粘液の糸をひいて彼女の手から離れるひる、ひる、ひる。それを素早く察知して、空中で奪い合う鳥、鳥、鳥。
鳥の激しい羽音に気をとられているうちに、少女と思えた女の子の姿は消えていた。まるで鳥に運び去られたかのように。
そして女の子がいた場所のちょうど延長線上に巨大なモニュメントがそびえたっていた。
いつの間にか、こんなにも近くまで歩いて来ていたのか。
ふと、白い塔をみてこんな考えが頭をよぎる。もしかするとこの塔はひるこのメタファーなのか。
しかし、その考えをすぐに打ち消す。そんなはずがあるものか。このモニュメントはこんなにも生命力をみなぎらせている。それにひきかえ、ひるこはどちらかというと死に近い場所にいる生き物じゃないか。彼女が言っていたえびすとひるこの共通性なんて、信じられるものか。なんでもかんでも何かのメタファーじゃないかと思うなんて、よくない癖だ。気を付けないと。
そんなことをひとり考えていると、ぽつりぽつりと雨がからだにあたる感覚がある。
降り出したか。と思うと急に、雨脚が強くなりだした。あわててひとまず塔に向かう。
雨を避けられそうな建物は、このあたりでは駅とこの塔だけだ。塔の方が近い。