佐々木隆宏(ささき・たかひろ) 魚の「にしん(herring/ヘリング)」を漢字で書け。

辛抱信宏(しんぼう・しんひろ) 「鰊」。

佐々木 では何故魚の「にしん」の漢字が「鰊」になったのか?

辛抱 (゜Д゜)・・・そんな事言われても・・・

佐々木 魚偏に「柬(かん)」と書き、「東の魚」と言う意味がある。東北地方や北海道等日本の東の海で獲れる魚である事から、この字が当てられた。又、鰊が小柄な魚だから「若い」と言う意味の「柬」が当てられた。

辛抱 「柬」は意味が「選ぶ」「選り分ける」「手紙」「札」等では?

佐々木 「柬」は、「若い」と言う意味もある。鰊が成長途中の魚である事から「鰊」の漢字。

辛抱 成長途中?鰊って更に成長すんの?

佐々木 一般に鰊は、生後1年で全長15㎝、2年で20㎝、3年で30 ㎝、10年で35㎝前後に成長する。別に鰤みたいに稚魚の藻雑魚{モジャコ}から始まり、魚夏{ワカシ}(15~30cm程度)→鰍{イナダ}(30~50m)→稚鰤{ワラサ}(50~60cm)→鰤{ブリ}(60cm~)と名前が変わる訳じゃ無いけどね。

辛抱 じゃあ何で「ブリ(yellowtail/イエローテイル)」の漢字を「鰤」しているのか?

佐々木 師走の時期に脂が乗り美味しくなるからこの字。まあ、年を経て成長し、人間で言う所の「先生=師」に由来している。中国では大魚である鰤を「老魚」と呼んでたから、「年寄り」と言う意味を持つ「師」と言う漢字を用いた。

辛抱 「鰹」は?

佐々木 鰹節の堅さから来ている。「カツオ(bonito/ボニート)」の読みも「かたいうお」が変化したもので、古から干物にした時の堅さが意識されていたから。

辛抱 「鯖(mackerel/マカレル)」は??

佐々木 鯖の漢字の旁(つくり)の部分は「青」の旧字体。即ち鯖の青さその儘。

辛抱 「鰈(flounder/フラウンダー)」だと?

佐々木 漢字の鰈の旁は、カレイの平べったい魚体を表している。世+木で「平たいもの」と言う意味。尚、草冠なら「葉」になる。シンプルに「葉っぱの様に平たい魚」。

辛抱 何で世と木で「平たい」んだ?

佐々木 実は「枼」は葉に由来し薄い物の意味だと説明されるが、これは俗説。体の色が枯れた木の葉の様な色をしていて、魚の鱏(えい)に似ているから「カラエイ」と呼ばれていた。これが訛って「カレイ」になって今に至る。まあ「葉っぱの様に平たい魚」から来ている事は間違い無い。

辛抱 「鮒(Carassius/カラシウス)」だとどうなのか?何か付いていたのか?

佐々木 「付」には「小さい」と言う意味があり、「鮒」は「小さい魚」を表す。そして鮒は中国では「鯽」と言う漢字「ヂィ」で呼ばれていた。でも日本では「鯽」では無く「鮒」の漢字になった。「鯽」の意味は「背鰭を高く立てる」になる。容姿からこう呼ばれていたのだろう。他にも、「鯽」には「くっつく」と言う意味があるんだとか。これの意味によって群れを成して後ろにくっついて泳ぐ姿に由来する。ここから、同様の語源として「後ろに付く」の意味で「付」の字が入った「鮒」が生まれたと・・・かも知れない。又、「鮒」の音読み「フ」と魚を意味する「ナ」を合わせて「フナ」と呼ぶ様になった説がある。

辛抱 「鯽」は日本でも「鯽(ふな)」と変換出来るけどなあ・・・

佐々木 「鰯(sardine/サーディン)」は、何時も他の魚に食べられている弱い魚と言う意味と、傷み易い弱さの意味から。「鯛(sea ​​bream/シーブリーム)」は、日本周辺の海の何処でも獲れる事と、1年中周年で獲れるから「周」の旁が当て嵌められた。「鰺(horse mackerel/ホース マッカレル)」は、契約金額等で使われる漢数字の参(3)が当てられている。これは鰺の旬が3月だから。「鱩(はたはた){Japanese Sandfish/ジャパニーズ・サンフィッシュ}」は、雷の擬声語である古語の「ハタハタ」に由来するとされている。又、「霹靂神(はたがみ)」と言う雷の神様を喩えて「鰰(はたはた)」と書く様になったと言う説もある。秋田県で雷が鳴る11月頃に獲れる事から「カミナリウオ」の別名も持つ。まあ雷に関わる魚でこの漢字。鱩が産卵の為、浅瀬に大挙して群がる11~12月頃は、雪が降る前に雷が鳴る事が多いからなんだって。そしてハタハタの「ハタ」には「はためく=鳴り響く、轟(とどろ)く」の意味がある。又、「はた」は古語で「鰭(ひれ)」の事を指す言葉でもあり、大きな鰭の特徴から「ハタハタ」と呼んだとする説もある。

