恋人よ その62 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ジェシンの傷の回復は速かった。治療のおかげで化膿もしなかったし、感染症にもかからなかった。内臓を傷つけずに済んだのが一番よかったのだと医師は言った。傷は深かったんですよ、と。ただ、生きている動物の内臓というのは結構弾力があるもので、なまくらな刃物では上滑りすることも多いのだという。入院中に血液検査も何度か受け、肝炎なども感染させられていないと分かり、正直ほっとはした。

 

 入院は二週間に及んだ。その間、イ所長が大変な思いをしたはずだったが、ジェシンもベッドの上でPCをフル稼働し、書類作成を引き受けたから、逆にいつもより時間に余裕が出来たよ、と所長は笑っていた。それでも裁判所や役所など時間の決まっているところに顔を出す手間が二倍になっているのだから、負担をかけたことに間違いはないので申し訳なくは思って頭を下げておいた。

 

 ユニは毎日やってきた。

 

 土日はともかく、平日で仕事のある日も、仕事終わりにやってきてジェシンの夕食に付き合い、面会時間が終るまで二時間ほどを一緒に過ごした。院内のランドリーで洗濯乾燥をし、PCで仕事の続きをするジェシンの隣で、チョキチョキと紙細工をして幼稚園での小道具を作りながら傍にいた。それはなんだ、お誕生日カードに貼ってあげるのこの子ウサギが大好きなのよ、などとしゃべりながら。

 

 「太っちゃう!」

 

 と笑いながらも見舞いの品を食べるのも面白かった。毎日来るユニのために、ヨンハが一日おきに洋菓子を送ってよこすのだ。賞味期限が短いからユニが食え、とジェシンが勧めやすいように。冷蔵庫に高級プリン。クリームたっぷりのロールケーキ。その合間に少々長く置いて置ける焼き菓子。

 

 「あいつは、俺が甘いものそんなに食わないのを知ってるくせにこういうのをよこすんだ・・・。」

 

 ついでに花も贈ってくるので、入院中に三束ほどはユニの幼稚園にあげた。俺に花を贈ってどうするつもりだてめえ、とメッセージを送ると、愛の証、という気持ち悪い返事が返ってきたので、必ず殴ろうと決めている。

 

 多分菓子も花もわざと頻度高く送ってくれているのだろうとは分かっていた。気の良く回る男なのだ、ヨンハは。ユニがしょっちゅう見舞いに来ることなどお見通しだったろうし、実際どうなのかを自分の秘書にしてしまったユニの弟ユンシクに確認しているだろう。時々面会時間終わりにユンシクがヨンハのお遣いで来るときがある。警察からの連絡の内容だとか、ハ・インスの父親の会社との契約破棄をジェシンの退院を待たずに法務部とイ所長に手続してもらうだとか、あちらの会社内の内紛の情報だとかをちょっとずつ持ってくるのだ。そしてユニとタクシーに乗って帰る。お使いなの、業務だからタクシー代出るんだよ、と笑うユンシクと連れ立って帰っていくユニを見送ると、胸が温かくなっている自分を見つける。

 

 ユニが毎日のように来てくれるから、だけではない。そこに心を配ってくれる友がいる。忙しい中ふらりと寄ってくれる兄がいる。父は不定期な休みの日に母を連れて来るという名目で顔を見に来た。母はもちろん、ジェシンが入院中に不自由がないかずっと案じてくれている。後輩であるユンシクはお遣いを倦むことなくしてくれるし、もう一人の後輩であるソンジュンは思い出したように長文のメッセージを送ってくる。時間のある時に李王朝時代の重臣の名を調べ続けているようで、その進展を送ってきては、多分これは先輩のご先祖、こちらは俺の先祖だと思うんです、と推測を述べて来る。これはこれでちょっと気分転換になって面白い。

 

 ソンジュンのことを思い出して、は、とした。それはもうすぐ抜糸しようかという入院10日目のことだった。

 

 入院して意識が戻ったその晩に見て以来、ジェシンは夢を見ていないのだ。もう痛み止めも飲んでいない。抗生物質だけが量を落として続いている。寝たら朝までぐっすりだ。午前三時に飛び起きることもなくなった。

 

 けれど理由はわかる気がした。

 

 

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