…、あの、辛味噌ダレつけた焼き鳥で有名な…?」
僕が聞く。

「そう!、全国7大焼き鳥名所の中に入っている、東松山だ!」(カズ)

「東松山って、そうなんだ…?」(僕)

「7大焼き鳥の名所って、東松山の他はどこなんですか?」と、グリオがカズに聞く。

「忘れた(笑)、確か北海道とか福島とか、博多とか入っていた様な…?」
カズが曖昧な回答をグリオにした。

「そんなに焼き鳥が有名な場所だったら、飲まないワケにはいきませんね!、アニキ!」(笑顔のグリオ)

「あのさ…、東松山の焼き鳥って、豚のカシラじゃん?、なんで焼き鳥なんだ?、焼きとんじゃねぇか?」
僕が以前から思っていた疑問を、カズに投げかける。

「知らね~…、でも、飲み屋の看板や、提灯には、漢字で“焼き鳥”とは書かれてないよな…?、ひらがなで、“やきとり”って、どこの店も書いてあるよな…?」
カズが答えになっていない説明を、僕にするのであった。

「カズさん、今日のメンバーは前回の吉祥寺と代わってるんですか?」
やきとりの話題が終わると、グリオがカズに話し掛けた。

「ほとんど入れ替えナシ…。まずギターは俺で、キーボードがハリーだろ?」と、カズ。

「ベースは?」
グリオが聞く。

「トシゾウ…」(カズ)

「ああ…、あの人ならコーラスも出来るからな…」
トシゾウの事を思い出した僕が言う。

「ドラムは…?」(グリオ)

「ヨシダ…。これは前回と変わってるな…」(カズ)
ヨシダは、カズの高校時代の同級生で、軽音部で一緒に活動していた人である。

「ボーカルは?」
グリオが期待を込めてカズに聞いた。



「クサナギ…」(カズ)

「なぁんだ!、ボーカルはマツムラですかぁ~!?、一緒なんですかぁ~!?」
グリオが不満な声を上げる。

クサナギは、ライブで見る度に体重が増加して行き、今やお笑いタレントの松村邦洋に似ていると周りから揶揄されていた。
そしてグリオが懸念するのは、音痴なのにナルシストで、更にクサナギの、“俺様キャラ”が気に食わないらしい…。

「あの人じゃ、カズさんのギターもぶち壊しですよ!、去年、ネルシャツ着て歌ってて、終わってるって思いましたもん…」
グリオがいつもの毒を吐く。

「しょうがねぇんだよ…。あいつと組むと、客がいっぱい来るからさ…」と、カズが言う。

クサナギは、大手メーカーに勤務している中間管理職であった。
彼の、“俺様キャラ”に断れない部下たちが、ライブ当日には、たくさん訪れるので、仕方ないという意味でカズは言ったのだった。



 それから間もなく、ハリーが運転するハイエースは練馬ICに入った。
関越自動車道を走り、他愛のない話を続ける僕ら。

やがて東松山ICが近づくと、ハイエースは高速を降りて、森林公園へと向かう。

「へぇ…、今夜、駅前で盆踊りがあるんだぁ…」
街中を走るハイエースの窓から見えた看板の事を僕が言った。

「盆踊り…?、どこで…?」と、カズが僕に聞く。

「森林公園駅の近くだって…」(僕)

「彼岸やぐら祭りでやすね…?」
その時、運転するハリーが僕らに言った。

「ヒガン…、ヤグラ…?」(僕)

「ええ…、毎年、駅前広場で、大櫓を囲んで盆踊りが行われてるんでやすよ」(ハリー)

「大ヤグラぁ~?」(僕)



「ええ…、とんでもねぇデカさの櫓でやす…。全国でも屈指の大きさの様でやす」(ハリー)

「そうなんだぁ…?」(僕)

「これで、ライブ後に飲みに行く場所が決まりましたね!?」
いたずらな笑みでグリオが僕に言う。

「祭り会場でか…?」(僕)

「いいねぇ!、盆踊り眺めながら、東松山のやきとり食って、ビールを飲む!」
笑顔のカズが言う。

「屋台も出るのか?」(僕)

「屋台も出ますよ…。でも、東松山のやきとりの屋台があるかは分かりやせんが…」(ハリー)

