前記事に、優しい優しい優しい、心のこもったコメントありがとうございます。皆さまのコメント、本当に励まされます。何回も読み返しています。
皆さまのコメントが、宝物です😭
この声は、どこからきているのだろうか。時刻はだいたい15時くらい。
忙しく限られた時間の中にタスクをぎゅっと詰められるだけ詰めたような、そんな"普段通り"の毎日だったらきっと気がつかなかったと思う。
「...おにいちゃん!おにいちゃ〜ん!!....うっ、うっ」
明らかな、子どもの泣き声。しかし幼児、というほどでもない。しばらくしらんぷりを続けた後に、あまりにも気になり窓を開けて声がする方をみてみた。うちの裏通りの、向かい側のマンションの最上階の踊り場。浮き沈みする黄色い帽子。一年生だ。随分長いこと泣いている。ぶつぶつと喋ってもいる。虐待か?兄弟喧嘩?どういう状況なんだろう。
しばらく様子をみてみる。
ひとりしくしくと、思い出したようにたまに大声で泣く子ども。そのうちに私は彼女をほうっておく事に耐えられなくなり、網戸をあけカーテンもあけて身を乗り出しジッとゆらゆらと上下する彼女の頭をみつめた。
しばらくみているうちに、状況がわかってきた。なるほど、そういう事か....
どうも、彼女は鍵がないのか家に入れずどうしたらいいのかわからなくなりパニックになっているようだった。私はちょっと考えてマスキングテープとメモ帳を持って裏のマンションの、きっと彼女がうずくまっているであろう階まで上がっていった。
いた。
泣き腫らした目で蹲り、私を不安げに見上げていた。
「大丈夫?泣き声が聞こえてきたよ。私はお向かいのあの家に住んでるおばちゃんだよ。どうしたの?」
「....お兄ちゃんがいないの。先に帰ってるはずなのに、いないの...グスっ」
『お兄ちゃん』は小6らしい。そりゃ色々あるよな、寄り道して時間を忘れているのかもしれない、と思いながら試しに玄関のピンポンを押してみるが当然でない。
「お兄ちゃんも忙しくなっちゃったのかもかね。じゃあさ、おばちゃんメモ帳とテープもってきたから『じどうかんにいます、むかえにきて』って書いてドアにはっておくのはどう?」
「......うん」
そこで私は、紙とテープはあるのにペンを持ってくるのを忘れていた事に気がついた。全くのポンコツっぷりだ。
「あ、おばちゃん、ペン忘れてきちゃった。そのランドセルに鉛筆ある?今出せるかな?」
「....うん!あるよ、鉛筆ならある!」
「大人の人の字だと、不審に思われちゃうから、自分で書こっか。字は書ける?」
「かける!」
その瞬間の、彼女のほっとした顔をなんと表現したらいいんだろうか。
やる事が決まった彼女は、バタバタと肩にかかっていた水筒を外すと背負っていた水色のランドセルを階段にドサっと置き、中から同じ色の筆箱を取り出した。長さのまちまちな鉛筆たちから迷いなくひとつ選ぶと、私がドアに貼り付けたメモ帳に熱心に字を書いていく。
じどうかんにいます
むかえにきて
その小さな手。
小さな、文字。
「どうしたらいいのか、わからない」
から
「メモを書いて貼っておく。児童館で待つ」
それがわかった瞬間、彼女の不安は消えた。
「....どうしたらいいのか、わからなくて怖かったんだね。でもちゃんと泣いて教えてくれたんだね。えらかったね。おばちゃんが一緒に児童館に行くから、スタッフの人にちゃんと説明するから、もう大丈夫だよ」
書き終わると、彼女は泣き腫らした眼で、可愛らしい笑顔を見せてくれた。
その笑顔が、私にどんな感情を呼び起こしたか、きっと彼女は一生知る事はないだろう。
その日の夜、彼女のお母さんが我が家に菓子折りを持ってきてくれた。
たくさんたくさん、御礼を言ってくれた。
その菓子折りは、まだ開けていない。
大事だからメモ📝