恋人よ その17 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 イ弁護士事務所は、イ・ソジン所長が個人で立ち上げているから、初期投資・・・初期費用が資本として存在するのだが、当然安価ではない。事務所を賃貸することをはじめ、シンプルであっても内装、事務用品には費用が掛かる。以前勤めていた大手事務所からの顧客がついてきてくれたとはいえ、人を雇えるほどの余裕はないし、初期費用は一部ローンを組んだから数年は返済もあった。

 

 事務所にジェシンの名を並べるには、普通に考えたら同額の資本金を投入して、事務所の資産にしなければならないだろう。所長は同額はいい、と言った。一緒に仕事をすると言っても、矢張り最初の数年は上下関係が発生する。それは仕方がない事だ。弁護士としての個人的な活動はイ弁護士の方が経験豊富で顧客も付いているから、指導的立場になるのは仕方がない。初期費用の総額には、ローンで借りた金額も反映されるから、それをいっぺんに資本金として出す必要はない、とイ弁護士は言うのだ。自分だって数年かかった金額を、社会人になって三年ほどのジェシンが一度に負担することはない、と言ってくれた。ジェシンが、経済力のある親に頼らずに独り立ちしようとしていることを理解してくれた上の申し出だからありがたいが、それに甘えていいのか少し悩む。そしてジェシンが出せる資本金は。

 

 「金は貯めてはいるけれど、そうなると・・・。」

 

 ジェシンはそうマメな方ではない。貯金も使わない、という方法で給料が入りっぱなしにしているだけだ。独立のための貯金と、ユニとの将来のための貯金とを分けているわけではない。つまり。

 

 ユニとの将来のための貯金分にも手を付けてしまうという事になり、ということはユニとの将来の予定が遅れるという事になってしまう。

 

 其れにがっかりしてしまうのは、どちらかと言うと自分の方だろう、とジェシンは自覚がある。

 

 

 「サヨン?あのね、私も働いているのよ。」

 

 ユニが明るく笑った。ジェシンの掌の中にはユニの小さな手がすっぽりと入っている。二人で手をつないで歩きながら、その話をしていた。この後、夕食を一緒にとろうと見せに向かう前、予約の時間より早いので散歩をしていたのだ。風は冷たいけれど、寄り添っていれば温かい。

 

 「私たち二人のためのお金は、二人で合算して貯めればいいと思うの。」

 

 ユニはジェシンに握られた手を振った。思わず見たユニは、前を向きながらにこにこと笑っていた。

 

 「私はまだ就職して一年にもならないし、仕事をもっとちゃんとできる人になりたいわ。まだペーペーだもの。助けられてやっている仕事ばかり。頑張って立派な先生になりたいの。それは今日明日できる事じゃないでしょ?」

 

 「俺なんかまだまだペーペーだぞ。」

 

 「それでも所長さんから一緒に仕事をしようって誘っていただけたんでしょ。サヨンの実力を認めてくださったのよ。すごいことだわ。でも私はまだまだ働き始め。もう少し社会人としての実力をつけたいの。」

 

 やっぱり俺の方ががっかりしてるよな、と少し拗ねた気分になった。できる事ならすぐにでも。そう、ユニが学生でなくなった今、二人で独立した生活が営めるのだから、と思っていたのは自分だけなのか、と思ってしまう。

 

 「私だってサヨンと毎日一緒にいたいけど・・・。」

 

 とユニがポツリとこぼした。ジェシンの掌の中の小さな手がぎゅ、とジェシンの手を握ってくる。またユニの方を見た。今度はユニは少しうつむいていて、その表情は見えない。

 

 「でもね。私はサヨンとずっと一緒にいるんだから、あともう少し我慢できると思うの。それに、サヨンは独立のチャンスを逃すべきじゃないわ。一人独立してもサヨンは大丈夫だと思うけれど、信頼できる所長さんと一緒なら、サヨンの力が発揮できる大きな仕事もできると思うのよ。私、サヨンには思いっきり弁護士っていう仕事に力を注いでもらいたいの。」

 

 でね、とユニは今度は笑った。

 

 「私もね、素敵な幼稚園の先生、って言われるようになりたいの。だから・・・これからは二人で頑張りましょうよ。」

 

 思わずジェシンはもう一度ユニを抱きしめてしまった。

 

 

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