THE　HUMAN　BEASTはイギリスで結成されたVo/G、Vo/Bs、Dsの三人から成るトリオ編成のバンド。これから紹介するアルバムは７０年にリリースされたものでバンドが唯一残したもの。もちろんメンバーの中に後でビッグネームとなった人物はいないが、７０年初頭に制作されたといった事もあって、そのサウンドはハードロックへと移行中にあるものの、G音が少し古臭くも感じられるファズ音である事も相俟って、サイケ色の濃いものとなっている。

トリオといった事では各奏者における演奏能力が試されるところとなるが、全体的にインド音楽に影響されたものか、そのサウンドはオリエンタル的とも思えるもので、熱唱しないVoのクールな歌唱法やG奏者がワウ・エフェクトを多用したせいか少し浮遊感のある曲調。Gは単音リフを特長とした決して弾き倒したりしないクールな奏者で、ブルース臭さをほとんど感じさせないジャズ的アプローチ。リズム隊二人の中のDsは、非常にバランスの整ったチューニングを特長としており、そのサウンドは手数が多くバスドラのボトムをしっかり効かせた重量感に溢れたもの、それが故に最小ユニットから成るサウンドの隙間を埋めるといった事では最適な人物。Bs奏者はリッケンバッカー特有の硬く締まった音を特長としたもので、ベースラインがはっきり聴きとれる特長あるもの。それが故にサウンド自体に曖昧さがないのがこのバンドにおける最大の特長であり個性。

インパクトのあるバンド名（野獣人間）とは裏腹に、その放つ音はブリティシュ・ロックだけに少し湿り気を含んだ気品漂うものとなっており、楽曲構成としては疾走感に富んだものから落ち着いたミドルテンポのものまで多彩。全体的に味わい深く不思議とも言える楽曲がそう思わせるのか、プログレ・ハードとも呼べるもので、決してハードロックの熱量を直接肌に感じさせてくれるものではない。正にイギリスのバンドしか出せない、インテリジェンスを感じさせてくれる独創的なサウンド。

このアルバムは長い間CD化が待ち望まれていたもので、当時のアナログ盤は探すのも困難で、自身は９０年代におけるCD化により直ぐ輸入盤を購入しましたが、やっと近年国内盤もリリースされた様です。全体的にその内容はカナダのハードロック・トリオ、ラッシュのVoを少し弱くしてオリエンタル風味にしたサウンドで、好きか嫌いかはっきり分かれる処ですが、この手のサウンドが好きな方にとっては、病み付きになるものとも眼に映りました。バンド名とジャケット・デザインはそれなりにシンクロしたもので、好感が持てた事も同時にお伝えしておきます。

バンド名とは裏腹に知的な演奏を特長とするハードロック・トリオ /ザ・ヒューマン・ビースト

バンド名とは裏腹に知的な演奏を特長とするハードロック・トリオ　/ザ・ヒューマン・ビースト