「ありますって!、隣駅なんだから…」(グリオ)

「隣駅でも、市町村が違うんだぜ」(僕)

「大丈夫!、大丈夫!、それじゃ決まり~!」(カズ)

「お前、ライブの前から飲む事しか考えてないけど大丈夫か?」
僕がそう言うと、カズの隣で運転するハリーが、ガハハハハ…と、笑う。

「ところで、盆踊りで流れる曲って、やっぱ地域によって違うのかね?」(僕)

「違うと思いやすよ」(ハリー)

「俺の地元だと、東京音頭や大東京音頭、オバQ音頭とか流れてたよ」(僕)

「滑川町には、滑川音頭ってのがあって、東松山には、ぼたん音頭ってのがありやすね」(ハリー)

「ぼたん音頭…?」(僕)

「東松山は、牡丹の花も有名なんでやすよ…」(ハリー)

「そうなんだ?、東松山の音頭って、どんな感じなのかな?」(僕)

「ひぃがぁし、まつやぁ~まぁ~♪」(歌い出すハリー)



「それ、東村山だろ!(笑)」(僕)

「チュチュンがチュン…!、チュチュンがチュン…!」(ハリー)

「それ!、デンセン音頭!」(ツッコむカズ)



「懐かしいなそれ!、“みごろ!たべごろ!笑いごろ!!”だろ?(笑)」(僕)

「松山に!、突然UFOが飛んで来たぁ~♪」(ハリー) 

「俺、ガキの頃、観てたよ(笑)」(カズ)

「それを猟師が鉄砲で撃ってさ、煮てさ、焼いてさ、食ってさ♪」(ハリー)

「アニキ!、なんですか?、この曲は?」(グリオ)

「昔、流行ってたんだよ(笑)」(僕)

「イッチョメッ!、イッチョメッ!、ワァ~オ!…、イッチョメッ!、イッチョメッ!、ワァ~オ!」(ハリー)

「どおいう展開の曲なんですか!?」(困惑のグリオ)

「いや…、また東村山音頭に戻ったみたいだ(笑)」(苦笑いの僕)

「ひッ、がッ、しッ…、松山、イッチョメッ!」(ノリノリのハリー)

「有り得ねぇだろ?、その曲進行…(笑)」(カズ)

「ワァァァ~~~~~オッ!」
ハンドルから両手を離し、左右の人差し指で正面を指すハリー。

「わぁッ!、ばかッ!あぶねぇッ!」(カズ)

「ハンドル離すなぁ~~ッ!!」
僕が慌ててそう言うと、ハリーは、ガハハハハ…と、大笑い。

「これが、東松山音頭でやす…」(笑顔のハリー)

「んなワケねぇだろッ!」
僕がそう言うと、今日のライブ会場の森林公園が見えて来たのであった。



 午後5時
カズのバンドの演奏が始まった。
僕とグリオは、ステージの真下まで移動して、その演奏を観る。

1曲目はストーンズのカバー、「Jumpin’ Jack Flash 」だった。
カズは、ギターソロ以外は完コピしていた。
ソロの部分だけは、彼の信条からなのか?、自身の考えたオリジナルのフレーズでソロを弾きまくり、ある意味、カズらしさが出ていて良かったと思う。

2曲目は、ロッドの「HOT LEGS」
これも、イントロのギターフレーズを大幅に変更していたが、オリジナルの良さを損なう事なく、上手くアレンジをしていたと思った。



 さっきから僕は、カズのギターの事ばかり言っているが、正直クサナギの歌うボーカルは耳の中に入って来なかった。
それは、歌唱力云々という事よりも、ボーカルとしての心構えが余りにもテキトーだったからである。

 以前、吉祥寺のライブでの打ち上げで、彼に聞いた事があった。

「英語の歌詞を、あれだけ覚えるなんて大変だよなぁ…?」
僕がクサナギにそう言うと、彼はこう言った。

「あんなのテキトーだよ!、歌詞なんて全然覚えてないし、どうせみんな英語なんて分かんないからテキトーに、それっぽく歌ってんのさ(笑)」
その言葉を聞いた時、僕は彼の歌には、何の想い入れもメッセージも無いんだなと知ったのだった。

