約束の時間7時となった。通常の合コンであれば、人が集まればざっくばらんにわらわらと会話が始まると思うのだが、この会の場合、ひそひそと会話する声が聞こえる程度で、皆よそよそひく、何かがおかしい。その時、一人の男性が前に現れ、マイクで話し始めた。マ、マイク!?

彼はこの会のオーガナイザーで、その彼がいうことには、どうやらこの会は大手保険会社と大手食品会社の上層部が自社の婚姻率の低さを嘆き、結婚を促進するために開催された街コン(大規模合コン?)であるというのだ。そしてこの会はなんと第8回目で、これまでの成婚カップルは10人にのぼるというのである。今宵も出会いに乾杯!ということで締め括られた。ちなみに、渡されたくじ引きの紙は、その食品会社の自社製品が当たるという大抽選会であった。

私とその友達は保険会社も食品会社も関係ないので、ここにいていいのか?と思いつつも、とりあえずフリータイムが開始されたので、同じテーブルにいる男女と会話をスタートさせた。

そこで繰り広げられた自己紹介よ。「私は牛乳をパックにつめる工程担当です」「僕はチーズ担当です」「俺はヨーグルトの発酵過程を見る担当です」とそれぞれ自分の担当する製品と業務担当についてプレゼンし始めたのである。(これをきいたらどんな食品会社か想像できるであろう)たしかに、牛乳の乳脂肪分の基準による濃さ表記の違いについては気になるし、さけるチーズがなぜ裂けるのかの製法も興味があるけれど、それ自己紹介で言われてもねぇ、っていう。そして彼らは、その工程あるあるなどをお互いに披露し始めた。最初は物珍しかったけど、話のほとんどが乳製品の話となると、相当の乳製品好きでないときついものがある。ちなみに私は牛乳は体にあまり良くないと思っているので、基本的に豆乳かアーモンドミルクしか飲まないことは口が裂けても言えない、と思った。

スパークリングワインを飲んでいたら、「それ何?」ときかれ、スパークリングワインだと伝えると、「スパークリングワインって何?俺ワインとか飲んだことないんだよねー」と返されたり、「東京に観光に行った話」を延々と聞かされ、なんだかへきへきとしてきた。一人だけならともかく、みんな総じてそんな感じであった。

何回か移動タイムがあったので、8人くらいの男性とお話ししたとは思うけど、記憶に残っていること、この2時間で私が得たのは「さけるチーズの製法についてはごく一部の社員しかしらない機密事項である」ということと「特濃などと濃さをアピールしている牛乳はクリームなどを別途加えており、純粋な牛乳とは違う」ということのみであった。誰の連絡先も手に入れはしなかった。

あの夜何組のカップルができたのかできなかったのかわからない。しかし、あの街コンで、運命の人に出会う人は出会うし、なんにもなくてこうして戯言を嘆くだけの人もいる。それが運命であり、本人の捉え方であり、努力なのかもしれない。妙齢の男女が40人集まっている光景というのは圧巻である。圧巻というか心のざわめきというか。だけどコロナ時代となった今、あの見ず知らずの人達がわちゃわちゃと肩を寄せ合っていた頃が本当に懐かしい。