コロナ禍という長いトンネルの中で、私たちは「ネット・セッション」という新しい地図を手にしました。

対面の不安がなく、移動時間もゼロ。この圧倒的な効率の良さが、18ヶ月で30回という、かつてない高頻度のセッションを実現させてくれました。

この時期があったからこそ、私たちのバンドの絆は途切れることなく、むしろ深く耕されたのだと確信しています。

ユーミンのような逸話を持つ、新メンバーとの出会い

このネット・セッション期、私にはどうしても声をかけてみたい人がいました。 グループ内でも評判の高い、あるキーボード・プレイヤーです。

緊張しながらも思い切って誘ってみると、なんと快諾! 

彼の経歴がまた魅力的なのです。高校までクラシックピアノの正統派レッスンを積み、その後プログレッシブ・ロックの衝撃を受け、「キーボードでもロックができる!」と確信してバンドの世界へ。

その歩みは、どこか松任谷由実さんのエピソードを彷彿とさせます。

常に5〜6ものバンドを掛け持つ多忙な彼が、スケジュールを縫って参加してくれる。リアルで集まることが困難だったあの時期だからこそ生まれた、ネット・セッションならではの素晴らしい収穫でした。

「30msec」という埋まらない溝

しかし、回数を重ねるごとに、ある「違和音」が無視できなくなっていきました。 それは、避けては通れない**「音の遅延」**です。

耳が肥えてくるにつれ、ネット越しに発生するわずかなズレが、セッションの本質である「同時性」を削り取っていくのを感じていました。便利さと引き換えに、私たちはどこかで「呼吸の不一致」を我慢していたのかもしれません。

そして、リアルな「体温」のある音へ

だからこそ、ようやく再開できたリアルなスタジオ・セッションは、格別なものでした。

同じ空間に集まり、互いの目を見て、一斉に音を出す。 一瞬のタメ、指先のニュアンス、ドラムの振動が空気を伝わってメンバーに届く。 当たり前だと思っていたこの感覚が、これほどまでに尊く、震えるほど楽しいものだったのかと、再確認する時間となりました。

それは単なる演奏の再開ではなく、「安心して生活できる日常」が戻ってきたことへの、何よりの実感でもありました。

音楽は、続いていく

現在、このグループでのセッションは、メンバーの転居などの変化はありつつも、変わらずに続いています。

形を変え、環境を変え、それでも音楽を共にする仲間がいる。 ネットという窓から始まった縁が、今、スタジオの空気の中で力強く鳴り響いています。

どんな嵐が来ようとも、私たちはビートを止めない。 その先に待っている新しい景色を、これからもこの仲間と共に見ていきたいと思っています。