恋人よ その8 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 彼女ちゃんとの将来、と言われてもジェシンはピンとこない。わざわざそんなことを理由にしてはいない。独立するのも、弁護士の道を選んだのも自分の意志で自分のためだ。ただ、ユニがいつもジェシンの傍にいることは当たり前のことなのだ。ユニのために将来設計をしているわけではない。ユニはそんな事関係なくジェシンの隣にいる。

 

 口には出さない。その感覚が人とは違うことは、周りを見てみればわかることだ。会社の同僚でも、大学の時の友人でも、良き家庭を作るために経済的な余裕を、恋人に関心をを向けてもらうために肩書きを、小さくてもいいから『社長』や『代表』と言われる組織のトップになるための独立を、と皆必死だ。気持ちはわかる。ジェシンだってユニに頼もしい男だと思われたい。こればかりは他の男と変わりはしない。しかし、それとジェシンが自分のやりたい事のために生きることは別の話だ。ジェシンが何者であろうと、ユニは必ず傍にいるからだ。決まりきった話だ。ユニに好かれたいがために何かをする、わけではない。

 

 はあ、と気のない返答をして、ジェシンも安っぽい応接セットのテーブルの上のPCに向き合った。所長も息抜きの雑談だったようで、ジェシンのつづける気もない応答を気にもせず、ふふん、と鼻歌を歌いながらキーボードをたたき始めた。こうやって書類の処理を土日にしてしまうのがこの事務所のやり方だった。一人だとどうしても溜まってしまう仕事。こういう事の処理をどうすれば効率的にできるかどうか、と考えるのも勉強になる。人それぞれやり方はあるのだろうし、所長はたとえジェシンがいなくても仕事をこなしていくだろう。ジェシンがいない時もそうしていたのだし。ただ、この休みのない状態でずっと行くのもどうなのだろう、とたまに思う。ジェシンは自分の経験値のためにわざと自分を追い込んでいるが、所長は工夫すればどうにかなるんじゃないかと思うのだ。他の事務所がどうしているかは知らない。所長曰く、個人で仕事をするという事は、ずっと仕事をしていてもいいし、休む時間を作ろうと思えばいくらでも作れる。客に迷惑が掛からなきゃ、誰に怒られるわけじゃないからね、とのことだそうだ。ちなみに所長は独身だ。

 

 所長にも、ジェシンが見る既視感・・・白昼夢のような映像の話はしていない。自分でも普段は忘れていることが多いからだ。この季節になると否応なくジェシンの視界に現れる。強制的に思い出させるように。

 

 忘れてはならない記憶なのか。それはなぜか。

 

 魂が輪廻し、前の記憶を保ったまま体に宿るという事を信じているわけではないが、どうもおさまりがわるい気持ちがする。この世には理論や科学だけで説明できないことが未だ沢山あるし、魂が体を失った後に行きつく世界のことなど、それこそその筆頭だ。宗教によっても違うし、精神世界を研究している学者にとっても、いつになっても解けない難問だ。どこかの科学者が言っていたような気がする。科学者というものは、分からないことはわからないとはっきりいうものだ、と。つまり誰にも分っていないことをジェシンは悩まねばならないわけだ。

 

 冷静に考えてみても、ユニに出会ったあの時に、ジェシンは心を病んでいたという事実もない。すこぶる健康だった。心も、体も。今もだけれど。ユニに視線を持っていかれたこと以外に、狂ったことは起こりもしていなかった。ユニにくぎ付けになったことはジェシンにとっては狂った事でもないけれど、他の人にとっては、人に興味を持つジェシンが一人に心をもぎ取って行かれたことは狂気の沙汰だったらしい。ひとめぼれ、ひとめぼれとはやされて、もうそれでいい、なんでもいい、ユニでなきゃだめらしい俺は、と開き直ってユニを捕まえて今に至る。全くユニへの気持ちが薄れることもなく、ただユニがジェシンといて、二人で笑いあっているのが当たり前だとおもっている。その根拠が分からないだけだ。それこそ、誰にもわかっていないことを悩まねばならない状態なのだ。

 

 知りたいのか、俺は。毎年初冬に見るこのデジャブについて。知りたいのだろう。毎年見る女性は確実にユニだし、ユニがどうして風に吹かれて誰か・・・多分俺だが・・・を待っていて、そして近づけなくて、そして涙をこぼして姿を消すのか。

 

 知りたいのだ。だって、ユニはこの手からこぼれてはならないただ一つものなのだから。

 

 

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