意味を尋ねようと口を開きかけたときに、店の奥から店主が出てきた。手には電話を握っている。
「あなたにお電話です」
こちらのテーブルに向かって歩いてくる。一体誰からだろう? そもそもいまここにいるっていうことがどうしてわかったのだろう? 人違いじゃないのだろうか? 不審に思いながらも電話を受け取る。
「どちらさまですか?」
尋ねると相手はこう言った。
「私だ」
聞き覚えのある声。主任である。
「どうしていまここにいるとわかったんですか?」
「何を言っているんだ。君に今朝、そこに行くように指示したのを忘れたのか?」
事情がわからない。そんな指示を主任から受けた覚えはない。今日は組織に行く気にはなれず、それでいつものようには電車に乗らずにたまたまこの喫茶店に入ったのだ。主任の指示でこんなところに来るはずがない。
「寝ぼけているのか? まあいい、とにかく指示通りにそこに行っているのは確認した。あとは上手くやっておくように」
それだけ言って、主任は電話を切った。
あとは上手くやっておくように? いったい何を?
あっけにとられていると、店主と女性がこちらの様子を窺いながら笑っている。店主はにやにやとしている。女性はいたずらっぽく微笑んでいる。まったく不愉快だ。
「お客さん、どうぞ」