後輩の作家水野は料理好きだ。
あの料理を作ってみたい、この料理を作ってみたいと語る時の水野の目は誰よりも輝いている。
『今度ちゃんとトリガラからスープも作ってラーメンに挑戦してみたいんですよね…!』
例え負けても男は常に何かに挑戦して、戦うことが大切だ。
結果より、戦ったかどうかが重要だ。
それが男のロマンだ。
女はマロンだ。
『でもラーメンを作るには寸胴鍋が必要なんです…今の僕には…寸胴鍋が…ないんです…嗚呼、僕は無力だ…!』
一月生まれの後輩は頭を抱えた。
絵の才能があってもペンがない。
野球の才能があってもボールがない。
それはどんなに辛いことだろう。
僕は泣きながら後輩を抱きしめた。
『大丈夫だ!お前はいつかきっと美味しいラーメンが作れる。諦めるな、自分を信じろ。さあ言ってみろ、「ラーメン」と!』
『ラー…駄目だ…僕には言えない…』
『大丈夫だ!さあ一緒に!ラーメン!』
『…ラーメ…』
『ラーメン!』
『ラ…ラーメ…』
『ラーメン!!』
『ラーメン…』
『もっと!!!』
『ラーメン…ラーメン…』
『そう、ラーメン!!』
『ラーメン…ラーメン…』
『ラーメン食べたい、作りたい!はい!』
『ラーメン食べたい…作りたい…』
『ラーメン、つけ麺、僕ラーメン!はい!』
『ラーメン、つけ麺、僕ラーメン…』
『ラーメンマン!はい!』
『ラーメンマン…』
『闘将!ラーメンマン!はい!』
『闘将…ラーメンマン…』
『バカヤロウ!!』
僕は後輩を殴りつけた。
『人が真剣に話してるのに何がラーメンマンだ!』
『すみません…』
『お前は本気でラーメンが作りたいのか!?』
『つ、作りたいです!!』
奴の目は本気の目だった。
『いいだろう…さようならー』
僕はお腹が空いたので家に帰った。
数日後、電話がなった。
水野からだ。
『あの、寸胴鍋が家に送られてきたんですけど富澤さんですか?』
『誕生日おめでとう…美味いラーメン、期待してるぞ…!』
『ありがとうございます。ただ、あの…』
『どうした?』
『あの…鍋がでかすぎてコンロに乗らないんです…』