ビニール傘 | (本好きな)かめのあゆみ

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かしこいカシオペイアになってモモを手助けしたい。

気鋭の社会学者による初の小説集らしい。

 

読み始めて

なるほど社会学者らしい

と思った。

 

と同時に

これは都市の(それと一体のものとして地方の)若者の

ある一面の現実ではあるけれども

それがすべてではないはずなので

社会学者としては危険な表現なのではないか

とも思った。

 

ここに登場する若者たちは

誰もみな同じように

劣悪な労働環境で低収入

希望なんてない

みたいに描かれている。

 

ある一面ではたしかにそうだ。

 

就職のタイミングでどの仕事にありつけるか

もっとさかのぼればどの家庭に生まれるか

によってその後の人生が既定されてしまうような社会。

 

ひとたびそっち側にはいってしまうと

もう希望なんて持ちようがないし

努力なんてする気も起きないこの社会。

 

息苦しい。

 

荒んでいかないわけがない。

 

カップラーメン

ファストフード

コンビニ

そして

ビニール傘。

 

それらが彼ら彼女らの息苦しさ生き辛さを象徴している。

 

彼ら彼女らには努力が足りない

なんてぼくはいうつもりはない。

 

やはり家庭環境によって進める道はある程度限定されるのがいまの現実。

 

それを乗り越えられるのは一部の少数者であって

それをすべてのひとにあてはめるのは無理がある。

 

少子化してるっていうんだったら

もっと社会はこどもや若者に金をかけられるんではないだろうか。

 

若者に元気や希望がない社会は

中年や高齢者にとってもつまらない社会なのではないだろうか。

 

でも中年や高齢者も生きるのに必死で

若者に構ってられない。

 

ああなんだかつらい。

 

こういう社会批判はもちろんあるけれども

かならずしもそうではない元気で希望のある若者だっているのは事実。

 

彼ら彼女らだって必死に生きてる。

 

それに

息苦しさ生き辛さを象徴している

カップラーメン

ファストフード

コンビニ

そして

ビニール傘

だって

シチュエーションによっては

豊かで楽しい人生の舞台や小道具になることを

ぼくは知っている。

 

 

 

--ビニール傘--

岸政彦