〈頭取代理との戦い〉に引き続き、ビンダーによる研究でカフカが書いていったとされる順序に従って、〈その建物〉に進む。
これもカフカの生前には十分に膨らまなかった未完断章である。
ほんの5ページ足らず。
ここでは、Kが、自分の事件について最初の告発を行った役所をみつけて訪ねるところが描かれる。
その役所をみつけるのはさして難しくはなく、画家のティトレリなどにきくとすぐに教えてもらえた。
――こんな役所は実はぜんぜん意味がないのです、あれはただ言えと命じられたことを口に出して言うだけです、大きな検察局のなかの一番外側の機関にすぎず、検察局そのものには被告はむろん近づきようもない。
Kは画家のこんな忠告に反駁することもなかった。
仕方がないからだ。
Kは訴訟のせいですでに疲労困憊しており、起きているのか眠っているのかわからないような状態が続く。
頭の中では想像とも妄想ともつかぬ考えが巡る。
――頭の中で観察に観察を重ねていた。観察は裁判所と関係のある人びとに限られなかった。こうやって半睡の状態でいるとすべての人がまじりあってしまい、彼は裁判所が大きな仕事をしていることさえ忘れてしまった。自分一人が被告のような気がして、ほかの者はみな役人か法律家のような顔で入り乱れて裁判所の廊下を歩いていた。
この後はいよいよ山場。
〈大聖堂にて〉である。
――審判〈その建物〉――
フランツ・カフカ
訳 中野孝次