#1
「片想いしている時が1番幸せ」
いつか忘れたけど名前も知らないポエマーがそう言ってた。
私はこの言葉が嫌いだ。
だって、片想いは苦しくて辛いものだから_____
「バイト、ね…」
高校生になったらやってみたいことの一つだったが理由もなく後回しにしてた、部活に入ってないし全然バイトはいいんだけど麻耶から急に誘われたから言葉が詰まった。
えー莉央はバイトとか興味無い感じ?って少しショックな顔をする麻耶。
「いやそういう訳じゃなくて急だったからさ」
別に莉央が興味無いなら私一人でバイトするからいいもーんっていじけた、別に断る理由もないしいいんだけどな…って考えてたけどこのまま放置しておくと麻耶が手に負えないくらい拗ねるって長年の付き合いから察した。
「いいよ、バイト一緒にやろ」
え?!いいの?と目をきらきら輝かせながら聞いてくる。うんって頷くと麻耶は飛び跳ねて喜んだ。やることないし正直バイト誘われたの嬉しかった。
帰りのHR中こそこそ話してたのにいつの間にかHRは終わっていて教室は騒がしくなってた。
私今日用事あるからバイトのやつ後でLINEするー!また明日ねばいばーい!と麻耶は手を振りながら走って教室を出てった。
「相変わらず帰るの早いな…笑私も早く帰ろ…」
「宇佐美今日日直だよな?このノート社会科の教室まで持ってってくれ」
「わっ日直なの忘れてた、はーい…」担任の藤井ちゃんに嫌な顔しながら返事したらこっちも見ず教室から出てった。
「結局ノート運ぶ以外の仕事もやらせるじゃん…」
ため息つきながら荷物取りに教室に戻ろうと階段を降りてたら登ってきた人とぶつかりそうになって目が合った。
「あ、すいません…」とすぐ謝るとぶつかりそうになった人もあ、ごめんなさいと謝りすぐ居なくなった。
「先輩かな?めちゃくちゃ可愛かったけど何年生だったんだろ、あの階段であったんだから3年生…?」
そんなことをぶつぶつ言いながら家に向かって帰ると麻耶からLINE来てた。
<莉央の家とうちんちどっちからも近いしここにしないー?>の後にURLが貼られてた、開くと誰でも知ってる某Mがトレンドマークのファストフード店の募集案内だった。
«いいじゃんマック»
<いいよね?>
«まじ家から近いし超良い»
<じゃあ明日それぞれ応募しよ!>
«おっけー!»
家からも近いし親もすぐOKをくれた、数日後麻耶も私も面接に合格してバイト先が決まった。全部あっさり決まりすぎて実感無いけど明日麻耶と私2人とも初出勤になった。
麻耶は週2、私は週4で入って研修を繰り返し色んな先輩に教えてもらったしある程度の仕事は一人でできるようになった。最初は麻耶しか友達も居なかったけど他校の同い年の子とも仲良くなれたし先輩とも話せるようになってバイトが楽しくなってきた。
そんなある日この前階段でぶつかりそうになった先輩が同じマックでバイトしていることに気づいた。
「麻耶麻耶、あの先輩めちゃくちゃかわいくない?」こそこそ話してたら目が合ってニコッって笑いかけてくれた。莉央いまの見た?笑いかけてくれ…え?莉央??おーい宇佐美さーん??麻耶がなんか話してるけどそれが聞こえないくらい意識があの可愛い先輩の方に向いてた。言葉も出ないくらい先輩の不意な笑顔に心奪われてたらバイト中ずっと頭が回らなかった、そして気づいたらバイトは終わっていた。
この出来事が自分の新しい扉を開くきっかけになるなんて
私は知らなかった_____
「よし、決めたわたしバイト頑張る!」
麻耶と私しかいない放課後の教室で気合を入れたら、どうしたどうした…突然気合いなんて入れちゃって…って呆れながら笑われた。
莉央今日もバイトだよね?気合い通り頑張るんだよ〜と笑いながら麻耶は言ってくる。
