これは,
名古屋のとある喫茶店に初めて入った男の手記である。

以下,喫茶店で書き認めた原文ほぼままである。
「
甘口抹茶小倉スパ。それに……
ストロングコーヒーで。」
コーヒーだけかと思ったがミルクケーキとビスケットがついてきた。
さて,どの辺りがストロングなのか,味わってみるとしよう。
なるほど,一口飲んで理解した。いや飲むまでもない。
口に含んだだけで広がる苦さ。これは濃い!まさにストロング!
と書いているうちにスパゲティが運ばれてきた。時刻は13時7分。
これもどうしてなかなか
不気味な姿をしている。

HA-HA-HA!なんのジョークだい?
これをどうやって食べる?
「……。」
先ずはクリームか?それとも小倉か?ふむ,
両方絡めていただくとしようか。
しかし太いスパだ。というよりこれはスパなのか?
「……。」
絡め取ったフォークを見つめること数秒。
ええい、ままよ!心の雄叫びをあげてひと思いに口へ放り込む。
……甘い。どうやら俺はチョイスを間違えたようだ。
カメラとポメラを持ってきていてよかった。
スーツ姿だし仕事をしているようにい見えるだろう。
実際ライターだったらこんな感じなのだろうか。
などと思いつつ食事に戻るとする。
甘い口を治すためにストロングを一口含む。
甘い苦いの連続攻撃はクリティカルヒットだ。
しかしこれはあれだな。
スパゲッティが極太なのと小倉あんのせいでホットケーキを食べているような錯覚に陥る。
そしてストロングコーヒーはエスプレッソをカップになみなみ注がれたイメージまさにそんな感じ。
そして俺自身の弱点に気づいてしまった。
共感されることはないが,俺は甘いものを食べるとその後に肉を食べたくなる人なのだ。
それなのにこのメニューには肉が欠片もない。当然だが。
かつて甘党だった俺もこれには苦しめられる。
何せ肉を食いたくてしかたない状況が現在進行中だ。
これは早めに攻略してみそカツを食べにいかねばならぬ!
しかし敵は強大だ。しかも執筆しながらの戦いは
長期戦になるだろう。
……なぜ俺はこんな
苦行をしているのだろうか。
……それは,面白いからだッ!だがッ!これは辛いッ!甘過ぎて辛いッ!それでも平然を装って食うッ!食わなければ意味がないッ!これは俺とスパの戦いなのだ!
……頭痛くなってきた。
どうやら持病の
カフェイン中毒のようだ。
クソッ!ストロングは効きが早すぎる。
スパも
緑色の触手モンスターに見えてきた。
これはまずい。リョナられてしまうッ!俺の精神が!
とまあふざけた文章を書きながら半分ほど食したのだが,崩れたクリームに半壊した小倉あんが緑色の極太パスタに絡んでいる様はまさに触手モンスター。
洋げーのオクトパスでもここまで気持ち悪くはならないだろう,という体だ。
やばい,意識したら食欲が失せてきた。
ここでストロングを一口。
なぜ最初に「佐藤はいりますか?」と聞かれたときに「いらない」と答えてしまったのだろう。
強すぎる。佐藤とは誰ぞ?
それよりこれはストロングではない,ストロンガーだ。いや,ストロンゲストか。
……深泥委色の,いや緑色のタコはいるのだろうか。
タコは体表面の色を自在に変化させられるからいるんだろうな。
タコの血は緑色だったか?いや青だった気がする。
さすがにそんな連想ゲームをしている場合ではないな。余計に食欲が失せる。
“
出されたものは残さず食う”をモットーにしている俺だが,かつて
新潟で2kgカツカレーを完食した俺だが,今回はベクトルが違う。違いすぎる。
胃袋が受け付けねえ。かつてこんなことはあっただろうか……。
そういや小学生の頃に
ココア卵焼きを作ったことがあったっけ。
あれもクソ甘くて食いきれなかったなあ。
……と意識が過去に飛んでいたところで,現実を直視しようか。
敵は残り半分。俺の(胃袋の)ライフは残りわずか。
カラータイマーがピコンピコン鳴り響いているぜ。
ここからが正念場だ。頑張れ俺。負けるな俺。
ふんふんふ~ん♪「鉄のフォルゴーレ、無敵フォルゴーレ」現時点を持って俺の胃袋をフォルゴレと名付けよう。
しかし,キャンチョメに歌ってもらっても立ち上がれる気がしないさ。
隣の男子高校生が言っている。
「メニューのその他が凶悪なんだけど!クリーム明太子」
「いっちゃう?」
いっちゃえ!心の中で盛大にエールを送るぞ。
ここにきて安牌を選ぶなど外道!人として間違っている!そして俺と同じ目に遭え!
「注文いい?まだ?」
「ちょっと冒険しよ」
何を頼むんだ?俺は若者に期待する。早くウェイトレスを呼べ!そして叩け!地獄の門を!
さあ,早く!
「すいませーん」
「はーい」
「甘口メロンスパひとつ」