 だから僕は、彼の歌がまったく耳に入って来ない。
音楽と観客をナメてる、薄っぺらいやつが歌う、ボーカルラインなど興味が無いからだ。

それからカズのバンドのライブは、ラスト1曲を残すのみとなった。
その時、ステージからクサナギが観客に向かって言った。



「みんなぁ~!、実は、僕は恵まれない子供たちに募金活動を行っています!、どうか心温かいみなさんたちも、ぜひ協力して下さい!、お願いしま~すッ!」
クサナギは四角い手作りの募金箱を手にして、観客たちにそう言うのだった。

「あれ毎回やってますね…?、ああいうトコは良いですよね…?」
僕の隣でステージを見つめるグリオが、僕に言う。

それに賛同した観客たちは、次々と募金箱にお金を入れて行った。
笑顔のクサナギが、「ありがとう!」と、募金をした観客へ感謝する。

そしてかっぷくの良い中年男性が、1万円札をみんなに見せながら、笑顔でクサナギの持つ募金箱へ投入する。
それを見た観客たちは、1万円も寄付したオッサンに、「お~~ッ!」と、どよめくと、拍手で称えるのだった。

「ばかだな…」
僕が苦笑いでそう言うと、隣のグリオが、「え?」と、僕の方へ向く。

「俺…、見ちゃったんだよ前回のライブで…」
僕を見たグリオへ言った。

「前回って、吉祥寺のライブですか…?」(グリオ)

「そう…(笑)」(僕)

「何を見たんですか?」(僕に聞くグリオ)

「クサナギは、ライブの打ち上げに参加した女からは、カネ取らないだろ?」(僕)

「はい…、いつも、『良いよ!、良いよ!』って、言って、おごってますね?」(グリオ)

「そう!、そうやって自分は女にカッコつけて、その女の分を足した額で、俺たちに割り勘だと請求してる…(笑)」(僕)

「セコイっすねぇ…」(グリオ)

「まぁ、でも…、それは良いよ別に…。問題はその後だ…」(僕)

「そのあと…?」(グリオ)

「俺、見ちゃったんだよ…(苦笑)」(僕)

「何をですか?」(グリオ)

「集金してレジで会計を済ますやつが、自分の支払いは、あの募金箱から払ってンのをよ…(笑)」(僕)

「マジっすかぁッ!?」(グリオ)

「ああ…、だからあの募金は、やつの飲み代だ…。残った分は、全部あいつのポケットさ…(笑)」(僕)

「さっきのオッサンの、1万円もですかッ!?」(グリオ)

「ああ…、たぶんな…(苦笑)」(僕)

「よく、そんな事、出来ますねぇ~?」(グリオ)

「そうだな…?、俺も思うよ…。信じられねぇ事するヤロウだなって…」(僕)

「罪悪感とか無いんですかね?」(グリオ)

「そんなのあったら、そもそも、そんな事しねぇだろ?」(僕)

「へぇ~…」(呆れるグリオ)

「薄っぺらいやつだろ?(笑)」(僕)

「はい…」(グリオ)

「でもな…、社会ってのは、そういうキレイ事を並べてるやつが、支持されるモンなのよ…。おバカな国民が、ああいうやつをのさばらせちまうのさ…」(僕)

「許せませんね!」(グリオ)

「まぁ…、俺らが、とやかく言う筋合いはねぇが…、俺は、あいつと酒は、一緒に呑めねぇのは確かだな…」(僕)

「僕もですね…!」(グリオ)

「ああいう人間と酒を呑んでる時間自体が、勿体ねぇからな…」(僕)

「そうですね…」
グリオがそう言うと、カズのバンドのラストナンバーが始まった。


 18:00
カズのバンドのライブが終わり、僕らはハリーのハイエースで、東松山駅の方面へと向かっていた。
辺りも暗くなり、道行く女性たちは盆踊りに向かうのか?、浴衣を着て歩いている姿が多く見受けられた。


「ハリー、ここで良いよ!」
駅から、ほど近い場所で、カズが運転するハリーに言った。

「じゃあ!、ありがとうハリー」
車を降りた僕が言う。

「お疲れさまでした」(グリオ)

