雪が降ると思い出す宿がある。
それは、3~4年前にうかがった、
鳥取県米子市の皆生温泉の「ひさご家」。
民藝の陶芸家・河井寛次郎ゆかりの宿で、
器の展示はもとより、設計にもかかわっていたとか。
そんな予備知識に関係なく、
宿に足を踏み入れたときから、
どっしりとした木造建築と庭のバランスや、
飾り立てない中に秘められた美意識など、
素朴でありながら洗練されたものが感じられて、
とても豊かな気分を味わうことができた。
庭に面して大きなガラス窓を配した
見る見るうちに庭が白く覆いつくされた。
この時の変わりゆく情景の美しさは、
今も忘れられない。
日本海の食材が豊富な土地柄だから、
さすがに河井寛次郎の器はなかったけど、
うつしや、お弟子さん筋の器が使われていて、
食事を通して民藝の趣が楽しめた。
まだ若いご主人は阪神の金本選手のファンだそうで、
金本選手が泊まりに来たことが、
宿主として何よりうれしかった思い出だと言っておられた。
同じ阪神ファンとして、よくわかる。
また、老舗の伝統を受け継がなくてはならないが、
跡取りがいないという話もうかがった。
まさに名宿と呼ぶにふさわしかった「ひさご家」が
その歴史を閉じると聞いたのは、
このときから約1年後。
早めに決断を下されたのだろうが、
残念なことだ。
その後、たまたま、「何でも鑑定団」を見ていたら、
皆生温泉の老舗宿を買い取った業者が、
宿に残っていた器を鑑定に出していた。
河井寛次郎作のものだと吹き込まれたらしく、
かなりな高額を期待していたようだ。
残念ながら、それらは兄弟弟子や弟子のもの。
以前うかがったときに見た器だったから、
すぐわかった。
かくして、出品者の目論見は見事に外れた。
しかし、こんな業者に譲って、
民藝の趣は守っていけるのか……。
現在の宿のHP を見てみたら、
それなりに維持しているように見受けられる。
機会があったらうかがってみたいが……。