映画好きと知った人に対して「どんな映画が好き?」と聞いたら、「フランス映画が好きです」と答えられた場合。

どう思いますか。

フランス映画のイメージって、色々あると思います。

 

自分だったら「僕も好きなんですよ!「TAXi」シリーズは全部観ていますし。最新作でゲロとウンコが大噴射するシーンは最高でした!あと、「屋敷女」や「マーターズ」も大好きなんです。フランス人って、倫理観が壊れた映画ばかりでスカッとしますよね!」と言いますが、二度と会話できなくなる気はします。

 

一般的には、もうちょっとアート寄りの難解な作品のイメージでしょうか。

素直には感動させてくれない、困惑の方が勝る様な。

シネフィル共(あるいはカンヌ映画祭の審査員)が喜びそうなやつ。

今回ご紹介する「パリタクシー」に関しては、「大丈夫だよ!」と言いたいですね。

後期高齢者から赤ちゃん、そこら辺の犬や猫でも、幅広い観客を満足させる人情ドラマの傑作なのです。

 

無愛想なタクシー運転手と、おしゃべりな金持ちの老婆。

その二人の出会いから別れをハートウォームに描く映画だというのは、ポスターからもあらすじからも伝わってきます。

これが裏切られないどころか、予想を遥かに超えて感情を揺さぶり、涙腺への過剰な攻撃によって大洪水が引き起こされる満足具合なのです。

 

これはもう、しゃらくさいイメージのフランス映画とは全然違います。

思い出したのは韓国映画です。

韓国映画の、「求めるものは大盛りで、味付けは濃い目で」といった過剰なサービス精神です。

「泣きそうか?オラ、もっと泣け!ジャンジャン泣け!まだまだいくぞ!」という「泣かせ」演出のフルコースに「もう十分ですから、ホント・・・」と思いながらもドバドバ泣いた経験はありませんか。

あれです。

 

あと、全体としては感動作なのですが、途中で結構ハードな展開になるのです。

老婆が飄々と語る過去の思い出話が、もの凄いパンチが効いている!

この辺も韓国っぽいのです。

特に、ある復讐シーンで登場する「チン炙り」シーンには度胆を抜かれました。

エッ、そんな話なの!

休日に、ささやかにマッタリと良い話を楽しもうと思った人には、甘いクッキーの中にハバネロを発見した様な衝撃を味わうでしょう。

 

不愛想な運転手も、うるさいババアと思っていた客に対しての見方が一変したのでしょう。

自分も炙られたら嫌だな、と思ったのかもしれません。

一気に彼女への態度が丁寧かつ親密になり、カスタマーサービスが急上昇していくのでした。

 

それで、その後どうなったの。

これは運転手も観ている人もすごく興味のあるところです。

勿体ぶって話し出す彼女の話は、さらに波瀾万丈なものへとなっていくのでした・・・。

 

本当に壮絶な過去なのですが、これを話しときゃ絶対舐められないという自身があるのでしょうね。

もうこっちも正座ですよ。

老人の人生経験には敵いませんから、マウントを取られ放題なのです。

何にも良い事が無い人生も、有用になる事があるのです。

生きてさえいれば。

 

フランスの名所を見ながら、過去の歴史にも触れつつ、人情モノへと回収して感動させる。

実に器用ですが、これはやっぱり韓国映画のお得意とするものです。

「コリアンタクシー」としてリメイクさせるのも時間の問題かも?

日本でリメイクさせるなら「阿部定タクシー」でキマリでしょうね。