仁術 その50 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 いずれ、とジェシンは言った。

 

 ユニ殿との手紙のやり取りが当たり前のこととなるよう、俺は努力しましょう。あなたが字を追うことを楽しめるように。その一助を俺に担わせていただきたい。

 

 そう言うジェシンをポカンとユニは見上げた。二人で歩いていると、ユニは長衣を少し開け気味にする。話をしたいのだ。口元を押さえていてはジェシンに声が届かないし、ジェシンの声も聞こえづらい。だからユニの表情は、ユニを首を傾けてみるジェシンには丸見えだった。

 

 「ユニ殿はお嫌か?俺とのやり取りは、シク関連のついでだけ・・・で終わったほうが良いか?」

 

 「そんなこと!」

 

 ユニは小さく叫んだ。ジェシンにはそれで十分満足だったが、ユニはちゃんと言い返してくれた。

 

 「嫌などと・・・そんな気持ちがあるわけございません。私がどんなに楽しみにしているか、ジェシン様のお手紙を・・・ジェシン様はわからないわ、私の気持ちなんか、絶対。」

 

 ついでに少し拗ねてしまったらしいユニの小さく膨らんだ頬に指が伸びそうになる。つつきたい。触りたい。だが、道端だ。本当によく訓練されているよ俺は、気持ちは詩にぶつけ、振る舞いは両班の男の為すべき態度を叩き込まれてるっていうか。

 

 ジェシンがそう思って葛藤している間、ユニはふくれっ面をしながら手紙を待っている自分のことを改めて思い出す。毎朝、日課として散歩にいくユンシクを見送り、今日は前回の手紙を頂いてから四日目、まさかまだお手紙は届かないわね、と思って家事をする日々。手紙の交換をしたら、その夜にすぐさまジェシンからの手紙を読み、何度も読み返し、次の夜には返事を認める。勿論ユンシクの体のこと、学問の進捗具合など、最初に手紙のやり取りの本来の趣旨であることを記し、そしてジェシンがユニだけのために選んでくれた詩についての感想を書く。拙い感想だと思う。だが、自分の考えを礼儀上だとしても尋ねてくれるジェシンに応えないなどということはできない。いや、それは言い訳だ。ユニはジェシンがどうしてこの詩を自分に紹介してくれたのか知りたいし、自分の感想だって聞いてほしい。ジェh審が礼儀上で形ばかりの親切をしてくれているなんて思わなかった。あの30日ばかりの医院での日々の中で、親しく話をするようになったのは後半も後半だったろうか。ただの看護のために存在している娘の自分を邪険にせず、話をしてくれたり聞いてくれたり。その態度に嘘はなく、ユニの話にもきちんと答えをくれた。考えを語ってくれた。ユニを女人だと馬鹿にせず、言葉を交わすことを楽しむユニと対等で居てくれた。ユニは楽しかったし、嬉しかった。いつもいつも。

 

 ユニは家にとっておまけの存在だと思っていた、自分を。弟ユンシクの体の弱さを知る少ない親戚が陰で言っていたのを知っている。逆だったら良かったのに。ご両親もその方が安心だったでしょうよ。器量は良いのにあのように男のような賢さを持っていてもねえ、いっそ男だったら良かったのに。自覚はあっても傷つくのだ。本を読むことを母に叱られるたびに、母も親戚と同じようなことを思っていると僻んだ。父がすぐに疲れる弟の部屋からため息をつきながら出てくるのを見ると、私が男でないから父をがっかりさせたのだと心は沈んだ。余計なことは言わないようにしてきた。弟ユンシクは病みついてやはりかわいそうだし、素直にユニに頼るから、ユンシクとは対等に、いや、年上ぶって素直に世話を焼くことができたし話もできたが、子供同士、何の刺激もない毎日。そんなときに、ジェシンと出会った。余計なことはしないようにしようと思った。だが、同部屋で療養するならと多少の身の回りの世話をするうちに、ユニに対してきちんとした態度をとってくれるその人柄が好もしくなった。もっとしゃべってみたいと思った。ユニにとって初めて会った、ユニを両班の令嬢として、そして年の近い対等の若者として見てくれた人なのだ。

 

 だから手紙が待ち遠しかった。それをユンシクに笑われるぐらい。次の日に書いた手紙を、何日も先の手紙の交換のために、毎朝ユンシクに持たせるぐらいに。その交換がなくなるなんて、それこそ嫌だと思った。

 

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