その昔、群馬県から新潟県に抜ける道は、
三国街道しかなかったそうだ。

そのルートの中でももっとも山深い
水上から三国峠に至る道から、
さらに山中を分け入り、
谷間におりたところに法師温泉がある。

人里離れた小さな温泉地にある一軒宿
「長寿館」は、だれしもの心の中にある
田舎らしい姿をしている。

まるで昔話の世界に迷い込んだような感覚だ。



「法師温泉 長寿館」は川沿いにあり、
いくつかの棟が連なっていて、
様々な世界が広がっているような、
宿の中を巡っているだけで、
ワクワクするような気分になってくる。



日が暮れると、そこは時をさかのぼった世界。
自分がどの時代にいるのかわからなくなり、
別天地の宿の表情はさらにくっきりと浮かび上がる。



「日本秘湯を守る会」の提灯は、
オレにとって、安心して泊まれる宿の条件のひとつ。

決して今どきの温泉宿ではないけれど、
今どきの温泉宿にはない風情と心があるのだ。



玄関を入ってすぐ左側の小部屋は、
囲炉裏を切った休憩処。

火の温もりよりも、薪がくすぶる香りが懐かしく、
鉄瓶でわかした湯で淹れたお茶が香ばしくて、
昔話の世界へ難なく入っていくことができる。

宿に入ったばかりなのに、
普段は触れることのできない世界で迎えられると、
それだけでもう気分は昂揚。

最初からここまで旅情を盛り上げてくれる宿は
そうそうない。、

何度来ても、そのたびに感心するのは、
まがいものではない証拠だろう。

つづく