「俺のギター、頼んだぞ!」
そして、自分のギターをハリーに託したカズが言う。
ギターは、これからハリーがカズの自宅に届けるそうだ。



「へい…、じゃあみなさんもお気をつけて…」
運転席のハリーは窓越しからそう言うと、その場から走り去って行った。

「あのさ…、ハリーって、どこで知り合ったんだ?」
ハイエースを見届けながら、僕が隣に立つカズに聞く。

「ああ…、ハリーはな、俺んちの裏の、“ぐるぐるセブン”で知り合ったんだよ」(カズ)

「へぇ…、そうだったんだぁ…?」(僕)
“ぐるぐるセブン”とは、カズの自宅裏にあるスナックである。

「そこで飲んでたら、ハリーがカラオケ歌っててさ…、それで店で話しているうちに、ハリーがキーボードやってるという話になって…」(カズ)

「それで、バンドを一緒に組もうかと…?」(僕)

「まぁ…、そんなところだ…」(カズ)

「それで、近所に住んでるから、ギターをお前の家に届けてくれるんだ?」(僕)

「そうなんだよ。助かったぜ(笑)」(カズ)

「アニキ!、アニキ!」(突然言うグリオ)

「ん?」(グリオへ振り向く僕)

「ほら、見て下さいよ!、結構チャンネー多いじゃないですか!?(笑)」

盆踊りに向かう若い女性たちを見ながら、グリオが僕に言う。
※チャンネーとは、ネェチャンの事。言わなくても分かるか…?(笑)



「ホントだぁ…!、結構大掛かりなイベントなんだな…?」(僕)

「俺のライブより、こっちの方が全然客が多いじゃねぇか…」(カズ)

「無名だから仕方ないですよ…」
グリオがそう言うと、カズは「ぐぅぅ…」と、唸るのだった。

「じゃあ、そろそろ会場へ向かおうぜ…」
僕がそう言うと、カズとグリオも歩き出した。


「なぁ…、今日の俺、どうだったよ!?」

カズが歩きながら僕に聞いて来た。
彼はライブが終わると、いつも僕に感想をしつこく聞いて来るのだ。

「ああ…、やっぱ今日観てて、似てるなって、思ったぜ…」(僕)



「やっぱ!、ジェフ・ベックにかぁッ!?(笑)、俺、よく言われンだよッ!(笑)」(カズ)

「いや…、デーブ・スペクターだ…(笑)」(僕)



「お前、そればっかりじゃねぇかぁッ!」(カズ)

「今日、つくづく思ったぜ…(笑)」
そう言った僕の後ろでは、グリオが懸命に笑いを堪えているのであった。


 それから僕らは、彼岸やぐら祭りの会場に到着した。
会場ではたくさんの屋台が並び、広場の中央には例の巨大な櫓が建っていた。

その櫓を囲み、大勢の老若男女が盆踊りをしている。
流れる曲は、地元の滑川音頭であった。

桑を摘む娘の 笑顔にほれて~♪、旅のつばめも 宙がえり~♪(滑川音頭)

「でけぇ~!」
大櫓を目の当たりにしたカズが、驚いてそう言う。

光る田面を うるおす水は~♪、小沼大沼 超えてくる~♪(滑川音頭)

「例のやきとり、売ってますかね!?、俺チョット見て来ますよ!」
グリオは僕らにそう言うと、東松山やきとりの屋台があるか探しに行った。




「懐かしいな…盆踊り…。昔は…、俺が小学生だった頃は、近所でもやってたんだがな…」
カズが踊る人たちを眺めながら、懐かしそうに言う。

「今は、やってないのか?」
カズに振り返り、僕が聞く。

「ああ…、盆踊りやってた神社の近くに都営団地があってな…、そこに住んでた偏屈で独りモンのジジイが、『盆踊りがうるせぇ!』って、クレーム入れて以来、中止になっちゃったんだよ…」(カズ)

「ふぅ~ん…、別に1年に1回くらい、いいじゃねぇか…、なぁ…?」(僕)

「そういう偏屈なジジイは、誰にも相手にされないから、イジケた毎日を送ってんだよ。人が楽しそうにしてるのが、とにかく気に入らねぇのさ」(カズ)

「中止にすれば本人は嬉しいのかね?、虚しさが残りそうな気がすっけど…」(僕)

