春
久しく沸かぬイメージと作られることの無かった時間のせいにして、暫くの間、蓋を閉じていた。
平坦な地面に封をし、何かが溢れてくるのを待っていたようなこの数年の間、手帳こそは汚れ、データにても打ち込んでいたメガバイトの数にて改めて視認してみたらそんなに膨大にならずの文字数にふうと溜息を溢してしまった。
思索の時間などなく、甚だその枯渇した意識に悲しみを被せる暇もなく、時ばかり過ぎていった。
そんな時だ、雨が降り出したのだ。
全く意図せずの雨が降り出したのだ。
私は車のシートに座り、音楽を聞いて呆けていた。
そんな私の視界には車のフェイクレザーのハンドル、その向こうにフロントガラス、打ち付ける雨は、天からこぼれ落ち、硝子に落ち、泡みたいに弾けて、粘液のように流れて、ボンネットの下の方へと視界の外へと行ってしまう。
かたや、かたや、サイドガラスから流れて行ってしまう雨粒は、フロントガラスとはまた異なる風情を。
こちらはどうして液体じみては見えぬもので、まるで水みたいに白い線(白いわけではないが光の加減で白く見えるのだ)を連れて、見えなくなってくのだ。
その雨が、おそらく平坦な地面に空いた穴に水を注ぎ、私の指をスマートフォンにむけている。
そもそも、私は情景の描写を文字化することがとても好きだったし、書いていた文書でもそれらを書き起こすことにとても時間を作っていた。
かつてまさか自分が乗用車のシートから降る雨についてわずかでも思索する時間を持つことになろうなどと、想像しただろうか。
否しなかった。
歳を重ねたものだなぁと思いながら、なぁんとなく書いて、私はまた丸くなるのだ。