メキシコ人の作家の作品を読むのは
これが初めてなのではないかな。
たしかに呪術的マヤ・ファンタジー。
現代のメキシコが舞台だと思うけど
なぜか古代のような雰囲気が漂ってくる。
おじいさんから言葉の守り人の役割を引き継ぐ少年の経験と成長。
とりたてて怪しい儀式めいたことではないのに
表現が素朴で豊かなので
神秘的で原初的なものを読んでいるように思える。
詩
なんだろうな。
誰にも言えない自分だけの名前。
守り導いてくれる自分だけの鳥。
森や風や夢。
この作品を読んでいる間は
どういうわけか不思議な夢を見ることが多かった。
季節も時間もわからない。
海から砂浜を経て続く小高い丘のうえのベンチに
ぼくはひとりで座っている。
何も視界を遮るもののない空は薄い雲に覆われ
雲は光の加減で複雑な色彩になっている。
それは美しいというよりも不穏を予感させる。
ぼくはベンチから立ち上がり
丘から砂浜へ歩いて行く。
あたりには誰もいない。
時間が止まり音も消えた世界で
ぼくは何かを考えている。
どれくらい時間が過ぎただろう。
丘のうえのベンチに荷物を置いていたことを思い出して
取りに戻ろうとすると
どこからかひとりの女性があらわれ
ベンチに向かって歩いている姿が目に入った。
たとえばこんな夢。
この作品がぼくの深層心理に何かを働きかけたのかもしれない。
おそらくマヤに限らず
人間の歴史において
こういう呪術的神秘的な伝承は必然のものだった。
日本だったら遠野物語か
あるいは古事記か。
ときに根源的なものに触れるのは
こころをリセットさせてくれる機会になる。
--言葉の守り人--
ホルヘ・ミゲル・ココム・ペッチ
吉田栄人 訳