「そしたら、また次のターゲットを探して、いちゃもんつけるんだよ。そういうイジケたヤロウは…」(カズ)

「次のターゲット…?」(僕)

「ああ…、そのジジイは、今度は近所にある養護学校が年に1回行う、運動会にもクレーム入れて止めさせたんだ…」(カズ)

「とんでもねぇジジイだなぁッ!?、年に1回の養護学校の運動会を廃止させるなんて…、可哀そうになぁ…」(僕)

「とにかく今や、クレームを言ったもん勝ちなんだよ」(カズ)

「そんな少数意見を、何でもかんでも聞き入れてたら、おかしな事になって、将来、どんどん住みづらい生活になっていっちゃうぜ」(僕) ←※平成あたりからもう、なってます!

「俺もそう思うよ…」(カズ)

「お前の町も、盆踊りを復活させりゃあ良いのにな?」(僕)

「それが、ダメみたいだぜ…」(カズ)

「どうして!?…、どうせそんなジジイ、もう生きちゃいねぇだろ?(苦笑)」(僕)

「一度、クレームが入ると、そういうのは復活しないんだよ」(カズ)



「まるで、絶版に追い込まれた、“ちびくろサンボ”の絵本と同じだな?」(僕)

「あの絵本は、黒人差別だと世界中で叩かれて、絶版になったんだよな…?」(カズ)

「ところが違うらしいぜ…、あれは、家族たった2人がやっている、新しく設立された自称、人権保護団体が最初に狙ったターゲットなんだよ」(僕)

「どういう事だ?」(カズ)

「お前も、世界中から、“ちびくろサンボ”は黒人差別表現だと洗脳されてるだろ?、違うんだよむしろ逆だ…」(彼)

「逆?」(カズ)

「サンボは、黒人の生活を世の中に広くに伝えた事を評価されていて、良書として世界中の小学校の図書室に置いてあったんだ」

「あの時、“ちびくろサンボ”を差別だなんて誰も考えていなかったし、そんな気持ちで読んでいる人なんていなかった」

「何の実績も無い、自称、人権保護団体の家族2人が騒いだのを、毎朝新聞とかの左翼マスコミが煽って問題を大きくしたんだよ」

「ああいうやつらは、問題をこじらせるのが目的で、解決する気など初めからない」

「人権擁護を謳っているが、そんな気なんかないのさ。あいつらは問題をこじらせて、金儲けしたいのが本当は目的の活動家なんだよ」

「その煽りで、藤子不二雄の“ジャングル黒ベェ”だって、放送禁止アニメになっちゃったんだから…」

僕がそう言うと、「あのアニメ面白かったよなぁ~…」と、カズが残念そうに言う。



「石森章太郎の、“サイボーグ009”だって、黒人のピュンマの描き方が差別だって話になって、キャラの顔、変えられちゃったんだから…」(僕)



※カッコよくはなりましたけど…(笑)

「“サイボーグ009”は、反戦と人種差別を取り上げていたマンガで、むしろ逆じゃねぇか!」(カズ)





「ダッコちゃんや、カルピスの商標もだ…」
「まったく…、恐ろしいよ…、たった一家族の左翼活動家がいちゃもんつけたら、それで世界中の人々が差別だと信じさせられちゃうんだからな…」

僕がそう言うと、グリオが丁度戻って来た。

「ありませんでした…」(グリオ)

「何が?」(僕)



「やきとりですよ…」(グリオ)

「ああ…、そうか、そうだったな…?」(僕)

「何のハナシしてたんですか?」(グリオ)

「グリオ…、お前、近所に偏屈でイジケたジジイ住んでるか?」(僕)

「住んでますよ」(グリオ)

「そうか…、なら、そのジジイには、笑顔で挨拶をしとけ…、嫌な奴だと分かっててもだ」(僕)

「何でですか?」(グリオ)

「以前、ある心理学の調査書のデーターに出てた。子供の泣き声がうるさい!と、クレームをつけるのは、騒音のレベルじゃないとな…」

「顔見知りで挨拶を交わしてる家族だと、隣に住んでて子供の泣き声がうるさくても、クレームを入れないが、面識のない人だと、離れた場所に住んでる家の子供の泣き声にクレームを入れるってな…」

