これまで生きてきた中でうれしいことを挙げなさいと言われたら

真っ先に思い出すのはこの日の出来事かもしれません。

庭のリコリス今年も咲きました。

 

 

子供達が幼い頃、手をつないで散歩をした道は

いまはもう舗装され、車が通る道になってしまいました。
リコリスの花が咲くとあの道を思い出します。


田んぼが広がり小川があり・・土手には大きな薄の株に葛、薊
その陰にひとむら咲いていた優しい花の事。


この花を初めて見た私は

あまりの可憐さに、半分ひとり言のように子供達に話しかけていました・・・

「可愛い花ねえ」「なんて名前なのかなぁ」

しばらく私はそこに立ち止まって見惚れていたのだと思います。
花を見つめる私の手をじっと握っていた幼い手のぬくもりと
頬を撫でる柔らかな風、夏間近のことでした。

その日の夕暮れ・・。
外に遊びに行った子供たちが帰って来ません。
いつもならとっくに戻っている時間なのにおかしいなと、表に出て姿を探すと、
大きな夕日を背に兄と弟の二人の影が見えて、

心底ほっとして、思わず

「どうしたの・・どこまで行っていたの」

と、大声を出してしまいました。

そんな私に二人の子供はそっと花を差し出したのです。

「おかあさんこれ・・」

ピンクの花、散歩道で見たあの花。
それを球根ごと掘り起こして持ち帰ってきたのです。

小さなプラスチックのスコップは見事に砕けていました。
泥んこの指先、爪の中にも土がいっぱい・・。

大きな葛や薊の群がるあの叢からこの株を掘り起こすのは

大人でも容易ではありません。
子供の手には余る作業だったでしょう。
幼い手でそっと根を切らないよう花を折らないよう精一杯の力で・・・。
子供達の思いがそのまま私の心になだれこんで、

嬉しくて嬉しくてぎゅっと抱きしめました。

今も覚えているだろうか・・・。

大人になり遠に親離れしてしまった息子たち。

言葉少なくなって触れ合うこともめったにないけれど

 

あの日の出来事だけでも、一生分の親孝行をもらった気がするのです。

庭に根付いたリコリスの花、大切な私の宝物です。