　先日、ふるさとに墓参りに帰ろうと思った時のことである。いつもは高速道路を乗り継いで帰るのだが、わざと下道を通り、普段は訪れないところに行ってみようと思った。

　私が現在住んでいる岡山市内から、ふるさとの真庭市に一般道でどう行くか。グーグルマップを見ながら考えた末、まずは吉備新線を通って吉備中央町に入る。その後、県道３１号をしばらく走った後、県道６６号を通って旧落合町の鹿田に向かうというコースに決めた。この道は今まで全く通ったことがない。途中、普門寺というお寺があるので、寄り道してみようと思った。

　当日は9時くらいに出発した。初めて通る道なので少し緊張していた。しかも、後ろからぴったりとプリウスが付いてくる。うっとうしいと思いながら県道６６号を運転していると、普門寺への分岐案内の看板があったので右折した。すると、後ろのプリウスも同じく右折した。ここから山の中の道である。登山に行った時の林道という感じである。対向車がないことを祈りながら車を走らせると、「花の山寺普門寺」という案内があったので右折した。すると、すぐ先が駐車場だった。２０台くらい車を止められるが、ほぼ満車状態だった。何とか空いたスペースを見つけて駐車した。プリウスもやってきた。私と同じく普門寺を目指していたようだ。

　この日は「あじさい祭り」が行われていて、地元の人の出店が何店があった。普門寺は真言宗のお寺である。石段を登り、左折して立派な仁王門をくぐった。この門は天和元年（１６８１年）建立という説明書きがあった。参拝して別の道を引き返していると、「普門寺縁起」という石板があり、このお寺の歴史が記されていた。また、「あじさい祭り」の期間限定の御朱印を書いていただけるということだった。

　あじさいはお寺の中にも咲いているが、お寺に続く道沿いの方が多くてきれいだった。大勢が写真を撮っていた。また、茅葺き屋根のお店では、お団子の販売もしていた。

　駐車スペースの隣は、旧上田小学校の跡地である。広い運動場の端には遊具が残っていた。また、学校の建物は「UEDA VILLAGE」という店舗として利用されていた。この日は営業していなかったが、中を覗いてみると、下駄箱などがそのまま残っていた。

　ここは田原山上という地域である。中学・高校時代、田原山上から通学している生徒が大勢いた。今思えば、中学にしても高校にしても、かなり遠距離である。あの頃のあのクラスメイト達は、今、どうしているのだろうと思った。何人かの面影が、ふと脳裏によぎったりした。

　普門寺に初めて来たが、わが故郷にこんなに立派で、きれいなお寺があるとは知らなかった。次回来るとしたら、紅葉の季節にしようと思いながら普門寺を後にした。

　再び県道６６号を走り、鹿田地域を通って国道３１３号線に入った。しばらく走ると、左手に落合中学校が見えてくる。私が通った学校だが、校舎は建て替えられている。左折してスーパーとホームセンターの間の道に入った。中学校の横を過ぎ、さらに左折して幅の狭い道をしばらく走ると木山神社が見えてきた。

　木山神社に来たのは二度目である。前回は高校２年生の元日だった。新年になってすぐ、兄と兄の友人と３人で来た。兄の友人が運転する車だったが、坂道の途中で動かなくなり、兄と私が車から降りて後ろから押したという思い出がある。地元では一番有名な神社であり、毎年、初詣には多くの人で賑わっている。

　木山神社は弘仁七年（８１６年）創建、天正五年（１５７７年）に焼失したものの、天正八年（１５８０年）に再建立したという。

　この日は広い境内に２台の車しかなかった。お賽銭を入れた後、ぶらぶらと歩き回ってみた。それにしても立派な神社である。中学校から自転車で１０分くらいだろうか。どうしてあの頃一度も来なかったのだろうと思ったりした。

　木山神社への道を少し戻り、右折して木山寺を目指した。木山街道と呼ばれる道で、車の対面通行は十分にできる道幅がある。しかし、対向車もほとんどなかった。しばらく走り、「木山寺１.２ｋｍ」という看板のところを鋭角に右折した。ここから上り坂になった。道幅が狭い山道というだけでなく、何度も蛇行している。対向車が来ないようにと祈っていたら木山寺に着いていた。

　駐車場には一台の軽四が止まっているだけだった。人影は全くない。標高４３０mの山上にあるので、参詣に来る人がどれくらいいるのだろうか。車から降りて階段を上った。正確には「高野山真言宗別格本山木山寺」と言うらしい。弘仁六年（８１５年）、弘法大師の開基という由緒正しいお寺である。

　本堂の中には珍しい賽銭箱があった。コインを入れると螺旋を描いて落ちていくという。面白いと思って試しに入れてみた。すると、確かにコインがくるくると時間をかけて回った後、下の穴に入った。その後、庚申堂、大師堂、客殿、不老門、長屋門、弁天堂などを時間をかけて見て回った。

　この木山寺に来るのは二度目である。もう遥か昔、中学１年生の時に遠足で来たことがある。その時は学校の裏山を通ったので、今回車で来た道とは違うルートだったろう。私はけっこう記憶力に自信があるのだが、実を言うと、この木山寺への遠足の記憶がほとんどない。その時の写真もない。今回、木山寺に来たのは、遠足の時の思い出探しをしたかったというのが本音である。

　散策しているうちに何か思い出すことがあるだろうかと期待していた。しかし、思い出せない。遠足だったので、どこかに座ってお弁当を食べたりしたのだろうが、全く思い出せない。諦めかけた頃、ふとお寺に隣接する大きな屋敷が目に入った。部屋が一杯あるようなので、多分、旅館なのだろう。今も営業しているのだろうか。この建物を見た時、何か記憶の端に引っかかるものがあった。中学１年生の時、確かにこの位置からあの建物を見たという気がした。思い出探しは、それだけで十分だった。

　車に乗り、来た道を引き返した。

　高校生までは早く出て行きたいと思っていたふるさと。田舎で何もないと思っていた。しかし、どこで何をしていても忘れることはできなかった。ただ懐かしいというだけでなく、じっくりと見てみたいと思うようになったのは、私の年齢のせいだろうか。今回訪れた普門寺、木山神社、木山寺は、行こうと思えばいつでも行けるところにあった。しかし、今までどうして行かなかったのだろう。

　今後は、いろいろなところを折に触れて訪れてみようと思う。同じ場所に季節を変えて行くのもいいだろう。しばらくふるさと再発見をしてみようと思った。

ふるさと再発見！