お爺さん「アブラナ科は連作しちゃならんよ。病気になるからねえ。場所を変えよう。」
お婆さん「妙な虫が付いてもいけませんしねえ。」
こうして、小さな畑にカブの種が撒かれた。一週もするとカブは幸い無事に芽を出したようだけども、案の定、そこらじゅうには雑草が無遠慮に栄えるのだった。またカブは作物の中でも大変な人気があるようで、瞬く間に虫の餌食になった。近くに小蟻も巣をくっている。老夫婦の夢は尽きた。
ある時、畑の雑草は思った。仏の座はどうしてあんなにも栄えてくるのだろう。仏の座といっても、別名三階草ともいうらしく、やつらはお粥にして食べられたものじゃなし、毒さえあるのだという。その姿を見るたんびにあの老夫婦は、それはそれは草取りを頑張っていた。爺さんは日が落ちて辺りが暗くなったのも忘れて草とりしていたので、とうとう腰が曲がって戻らなくなったし、婆さんも朝からそれを手伝って、夕方は先にうちへ帰ってその日にとれたばかりの野菜でごはんのしたくをしているようだ。だけども、三日と経たない間になぜかしら、俺たちはあちこちに栄えてきて、たいして大きくならないうちに花を咲かせてしまって、明くる日も明くる日も、その生きざまといったらない。
お爺さん「腰が痛い。」
お婆さん「あら、虫に刺された。」
お爺さん「カブの葉くん、お前は本当にカブなのかい? こうしてしゃがんで草ばかりに目を向けていると、まあだほんの小さなお前のことも、勢いあまって引っこ抜いてしまいそうだよ。」
お婆さん「また妙なご冗談を。」
お爺さん「もしこのまま畑にうずくまったままあの世さいくようなことがあったら、かなしいね。そのときは、三階草に生まれ変わってやるわい。仏になりますよ。」
お婆さん「その時はわたくしが引っこ抜いてやります。」
お爺さん「まったく、おばかだねえ。」
お婆さん「何がです?」
畑の雑草は思った。騒がしい。雀の雛が死んでいる。巣から落っこちてしまったんだね。その傍にもう一羽。お前は運の良いやつだ、お前の落っこちたところにはこの草むらがあったので命拾いしたのだ。実は俺も命拾いしたのだよ。こうして抜かれずに済んでいるのだからね。ボサボサのあたまをどうにかしなさい。そう黙っていたのでは何を考えているのかさっぱりわからないじゃないか。腹は減っているだろうから、どうぞ種をお食べなさい。潰して食べやすくしてやろうか。腹の空かないことはあるまい? 名前はあるやらないのやら。近頃は風も強いので、ちょっとしたひょうしにこんなことが起こるのだろうね。ビックリしただろうね。まあそう遠慮せずに、おひとつどうぞ。種は嫌いかい。甘いカブの種だよ。一声鳴いた。少しは信頼してくれたのかな。寒くて仕方がないようだ。葉っぱをかぶせてあげましょう。せっかく何か言ってくれて恐縮なのだが、あんまりことばが通じないね。お前には雑草の気持ちはわかるまい。俺もお前のことはわからないので、こうして少しでも
わかるようにと努めているのだが。すまなんだね。全く我慢強いやつだ、いっこうに食べようとはしない。
食べなきゃお前も死んでしまうよ。一声鳴いた。また一声鳴いた。こう鳴いてばかりでは困った。ちょっと待っていなさい、いま水をくんでやる。と、その雀を背に、そっと傍らの死骸を土に還してやった。
お爺さん「どこだか雀の声がするようだけど。」
お婆さん「あら、空が……。」
お爺さん「おうい、雀が鳴いていないかい?」
お婆さん「おかしな雲。」
お爺さん「雀が……ああ、もう鳴き止んだようだけど。」
お婆さん「え、雀ですか?」
お爺さん「お前も疲れただろう。今日はもう帰ろう。嵐が来るよ。」
お婆さん「あら、めずらしい。」
えさは少したべましたが、その晩、雀は死にました。あの鳴き声は親鳥に呼び掛けていたのでしょう。畑にはまた雑草が蔓延りはじめました。これは単なる雑草の群。しかし本当にそうでしょうか。ときどきその栄えようには何かが宿っているような気すらします。死んだ虫やら葉っぱやら、雀、お前ももうすぐ芽をだすだろう。でもこれ以上老夫婦を困らせてはいけないよ。果たして小さな畑の隅っこに、花一厘さえ咲かせてくれたらよい 。