それから麻耶と別れてバイト先へ向かったけどバイト始まる40分前くらいに着いてしまった…。
「早く着きすぎた、支度して時間までスマホいじってよ…」
しばらく誰も居ない事務所に一人スマホをいじってたら誰かがドアを開けた
『おはようございます』
「あ、おはようございます…!」
階段でぶつかりそうになったあの可愛い先輩が入ってきて急に2人きりになってしまった。
あの日から気になって同い年の子に先輩の事を聞いたら名前は守屋渚、歳は2個上だと教えてもらった。教えてもらったのはいいけど話したこと無いし先輩が可愛いからか2人でいるとなんか他の人より緊張する。
『宇佐美さんって東高校なの?』
「へ?!」
緊張してたし急に話しかけられたから変な声出ちゃった…やば気まず…
『ごめんごめん急に話しかけちゃったからだよね笑』
「いや全然!!東高校です!」
『そうだよね、制服見てびっくりした笑私も東だよ』
制服見てって事はこの前階段でぶつかりそうになった事守屋先輩は覚えていないんだな…。
じゃあその場に合わせて知らなかったフリ…しよ、私の見間違いかもしれないし。
「えっ守屋先輩も東だったんですか!」
『うん!あれじゃあ田口さんも東?』
「そうです麻耶も東です」
『そっかー2人が入るまで東私しかいなかったからなんか嬉しい』
そう言いながら守屋先輩は笑顔で更衣室に入ってった。
え、待って私あの可愛い先輩と話した?!?!と脳内プチパニック。変なこと言ってないか必死に今続いた会話を頭の中で遡ったけどダメだ、緊張しすぎててなんて言ったか思い出せない。はぁしかないな…ため息ついたら守屋先輩が更衣室から出てきた。
『宇佐美さんも18時から?』
「そうです!」
『じゃあ一緒だね〜』
一つ一つの会話に緊張してたらもうすぐ始まる時間になっていた、スマホを通学バックに突っ込んで事務所から出る準備をした。
『よしそろそろ時間だし宇佐美ちゃん行こっか』
「はい…!」
ん?あれ?私の聞き間違いじゃなかったら今守屋先輩私の事宇佐美ちゃんって呼ばなかった?え?!
バイト前から頭がパンク寸前で心臓は全く言うことを聞かないでずっとドキドキしてる。
バイト中は役割が違うしお互い遠いところで作業してたからなかなか話すチャンスがなかった、だけど話せたことが嬉しくて今日は幸せなバイトだった。
宇佐美さんあがりの時間だね、お疲れ様。と店長に声をかけられた「はい、お疲れ様でした。」周りの人にも聞こえるように大きな声で挨拶したら周りのみんなお疲れ様ー!おつかれ!と声を掛けてくれた。いつも挨拶してる時思うけどここって本当に優しくて暖かいバ先だな。
事務所に戻ろうと歩いてたら守屋先輩が荷物もって倉庫から出てきた。
『宇佐美ちゃんアップか、おつかれ〜』
「はい…!お疲れ様です!」
やっぱり勘違いじゃない!守屋先輩は私の事宇佐美ちゃんって呼んでくれてる!
呼び方1つだけど私にとって凄く嬉しい事だった。本当に小さな1歩だけど守屋先輩と仲良くなれたって浮かれてたら階段で躓いて膝に青タンできてしまった…
そのあとも守屋先輩とバイトが被ると話すようになった、最初はただ可愛い先輩だなって遠くで見てたけどインスタも交換して仲良い先輩、友達って言える関係になれた気がする!ちょろいのでバイトのモチベーションも守屋先輩がいるかで変わる。
だから被ってない日は同い年と話してて楽しいけど、なにか物足りない気持ちになってしまう。
そんな毎日を繰り返してたらいつの間にか
私の中で守屋先輩がどんどん大きな存在になっていた
この感情の名前は“まだ”憧れ。
そう、私の中で守屋先輩はあこがれの先輩
いつからだろう私が守屋先輩にあの感情を抱いたのは_____