それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「悪いけどそこ閉めて。傷口診るから埃立ってるの困るからね。」

 

 平気な顔をしている医師によると、医師が眠りにつく前にそっと外を窓から見ると、建物の陰などにすでに警察官が張っていたらしい。泥棒が来ても来なくても安心だな、と思ってぐっすり寝たと笑う。

 

 扉を閉めた向こうの小さな台所では、まだガタガタと音がしている。指揮をしていたのは地域の警察署の副所長で、総監直々の指令の効果なのだろうとは思うが、そんな上の人間が出てこなくても、とジェシンも少々呆れた。自分の父親の地位の高さが初めて目に見える形でジェシンの前にもたらされた瞬間だった。医師がジェシンの父を当てにしたのも、その地位の高さをよく理解していたからだろう。流石壮年の世間をよく知る男だ。

 

 「あいつらからも吐かせますが、以前の盗難届の時と同じような薬品を扱っておいでなんですね。」

 

 「数はないよ。めったに使いたく奈から、緊急で目の前の患者に使うための1、2回分しか置かないんだよ。ペニシリンはもうちょっと置くけどね。」

 

 「ペニシリンも盗まれるんですね。」

 

 「抗生物質が性病の治療薬に使われるって知れ渡っちゃったからねえ。変な知識人より、夜の世界の人たちの方がよほど薬の効能を知ってる。でも、量を間違えちゃ、薬は毒になるから、やっぱり受診してもらわないと。」

 

 「同じ薬局と取引を?」

 

 「ええ。無理が効きますからね。急な注文とか。手に入りにくい薬を探してもらうとか。」

 

 「薬局から薬の移動が漏れたと思いますか。」

 

 「さあね。でも薬局は常に探られてるでしょ、夜間警備も雇って倉庫を守ってるらしいけれど、だからこそ倉庫から出た後のクスリを追いかけるんだろうね。」

 

 医師の手は滑らかに動き、けが人の縫い跡を確かめ、消毒し、時間を確認して、鎮痛剤を打った。容赦なく、足の付け根に。いて、というけが人に、それならいい、と医師は笑った。

 

 「いてえのに何がいいんですか。」

 

 「注射の針の痛さが分かるという事は、感覚が戻ってきてるってことだよ。実際に少し腫れが引いている。足の先の方から色が増しになってきてるよ。」

 

 ねえ、ムン君、と呼ばれて足先を眺めると、確かに赤黒さが取れているように思うし、第一指と指の間に隙間が出来ていた。

 

 「そうですね。だいぶましですね。」

 

 よかったな、と再度言われて、けが人はほっとしたようだった。

 

 「何の怪我なんですか?」

 

 警察官が不審そうに聞くので、ほっとしたばかりのけが人はひい、と怯えている。

 

 「仕事中に道具が壊れて刺さったんだよ。深い傷だったから預かって治療をしているところ。早く良くなって働きたいだろ?」

 

 「休んでなんかいられないんですよう、先生。」

 

 「でもね、とりあえずこの熱と、鎮痛剤が要らなくなるまでは安静だね。じっとしておいで。」

 

 そう言った医師は、警察官に振り返った。

 

 「この患者のために、急ぎで薬を注文したのが今日の夕方だ。ペニシリンと麻酔剤、注射、そしてメンフェタミン・・・ヒロポンだ。」

 

 「メンっ・・・それはよく使うんですか。」

 

 「使わないから発注した。うちは手術するような大きな診療はできいからね。だがこの患者は緊急で処置が必要だったし、かなりの麻酔を使わざるを得なかった。だから覚せい剤で体に負担をかけない方針をとった。一度きりの予定でね。だからうちにしては珍しい薬剤の発注だった。それがどこから漏れたのか、それはあなたたちの仕事でしょう。うちの人間は知れてる。私と妻、昨日は看護師は休みだった。いたのはカルテ整理の中学生の女の子、それからその子の彼氏のムン君だ。」

 

 ジェシンは仰天して飛び上がりそうになった。

 

 「ち・・・違う!違います、先生!」

 

 「おや、彼氏じゃないのか?絶対そうだと妻とも言ってたんだけど。ユニちゃんのこと、好きじゃないのかい?」

 

 「すっ・・・!!」

 

 真っ赤になって言葉を詰まらせたジェシンを、医師はにこやかに見守り、警察官は気まずげに二人の顔を見比べていた。

 

 

 

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