僕がそう教えると、グリオは「そうなんですかぁ?」と、参考にした。

「つまり、気に入らないやつのしゃべり声は、大きさに関わらず、耳障りだからクレームを入れる…」

「お前も学校や会社で見た事あんだろ、先生や上司が、気に入ったやつの話声には注意しないけど、気に食わない奴の話声には、小声でしゃべっても耳障りだから、うるさい!って、怒ってるところをよ…」

僕がそう言うと、「それってクレーム入れるやつの、単なる好き嫌いって事じゃないですか!?」と、言う。

「その通り…!、そんなもんなんだよ…。くだらねぇだろ?、言ったもん勝ちなんだよ、この世の中は…」

げんなりして言う僕の後ろでは、いつの間にか、三波春夫の大東京音頭 に曲が変わっていた。



 東~京ぉ~、東~京ぉ~、だぁ~い東~京~♪…、行くぞ世界の果てまでも~♪、そぉれ、はぁ~てまでぇもぉ~♪(大東京音頭)

そして、大東京音頭が終わった。

「やきとり無いんじゃ、東松山まで移動しますか?」
曲が終わって、グリオは僕に向いて言った。

「そうだな…、せっかく近くに来てるんだし…」(僕)

「仕方ねぇな…」(カズ)

僕らがそう話していると、会場から次の曲のアナウンスが流れた。

「それではご来場のみなさん!、準備は良いでしょうかッ!?、次はいよいよ、“東松山音頭”ですッ!、大いに盛り上がりましょ~うッ!」(アナウンス)

「次は東松山音頭だって…」
アナウンスを聞いたグリオが言う。

「ぼたん音頭の事だろ…」(僕)

「さぁ、行こうぜ…」
カズがそう言うと、東松山音頭が始まった。

ひぃがぁし、まつやぁ~まぁ~♪(東松山音頭)

その曲が流れ出した瞬間、僕ら3人がズルッと、崩れる。

チュチュンがチュン…!、アソレッ!、チュチュンがチュン…!(東松山音頭)

「さっきハリーが歌ってたやつじゃねぇかぁ~ッ!?」(驚愕のカズ)

松山に!、突然UFOが飛んで来たぁ~♪、アソレッ!(東松山音頭)

「ほらッ!、見て下さいッ!、地元では浸透してるみたいですよぉッ!」(グリオ)
グリオが指す方では、一糸乱れぬ振り付けで、櫓を囲んだ老若男女が、笑顔で踊る!

「ありえねぇ…」(蒼ざめた僕)

それを猟師が鉄砲で撃ってさ、煮てさ、焼いてさ、食ってさ♪(東松山音頭)

「あッ!、あれを見て下さいッ!」
今度は櫓の最上段を指すグリオ。

僕とカズが櫓を見上げると、そこには、ハッピを着て笑顔で踊るハリーが、こちらを見下ろしていた!

「イッチョメッ!、イッチョメッ!、ワァ~オ!…、イッチョメッ!、イッチョメッ!、ワァ~オ!」(ハリー)

ハリーの掛け声に合わせ、老若男女の盆踊り客が、両手で胸をバシバシ叩きながら櫓の周りを回り出す!

「何やってんだぁ~あいつぁ~…?」(見上げながら呆れて言うカズ)

「帰ったんじゃねぇのかよぉ~ッ!?」(見上げて言う僕)

ひッ、がッ、しッ…、ワァオッ!、村山ッ、イッチョメッ!」(ノリノリのハリー)

「間違えてますよ歌詞…(苦笑)」(ハリーを指すグリオ)

「ワァァァ~~~~~オッ!」
左右の人差し指を下にいる僕らに指すハリー。

「んッ!?」(僕)
よく見ると、周りで踊っていた盆踊り客の全員が、僕ら3人に両手人差し指を向けていた。

「これ…、フラッシュモブってやつじゃないですか…?、プロポーズの時とかにやる…」
グリオが僕に言う。

「何のサプライズだよぉッ!?」(カズ)

「意味が分からん…?」(僕)

僕がハリーを見上げてそうボヤくが、ハリーは満面の笑みで、まだ僕らを左右の人差し指で差したまま、固まっているのであった。



「イッチョメ!…、ワォ♪……」


To be continued….