「あ,ちょちょちょ,メロンないですよね?」(厨房へ向かって)
「メロンないよ」(厨房から)
「あ,じゃあ甘口キュウイスパひとつ」
さて、これはどうなるのか。俺は自分のスパと小競り合い程度に戦いながら様子を伺う。
「ちょっと上着脱ごう」
「俺もパージするか」
ほう,本気ということだな?(違
それにしてもパージという言い回しに共感を覚える。これは将来有望な若者だ(何
「茉奈香にぃ,チャージしているんだよ」
なんだ,彼女の名前かと思ったらICカードの名称か。俺はPASUMO派だからな、分からなかったよ。名古屋でもPASUMO使えたし。
それにしても料理が運ばれてきた際に「すいません、写真って撮ってもいいですか?」と尋ねる若者偉いぞ。やはり将来有望だな。
……ところで話を聞いていると彼らは大学生なのか。
「なんだこれ。あったかい甘い……。」
スパゲッティをズルズルと食べる彼ら。頑張れ。
「割とこれ,食えるな」
「そう思った」
俺も最初はそう思ったよ。
「熱いキウイとか初めてだな」
「この量だからいいけど,もっと量あったら苦しいな」
「やっぱさ,空腹パワーなのか知らんけどさ,いける気がする」
横から流れてくるそんな会話を聞きながらようやく抹茶小倉スパを完食した。
時刻は13時54分。書き物をしながらということもあるが,
「完全に持久戦の構えとってるから」
そうだ,若者よその通りだ。短期決戦なんて挑もうとしたら即死確実だ。分かっているな。
さて、残すはストロングのみ。カップ3分の1ほどのストロングに,
「食い始めの勢いはどこにいったんだって気分」
「見た目じゃこんだけしかないのに」
ミルクを入れてビスケットをかじりながらゆっくり飲んでいく。こちらも持久戦だ。
横から耳に入る若者の会話が的を得ていて面白い。
さあ、宴の始まりだ!俺は終わるけど。
塩味のビスケットがこんなにおいしいとは。
「どうにかして別の攻略法ないかな」
「一気にばーっといっちゃえよ」
俺は止めはしないさ。赤の他人だしな。
さて,そろそろ宴も終わ……
「これさ,塩かければなんとかなるんじゃないかって思ったn」
「やばいな。かめば噛むほど甘みが広がる」
「早く食ってしまわないと腹が膨れてしまうぞ」
何こいつら楽しい!と一人楽しんでいたが,先も言ったが俺の宴は終わりだ。
ストロング残り一口。
「これさ,水と一緒に流し込んでいかないと」
死に急ぐなよ,若者よ。まだ君たちには未来が待っている。
甘いスパゲッティを食べ続けるという近未来が,な。
最後の一口を飲み干し,最後のビスケットを飲み込んだ。これで撤退するとしよう。
俺は勝ったのだ!貧弱な若者とは違う!
「早く食ってしまうんだ!」
「口の中が甘くて……」
フードファイトの基本だが,箸を置いた瞬間に敗北が確定する。
俺はそう思って少しでも,
「咀嚼するじゃん。徐々にさ,吐き出したいって感情がこみ上げてくる。のどが受け入れを拒否している」
そうだッ!しかし箸(今回はフォーク)を置いたら負けだぞ。
そう,これは戦いなのだ。何度も書いているが。
「これはさ,矛盾しているんだよ。温かいものは温かいものでさ,冷たいものは冷たいものなんだよ。冷たいものであるべきものが温かくてそれが冷めたからって食べたいかどうかは食べたくないだろ」
至極まっとうなことを言っているようだが,それは先入観だとか既存概念とか言うものであって,ここで通用する訳がないだろう?
何を求めてこの喫茶に入ってきたんだ。普通のものを食べるためじゃないだろう?
普通じゃないものを注文しておきながら既存概念で判断するのはお門違いだ。
ここは常識が通用しない喫茶なんだぜ。それを求めていたんだろうが。
何を甘いことを言っているんだ!甘いのはメニューだけで勘弁だぜッ!
なんて思いながら水を飲み,僅かに残っていた口の中の嫌悪感を胃袋へ洗い流し,会計を済ませるために筆を置くことにしよう。
若者の死に様をしかと見届けたかったが,俺にも時間が残されていないのでね。
それではよいランチを。
「鼻つまんでやるか」
「おまえ最初のスピードで食えよ」
以上,現地メモ。
「これどうぞ。お一人で完食されましたから」
会計を済ませた俺にそう言って手渡してきたのは一枚のカードだった。

そこで気付いてしまったのだ。
俺が注文した“甘口抹茶小倉スパ”は
1合目だったということ。
そして隣の男子学生達が注文した“甘口キウイスパ”は
7合目だったということ。
これはキウイの方が食べ難いということだろうか。
残り3品。
とは言っても名古屋に行く機会はもう無いk……いや来月名古屋支社に行かなきゃ行けなかったのか。
いや,登頂する気はないからまた行く必要はないんだけど,な。