お婆さん「妙な虫が付いてもいけませんしねえ。」
こうして、小さな畑にカブの種が撒かれた。一週もするとカブは幸い無事に芽を出したようだけども、案の定、そこらじゅうには雑草が無遠慮に栄えるのだった。またカブは作物の中でも大変な人気があるようで、瞬く間に虫の餌食になった。近くに小蟻も巣をくっている。老夫婦の夢は尽きた。
ある時、畑の雑草は思った。仏の座はどうしてあんなにも栄えてくるのだろう。仏の座といっても、別名三階草ともいうらしく、やつらはお粥にして食べられたものじゃなし、毒さえあるのだという。その姿を見るたんびにあの老夫婦は、それはそれは草取りを頑張っていた。爺さんは日が落ちて辺りが暗くなったのも忘れて草とりしていたので、とうとう腰が曲がって戻らなくなったし、婆さんも朝からそれを手伝って、夕方は先にうちへ帰ってその日にとれたばかりの野菜でごはんのしたくをしているようだ。だけども、三日と経たない間になぜかしら、俺たちはあちこちに栄えてきて、たいして大きくならないうちに花を咲かせてしまって、明くる日も明くる日も、その生きざまといったらない。
お爺さん「腰が痛い。」
お婆さん「あら、虫に刺された。」
お爺さん「カブの葉くん、お前は本当にカブなのかい? こうしてしゃがんで草ばかりに目を向けていると、まあだほんの小さなお前のことも、勢いあまって引っこ抜いてしまいそうだよ。」
お婆さん「また妙なご冗談を。」
お爺さん「もしこのまま畑にうずくまったままあの世さいくようなことがあったら、かなしいね。そのときは、三階草に生まれ変わってやるわい。仏になりますよ。」
お婆さん「その時はわたくしが引っこ抜いてやります。」
お爺さん「まったく、おばかだねえ。」
お婆さん「何がです?」
畑の雑草は思った。騒がしい。雀の雛が死んでいる。巣から落っこちてしまったんだね。その傍にもう一羽。お前は運の良いやつだ、お前の落っこちたところにはこの草むらがあったので命拾いしたのだ。実は俺も命拾いしたのだよ。こうして抜かれずに済んでいるのだからね。ボサボサのあたまをどうにかしなさい。そう黙っていたのでは何を考えているのかさっぱりわからないじゃないか。腹は減っているだろうから、どうぞ種をお食べなさい。潰して食べやすくしてやろうか。腹の空かないことはあるまい? 名前はあるやらないのやら。近頃は風も強いので、ちょっとしたひょうしにこんなことが起こるのだろうね。ビックリしただろうね。まあそう遠慮せずに、おひとつどうぞ。種は嫌いかい。甘いカブの種だよ。一声鳴いた。少しは信頼してくれたのかな。寒くて仕方がないようだ。葉っぱをかぶせてあげましょう。せっかく何か言ってくれて恐縮なのだが、あんまりことばが通じないね。お前には雑草の気持ちはわかるまい。俺もお前のことはわからないので、こうして少しでも
わかるようにと努めているのだが。すまなんだね。全く我慢強いやつだ、いっこうに食べようとはしない。
食べなきゃお前も死んでしまうよ。一声鳴いた。また一声鳴いた。こう鳴いてばかりでは困った。ちょっと待っていなさい、いま水をくんでやる。と、その雀を背に、そっと傍らの死骸を土に還してやった。
お爺さん「どこだか雀の声がするようだけど。」
お婆さん「あら、空が……。」
お爺さん「おうい、雀が鳴いていないかい?」
お婆さん「おかしな雲。」
お爺さん「雀が……ああ、もう鳴き止んだようだけど。」
お婆さん「え、雀ですか?」
お爺さん「お前も疲れただろう。今日はもう帰ろう。嵐が来るよ。」
お婆さん「あら、めずらしい。」
えさは少したべましたが、その晩、雀は死にました。あの鳴き声は親鳥に呼び掛けていたのでしょう。畑にはまた雑草が蔓延りはじめました。これは単なる雑草の群。しかし本当にそうでしょうか。ときどきその栄えようには何かが宿っているような気すらします。死んだ虫やら葉っぱやら、雀、お前ももうすぐ芽をだすだろう。でもこれ以上老夫婦を困らせてはいけないよ。果たして小さな畑の隅っこに、花一厘さえ咲かせてくれたらよい 。