辛抱 漢字一つにそんな深い意味があるのか・・・(゜Д゜)

佐々木 「鮪(tuna/ツナ)」は何でこの漢字だ?

辛抱 何かが有るから・・・?

佐々木 「有」には「外側を囲む」と言う意味があり(?そんな意味あったっけ??)、「鮪」は海を囲む様に大きく回遊するから、この漢字。

辛抱 そうなの?

佐々木 尚、鮪が泳いでいる姿を海面から見ると影が黒い事から「真黒(まぐろ)」って説と、目が黒いので「眼黒(まぐろ)」の説がある。

辛抱 多くの肉が取れるから「有」の字が付けられたとかって説はどうなの?「有」は「ナ」と「月」に分けられ、「ナ」の部分は「持っている」と言う意味、「月」の部分は「肉」の意味を表すし。鮪は赤身やトロ、脳天等一匹で多くの肉が取れるから、「肉を持っている」と言う意味の「有」が使われたとかって・・・

佐々木 他には「魚の中の魚」である事を表現する為って説がある。鮪は、誰もが知っている代表的な魚だよな?なので代表的な魚である事、「ここに魚有り」と言う意味を込めて、「有」を使ったって説・・・ちょっと後付けかな?

辛抱 確か鮪は「シビ」とも呼ばれてるけど・・・何か意味あるの?

佐々木 平安時代には、鮪を「シビウオ」や「シビノウオ」と呼んでたらしい。シビは、「宍魚」とも書き、「宍」は「獣の肉」を意味している。鮪の赤身が獣の肉に似ているから、「シビウオ」と名付けられたとか。だが、鎌倉時代から江戸時代にかけて、シビが「死日」(縁起の悪い言葉)を連想させると言う理由で、「マグロ」に変化した。なので江戸時代の名残から、今でも、マグロの事をシビと呼んでいる地方{丹後や舞鶴等}がある。「シ」は「宍(し)」の意で宍状の肉を有する大魚、「ビ」は「ミ」の音便で魚介の通称。

辛抱 う~ん・・・獣肉ねえ。まあ赤身だから・・・

佐々木 又、「シビ」に関しては、「四日」と言う意味の説がある。昔は鮪なんて魚を保存するのは冷蔵庫なんぞ無いから直ぐ悪くなるだろ?で、「猫すら食わない(腐り易いし!)」なんて言われてた時代もある。で、この脂の乗った赤身魚の鮪を四日間地面に埋めて発酵させて生臭い魚肉の味を和らげなければ食べられない・・・とも考えられていたようで、そこから「四日」つまり「シビ」が来たと言う説とかもある。

辛抱 態々発酵させて食べるの!?

佐々木 飽く迄「説」に過ぎない。「シビ」の語源の一番分かり易い答えは人名説。

辛抱 シビは人名?

佐々木 古事記に収録されている歌の中に志毘臣(しびのおみ)と袁祁王(をけのみこ)→後の第23代顕宗天皇(けんぞうてんのう)の歌の掛け合いがあり、その最後に志毘臣(しびのおみ)の事を大魚(マグロ)に例えた歌を歌った事が、マグロがシビと呼ばれる由来とも。

※平群鮪(へぐり・の・しび)は『日本書紀』に見える人物。

名は「志毘」とも書かれる。

平群氏の一族で、平群真鳥(へぐり・の・まとり)の子。※

辛抱 どんな歌?

佐々木 この話詳しく話すと長くなるんだけど・・・歌は

「潮瀬(しおせ)の 波折(なを)りを見れば 遊び来る 鮪(しび)が端手(はたで)に 妻立てり見ゆ」

訳:「浅瀬の潮(波)が折れるのを見れば、遊びに来た鮪(しび:マグロ)の片鰭(ひれ)に、妻が立っているのが見える」

→つまり、鮪(しび:志毘臣{しびのおみ})の横にいるのは、私の「妻」である・・・との嫌味。

辛抱 どう言う意味??

