任務遂行中「隊長!任務なんでしたっけ」「知らん!」

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基本わけのわからない下町まつはま妄想の断片をおいてく倉庫になるかと・・・。
ていうかブログの使い方わからねー

Amebaでブログを始めよう!
この不愉快さは、なるほどたいしたもんだ。

いくらだってこの胸は傷んで血を流すのに。誰にもこれが見えていないなんて、どうかしている。
今すぐ怒鳴り散らして、この怒りのまま、悲しみのまま、虚しさのまま、叩きつけて。そして壊れてしまえばいい。

いくらだってできるんだ。できないと思ってるだろう。
今すぐ、やってみせようか。

誰も人の気持ちなんて知りやしない。
誰にもこの悲しみなんてわからないだろう。たった今、笑いながらどれだけの絶望を抱えているかなんて、知りもしないんだろう。
思い知らせてやろうか。
沈殿した言葉を腐るほど吐き出して呪い殺してやろうか。そしてこの暗闇の前にひれ伏せばいい。
そうすれば満足だろう、きっと満足できるだろう。





「アホちゃうの」



「…は、」



浜田はあっさりと言った。
なんでもないように、表情も変えずに。自然に、なんの気負いもなく。
どうして、なんで、
取り乱すどころか、冷静で。そして澄んだ瞳にまっすぐ見つめられて、なぜか動けなくなる。
浜田の静かな瞳に射竦められたかのように、呼吸すら。

なにか、言わなくては

そう思ってもなんの言葉も浮かばない。どころか思考回路すらうまく働かなくて、
ただただ、浜田の目を見つめ返すしかなかった。

どうしてそんな目をするんだろう、そう思った。
なんの変哲もない、50も過ぎた男の瞳に、なぜ綺麗だなどと思ってしまうのだろう。
たった今目の前の男に投げつけたひどい言葉の数々を。それをありったけの醜い感情を込めて投げつけた相手に向かって、どうしてそんなに澄んだ瞳を向けることができるのか。
思わずひれ伏したくなるような情動に駆られて、なぜそんなことを思うのかわからなくて。
ただ目の前の男が恐ろしくなった。
この男は、ほんとうに人だろうか。
全ての罪を暴かれたかのように自分自身がひどく小さくみすぼらしく感じで、ただ圧倒された。
わけのわからない震えが全身を覆うように広がり始めたとき、浜田は困ったように眉を下げた。

びくりと肩を揺らす。反射的に顔を逸らした。
怒らせてしまっただろうか、なんて今更気にすることでも後悔することでもない。ないのに、そんな顔をされるとどうしていいかわからなくなる。
わけのわからない恐怖はもうなくなっていた。
目の前にいるのは、どこまでも優しい瞳を持った人だったから。
だけど、これからどうすればいいのかわからない。
あんなにも壊れてしまえばいいと、傷ついてしまえばいいと思ったのに、この人を困らせてしまうことに焦りみたいなものを感じてしまっている。
なぜかはわからない。だけどそう、
まるで叱られた子供みたいにうつむいて、何も言えないず立ったまま動けない。

なにか言わなくては、なにか、…なにを?

思っても喉が張り付いたように動かない。何を言えばいいというのだ。
たった今、浜田に向けてはなった言葉や感情。それは浜田が傷つけばいいと思って投げつけたものだ。これでもかと投げつけて、投げつけて、―――浜田は逃げなかった。
その全てを黙ったまま聞いて、そこから立ち去ってしまってもいいのに。感情任せの、子供の癇癪のような―――――さっきの僕はまさにそれだった、は、無視して行ってしまってもよかったのに。浜田は、それをしなかった。
すべてをその身に受けて。
あの、呪いのような言葉を、壊してしまいたいままに暴走する感情を、すべて。

浜田が今どんな顔をしているのか気になった。知りたくて、顔をあげた。




「・・・・・・っ」




笑っていた。困ったように、だが穏やかに。
普段の横暴さなどどこにもなく、瞳は老成された柔らかさをたたえていて。愛情さえ感じて。



ああ、なんて、


ちっぽけな僕の怒りや悲しみを、僕には大きくて抱えきれなかった激しさを、
全て受け止めて笑う人。

それはあるのだと、そういう気持ちもあるのだと。
そういう人間だっているんだ。こういう人間だって。
これでいい。ここにいてもいい。

言葉ではない。だけど、言葉より確かなものでそう言われているようで。
そして自分でもそう思えて。


言葉にしないと、伝わらないことがある。
うまく言葉にできなくて感情ごと飲み込んで。伝わらなくて悔しくて、きっと誰にもわかってもらえないのだと思っていた。
このまま気づいてもらえず生きるなら、死んでいく言葉の代わりに何かを壊してしまえたらいいと思った。
そう思って壊せるものを探して、そしてあなたがいた。

僕に気づいたあなたは、ちらりと僕を横目で流し見てすぐに視線を元に戻した。
もう僕を見ていないあなたの視線を無性にこちらに向けさせたいと思って。
そして、とても壊してしまいたいと思って。


―――――ああ、なんて愚かなんだろう


言葉にしないと伝わらなくて。
言葉にできなくて苦しくて。
だけど、言葉にせずとも、伝わることがある。
今、あなたがそうしたように。




好きだ、好きだ、好きだ、好きだ

きっと僕は最初から、


今の、この溢れそうな気持ち、またあなたにぶちまけてしまいたい。
今度は、あなたを傷つけるためではなく。
また受け止めてくれますか。
また、困ったように笑うのでしょうか。

あなたの笑った顔がみたい。