ひる(4) | (本好きな)かめのあゆみ

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かしこいカシオペイアになってモモを手助けしたい。

 よく見る気にはならなかったが、バケツの中には何か生き物がいるような気がした。かえる? たがめ? ざりがに?

 向こうからこどもたちが数人で走ってきた。バケツを見て歓声をあげる。

 あーっ、あったあったー、よかったー、まじでなかったらどうしようって思ってたー、きのうつかまえたひるー、まだ生きてるかなー?

 ひる。ひるか。そうか。それは候補に入ってなかったな。この子たちはひるなんか捕まえてどうしようっていうんだろう。

 水を張ったばかりの田んぼに、朝の光が反射して、鏡のように空と雲とを映し出していた。

 

 駅の前まで来るには来たが、どうにもこのまま電車に乗る気にはなれず、駅の向こう側にある喫茶店に向かった。

 古びた喫茶店。からんからん。乾いた鈴の音を立てながら扉を開けると、朝から疲れたような顔をした店主がちらりとこちらを一瞥し、軽く会釈をした。

 客は誰もいない。ほのかに音楽が流れている。プロコフィエフのピアノ協奏曲第五番ト長調作品五十五。好きな曲だからすぐにわかる。寓話的でおちゃめな作品。皮肉も利いている。この喫茶店の雰囲気に合っているのかどうかはよくわからない。ちぐはぐな印象もなくはない。