さて、「薪の音」の食事編。
地産地消が現在、是とされているけれど、
こんなことわざわざ言わなくても、
昔はそれがごく当たり前のことだった。
物流が盛んになるに従って、
作った人も場所もわからない食材が幅をきかせるようになり、
気がついたら、食の安全が脅かされる事態になっていて、
スローフードとか地産地消って言葉が乱舞。
結局、なんか地に足がついてない感じ。
その点、こちらのご主人は農家を兼ねているから、
自分ちで取れた農作物がたくさん食卓に出せる。
農家の人って、自家用は極力農薬を使わない、
安全自然なものをつくってる場合が少なくなく、
こちらもご他聞にもれず、その系統。
食の安全という面で、これほど心強いところはないかも。
で、夕食はご主人こだわりのフレンチ。
なぜフレンチにしたかとたずねたら、
「自分が好きだから」だと。
そうです。好きなものを提供するのが一番です(笑)。
しかし、家族にシェフなどいない。
そこで、金沢で懇意にしてもらってた、
フレンチの店「シェ・ヌー」のオーナーに相談したら、
この地出身のシェフが働いていたそうで、
オープン時から「薪の音」に来てもらうことになったのだとか。
せっかくここでフレンチを提供するのだから、
出すものは、この地のこだわったもの。
現在も日々創意工夫を繰り返しているのだそう。
で、その夕食のラインナップへ。
アミューズはトマトと梅酒のジュレ。
穂じその香りがアクセント。
ただしこれ、穂じそより大葉のほうがよかったかな。
決して完成されているわけではないけれど、
シェフの意欲が感じられる一品。
そば粉のクレープ。
白えびやホタルイカなど、
氷見の名物が味わいとらしさを添えている。
加賀太胡瓜のコンソメ風味。
いかにもフレンチな料理は、
郷土野菜(ここはその昔は加賀藩だったそう)に、
アワビ、ウニ、キャビア。
無理なくひとまとまりになってて重畳。
フォワグラ!!
焼き茄子と一緒になってた、佳作!!
鯛のポワレ、アサリのソース。
焼き加減も味わいも文句なし。
かまぼこ風の丸い形状のものは、
氷見あたりの港町でよく作られる、
魚すり身の天ぷらから意を得たのだとか。
これまたアッパレ。
牛フィレのソテー。
ご主人曰く、富山で唯一ないのがブランド牛。
だったら、牛肉はパスしてもいいのに……。
〆はご飯と味噌汁で。
食事中にパンが一緒に出されていたけど、
オレはやっぱりこういうのが好き。
それぞれいい味だったし!
デザートはイチゴ三昧。
この時期に旬を迎える品種があるそうで、
このイチゴはそれ(名前忘れた)。
締めくくりにぴったりの爽やかさだった。
この宿は基本的に禁煙。
唯一喫煙できるのがロビーの土間。
そこで、ご主人と話をしながらコーヒーを飲んでたら、
ご主人が作ってる酒米で作った日本酒を出していただいた。
これがいい味で、さらに取って置きの酒まで……。
ごちそうさまでした。
夜食におにぎりはいかがと問われ、
かなり満腹だったけど、即座にイエス!
おぼろ昆布で包まれたおにぎりは、
こちらでは普通に食べられているものだそうで、
ハンパない美味さ!!
自家栽培のお米はコシヒカリで、
かなり安い値段で販売もされている。
これって何よりものお土産になるな。
朝食のご飯は、
ロビーに設けられたかまどで炊かれる。
食事処のテーブルには気のきいた花が一輪。
朝食は郷土の料理が満載。
クローズアップすると、
それもこれも、程よい味付けで、
量もちょうどよくて、見事の一語。
味噌汁に入っていたアオサが
いい香りと歯ごたえを与えていた。
そして、かまど炊きのご飯。
これがことのほか美味くて、朝から三杯メシ。
食後はまた、
土間でコーヒーをいただきながら一服。
ってやってると、
そろそろ発たなきゃいけないのが、
なんだかとても名残惜しくなってきた。
そう、この宿は、たかが一泊しただけなのに、
そんなことが感じられる。
いつまでもここにいたいというような、
故郷から離れたくないというような、
不思議な愛着感を抱かせる宿だった。
「薪の音」の詳しいことは、こちら!