アルケミスト――夢を旅した少年 | (本好きな)かめのあゆみ

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かしこいカシオペイアになってモモを手助けしたい。

夢の叶え方

とか

幸福の見つけ方

とか

そういう惹句だったら

絶対にこの本をぼくが手に取ることはなかった。


天邪鬼なぼくは

読書にハウツーを求めたくないから。


感動なんかもいらない。


ぼくがこの本を読んでみようと思ったのは

アルケミストという“導く者”の存在が書かれていると知って

気になったから。


ぼくは“導く者”に憧れている。


導かれたいし

導きたい。


この本に登場するアルケミストは

星の王子さまのきつねや

モモのカシオペイアに匹敵する

“導く者”だ。


ぼくにとっての

三大“導く者”のラインナップに入る。


ぼくが憧れる“導く者”とは

積極的に引っ張る者ではない。


寄り添いながら

自分で気づかせてくれる存在。


直接的には何も指導したり教えたりしないけれども

ちょっとした言葉やさりげない行動で

ぼくに大切なことを気づかせてくれる存在。


アルケミストはそういう存在だった。


主人公の少年は

最初はそんなアルケミストをもどかしく思うが

だんだんと絶大なる信頼を寄せていく。


最近ぼくが妄想を膨らませていた

“素粒子の魂”

を思わせる

“おおいなる存在”

についても書かれていてびっくりした。


砂漠の砂の一粒も

広大な宇宙も

同じ大いなる手によって書かれている。


マクタブ。


ぼくが好きなのは砂漠の旅のシーン。


キャラバンに混ざって

らくだに乗って

イギリス人やらくだ使いとともに進む。


本から学べることと

現実から学べること。


砂漠のことば

風のことば

太陽のことば。


少年の父

呉服屋の娘

セイラムの王様

ウリムとトムミム

キャンディ売り

クリスタル商人

イギリス人

らくだ使い

ファティマ

アルケミスト


羊飼いの少年が

宝物をさがしてピラミッドに向かう旅。


少年が読めば少年の

少女が読めば少女の

そしておとなが読めばおとなの

それぞれのこころにやさしく寄り添うような

そんな寓話。


この本にもっと早く出会いたかったような気もするけど

ちょっとくたびれたおとなになったいま

こういう素敵なきっかけで出会えたこともうれしい。


メッカに憧れるだけの

クリスタル職人の気持ちが

いまならよくわかる。


安易な夢追いびとの冒険ファンタジーになりかねないところを

箴言めいた表現の数々によって

普遍的な人間存在の謎に迫ってくる。


砂漠の夜

空いっぱいに輝く星を

見上げてみたい。





――アルケミスト――夢を旅した少年――

パウロ・コエーリョ

訳 山川紘矢・亜希子