㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
「・・・俺は・・・基本リアリストなんだが・・・。」
いつの間にか立ち止まって話をしていた二人。気が付いたようにジェシンは再び歩き出し、ユニにそう言った。格好つけでも誇張でもない。ジェシンは大風呂敷を広げるようなことを考えもしたこともない自分を知っている。
「私も・・・あんまり変に夢見ない方だと思う。」
ユニもそう答えた。夢がないわけではない。だが、自分の力・・・能力プラス資金力などをちゃんと考えて行動する方だ。何かをしたいと思った時、能力が足りなければ努力するし、その他足りない者があればどうすればいいか手立てを考える。何も無い状態で突っ走る事のない性格だ。
ジェシンもユニも、そういう意味で、学生時代は、教師から安心な生徒とみなされ、案外放っておかれていた。手のかかる生徒ほど教師と距離は近い。ユニなどは小学生の時、大人のように周りを見ているので子供らしくないです、などと母親が懇談で言われてきたと後に聞かされたことがある。母親がその教師を嫌っていたことを覚えていたユニは、やっとその原因が数年ぶりに分かったものだ。
お互いに読書家で、小説も好きだ。だから作家が構築した架空の世界だって楽しめる。理解できるし没頭できる。けれどそれは作られた世界だ、と認識したうえでのトリップだ。空想に足を取られる事のない性格だという事を、ジェシンはリアリスト、という言葉で表したつもりだ。
だから。
「この話は、簡単に人に相談できるものじゃあないな。」
「うん。私も、サヨンに話すべきかどうかも悩んだもの・・・。」
「俺もそうだ。ただなあ・・・流石に四年続けて同じ季節に観てしまうとなあ・・・。」
見ている本人からすれば、なぜ、どうして、もしかして、と思う事なのだが、他人からすれば、空想が夢になったんじゃないか、ドラマの見過ぎ、ちょっと心が疲れてるんじゃない、などと言われかねない。何しろ、ジェシンは寝ている間に見ているわけではないにしろ、現実の風景とは異なる場面を見ているのだから、妄想ととられても仕方がないし、ユニだって夢で見ているわけだから、空想が夢としてストーリーを持ったのでは、と思われるに違いない。そういう判断ができるからこそ、二人ともリアリストだと自分を判じることができるのではあるが。
でも、とユニは首をかしげる。
「私が二種類見て、サヨンが一つだけ・・・ってことは、もしこれが前世の私たちのお話だとすると、今四回目の人生の最中って事なのかしら・・・。」
「もしかしたら、俺とユニが出会えた人生だけがよみがえってきているのであってさ、何度も転生して全く違う国の全く違う人物として生きたこともあるのかもしれねえぞ。」
「例えばサヨンが女の人とか?ほら、私夢の中で男でもあり女でもあるじゃない?」
「・・・。」
黙って想像し、肩を竦めたジェシンを見てユニが朗らかに笑った。
「・・・ユニの男の姿ってのは、ユニそっくりのシクがいるからなんとなく想像できるんだけどなあ・・・俺のは俺に女性の服を着せた姿しか思い浮かばねえ・・・気持ち悪い・・・ヨンハの変態ぶりより気持ち悪い・・・。」
ユニがまた笑い声を立てた。その澄んだ響きに、ジェシンも難しい顔を緩めてまた手をしっかり握りしめた。風が冷たい。ソウルはまっすぐに冬に向かっている。
ジェシンの見る白昼夢、ユニの見ている夢の内の一つは、内容としてはあまりハッピーエンドではない。ジェシンの方は、おそらくあの泣き顔を最後に会えなくなったのではないか、と推測されるし、ユニの方の夢は、確実にユニが先立っている。ただ、ユニは分かっているだろうか。どの夢も。
ジェシンとユニは出会い、そして何か特別な関係になっているという事を。特にユニが見ている夢は、残されたジェシンの腕に赤ん坊までいるのだ。自分たちを父、母と称している。夫婦だったのだ。
今、この世では、恋人。出会い頭に惹かれ合い、手を取った。ジェシンの知り合いは、ジェシンのひとめぼれから始まった、と思っているだろう。実際周囲からはそう見えたはずだ。だが。
どうも自分たちが出会い、恋に落ちるのは運命で決められていたらしい。
リアリストのジェシンでもそう思わされてしまうのだ。