佐々木 更にこんな歌が続く

「大魚(おふを)よし 鮪(しび)突く海人(あま)よ 其(し)が離(あ)れば 心恋(うちこぼ)しけむ 鮪(しび)突く志毘(しび)」

訳:「鮪(しび)突く海人(あま)よ、それが離れて行けば心悲しいだろう。鮪(しび)突く志毘臣(しびのおみ)よ」

→海人(海女):大魚(おふを)が離れて行ったら、それは悲しいだろうな~志毘臣(しびのおみ)よ。

辛抱 (-_-;)・・・な~んかドロドロしてる気がする・・・確かに魚を例にして表現してるけど・・・

佐々木 だってこの歌詠んだ後、袁祁王は直ぐ軍を起こし志毘臣の家を取り囲み、殺してしまったんだから・・・

辛抱 ゲエ!?(゜Д゜)

佐々木 この話すると本当に長くなるからこれで切る。まあ確かに魚を題材にした和歌って事は間違い無い。でも・・・志毘臣=平群鮪だから、まぐろを「シビ」とした・・・って説は無理がありそう・・・(-_-;)。大魚=鮪だからそれでいいじゃんって人もいるかも知れないけど・・・どうかなあ~・・・

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辛抱 所で「枼」は何と読む?

佐々木 「せき」と読む。「薄い木札(うすいきふだ)」の意味があるし、そう読む事もあるらしい。音読みは「ヨウ」「チョウ」。「枼」は象形文字で、木の枝の先に3枚の葉っぱが揺れている様子を描いている。草冠と合わさって「葉っぱ」の意味で使われる様になった。

辛抱 漢字の「魚」の由来は魚の姿そのものだよね?

佐々木 クの部分は頭、田は鱗、4つの点は背鰭を表わしている。

 

辛抱 他にも魚偏の漢字は鯏・鮎・鮑・鰻・鱏・鱚・鯨・鯉・鮭・鮫・鰆・鯱・鱸・鱈・鯰・鱧・鯔・鱒・鰐とかある。

佐々木 キリが無いから又今度!

辛抱 鯇(あめのうお)、鮖(いしもち)、鯒(こち)、鮸(にべ)、鯧(まながつお)、鮴(めばる)、鰙(わかさぎ)、鯑(かずのこ)、鱲(からすみ)、鯣(するめ)、鱠(なます)、鰥(やもめ)・・・本当に多いねぇ。でも鯇(あめのうお)やら鰥(やもめ)って魚いたっけ?

佐々木 (😣)皐月鱒(さつきます)の河川残留型(陸封型)個体を似嘉魚(アマゴ)と呼ぶが、このアマゴを鯇(あめのうお)と読む事もある。雨がちな梅雨や初夏に良く釣れる為「雨魚」と書かれて、これの別ヴァージョン文字が「鯇」。旁の「完」には「ずんぐりと丸い」と言う意味があり、「鱒に似たずんぐりと丸い魚」の意味がある。

辛抱 じゃあ鰥(やもめ)は?

佐々木 (😣)妻や夫を亡くして再婚していない男性や女性。

辛抱 魚と関係無いなあ・・・

佐々木 「やもめ」の語源は、本来は独身女性を意味し、男性は「やもお」と言っていた。

辛抱 そうなの?

佐々木 まあ平安時代には男女共に「やもめ」と言う様になり、特に男女を区別する場合に「男やもめ」「女やもめ」と言う様になる。

辛抱 じゃあ漢字の「鰥」の由来は?

佐々木 元来、〈やもめ〉の語は《日本書紀》等には「寡」「寡婦」の字があてられ、夫を亡くした女、夫の無い独身の女を意味した。妻を亡くした男は〈やもお〉と呼ばれ、「鰥」の字があてられた。

辛抱 じゃあ「鰥」の意味は「男やもめ」!

佐々木 「やもめ」の「め」は「女」、「やもお」の「お」は「男」の意味。「やも」は「屋守」が語源っぽい。尚、「鰥」の本義は「大魚」で、これを「やもお」としたのは単なる当て字な。まあ、四字熟語に「鰥寡孤独(かんかこどく)」ってのがあって、配偶者や子供、親戚等がいない孤独な状況や、その寂しい様を意味する言葉もあるし・・・鰥は男やもめ、寡は寡婦、孤は孤児、独は子の無い老人を意味するぞ。尚、「鰥(かん)」の漢字は、魚と涙の象形字が組み合わさった会意文字(かいいもじ→幾つかの漢字を組み合わせて作った、元々の漢字とは別の意味を示す文字)。

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