Someplace Like Aomori
アルバム付属のインタビュー冊子「よむTHANK YOU SO MUCH」で桑田さんは「暮れゆく街のふたり」についてこのように語っています。
「この曲には最初からひとつのイメージがあった気がします。NHKの番組『72時間』でしたか?確か、青森かどこかの昭和の風情が残る「呑み屋街」の回を観ていた。道端に雪が残っていたから、おそらく季節は冬だったと思うし、夜の路面を照らすのはスナックなどのネオンや看板の灯り、人影は少ないけど、行き交う人々にはそれぞれ色んな事情があったりするという。そして、「凍(しば)れる」空気感の中で、なんともいえない「温もり」や人々のやり取りが印象的だったんですよね。(中略)日本人の感情って、基本的には「ネガティブ」だと思うんですね。決して「陽気」な民族ではなく、涙とか哀れのようなものを好むでしょう?私自身がモロにそれを意識するのはこういう曲を作っている時の自分で、妙に高揚する瞬間ですね。」
「72時間」、私も好きです。よく観ます。
それはさておき、「72時間」を観て行ったことのない青森(かどこか)をイメージして書かれたのがこの曲です。
桑田さん自身がおっしゃる通り、「ネガティブ」で「涙」と「哀れ」を好む人向けの楽曲に仕上がっています。
あなたはあたしにとって
ただの遊び相手の子
夏の懈怠(けだい)が遭わせたふたり
恋ともなく寄り添って
いつも時間(とき)は過ぎてゆく
その肉体(からだ)重ね合わせながら
ただの遊び相手の子
夏の懈怠(けだい)が遭わせたふたり
恋ともなく寄り添って
いつも時間(とき)は過ぎてゆく
その肉体(からだ)重ね合わせながら
果たして男女の関係は結婚を前提にお付き合いをしているのではなさそうです。
そのような男女関係を描いた作品でも舞台が横浜であれば「Love Affair~秘密のデート」のようにサザンを代表するポップナンバーとなるところですが、青森(かどこか)が舞台となると歌謡曲になるわけです。
桑田さんが両都市に持つイメージを垣間見ることができます。
ところで、「Love Affai~秘密のデート」はTBSドラマ「Sweet Season」(1998)の主題歌でした。
椎名桔平、松嶋菜々子主演の上司と部下の不倫を描いたドラマです。
一方、「暮れゆく街のふたり」は映画「盤上の向日葵」(2025)の主題歌です。
殺人事件の犯人としてプロ棋士に容疑がかかるミステリー映画です。
あなたはあたしにとって
ただの遊び相手の子
夏の懈怠(けだい)が遭わせたふたり
恋ともなく寄り添って
いつも時間(とき)は過ぎてゆく
その肉体(からだ)重ね合わせながら
夜嵐(よあらし)がドアを叩く
トントンと
これきりなんて
冗談だよね?
胸の灯(あか)りを
消さないで
その先は明日カモメに訊くよ
泣いたりするのはまっぴらだ
いつも通りあたしここで待ってるよ
暮れゆく街
悲しい気持ち
「日本人の感情って、基本的には「ネガティブ」だと思うんですね。決して「陽気」な民族ではなく、涙とか哀れのようなものを好むでしょう?私自身がモロにそれを意識するのはこういう曲を作っている時の自分で、妙に高揚する瞬間ですね。」
ネガティブな曲の作成中に日本人の感情を意識し、高揚する桑田さん。
だとすれば、現在の桑田さんにとってこのような歌謡曲を書かずにはいられないのでしょう。
しかし、これはあくまで個人的なブログだからあえて勝手なことを言うのですが、長年のファンである私はこのようなモロ歌謡曲をサザンには望みません。
サザンには哀しみやせつなさをポジティブで中和してほしい。
楽しい気持ちは悲しく、悲しい気持ちは楽しく歌う、そのバランス感覚こそがサザン桑田の真骨頂なはずで、私が好きなサザン桑田はそこにあるからです。
悲しみを悲しく歌うのは桑田さんの商売ではなかったはず。
後年、桑田さんは暗いテーマを暗く歌うようになるのですが、私は聴きません。
この曲も好きになろうと何度も聴きましたが、最近はやはり飛ばしてしまいます。