審判〈検事〉 | (本好きな)かめのあゆみ

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かしこいカシオペイアになってモモを手助けしたい。

〈弁護士・工場主・画家〉の次には、〈商人ブロック・弁護士解約〉となるのがブロートの配列なのだが、ビンダーによる研究でカフカが書いていったとされる順序に従って、〈検事〉に進む。


この〈検事〉も未完断章に分類されているが、〈エルザの家へ〉と同じようにわずか8ぺーじ足らずなのでほとんど話にふくらみはない。


Kは長年の銀行勤めの間に、裁判官、検事、弁護士などで構成されている仲間の集まりに参加するようになっていて、そういうメンバーの一員であることを大きな名誉であると感じていた。


特にハステラ―検事とは親しくなり、仲間の集まりの際にはいつもKはハステラ―検事の隣に座るのだった。


付き合いの初めのころは、夜の会合のあとにどちらかがどちらかの家の途中まで送っていくくらいだったのが、やがて、ハステラーはKを自宅に招き、1時間ほどブランデーと葉巻で時を過ごすようになる。


ハステラーはヘレーネという名の女を自宅に囲っていたが、Kが家を訪れた時でもお構いなしだった。


しかし、あまりにもハステラーがKと親しくするのに嫉妬したヘレーネが、ハステラーの気をひこうとやっきになりだしたことを疎ましく思ったのか、Kが久しぶりにハステラーの家を訪れた時にはヘレーネは追い出されてしまっていた。


ある日、銀行で頭取から、ハステラー検事と並んで歩いていなかったかと問われたKは、彼は自分の友人であると誇らしげに言う。


頭取が自分に関心を寄せている、少なくとも寄せているように感じられることは、Kにとっては幸福な瞬間であった。


父親が非常に若く死んでしまったKにとって、しかるべき立場の年長者から自分に寄せられる関心というものは得難い経験であり、そんなことで幸福な気分になってしまう自分というものは、非常に子どもっぽいのではないかとの憂慮も自ら感じていた。


また一方で、母の愛情は斥けようとして、もう2年も母には会いに行っていないKなのであった。


――そういう友人関係だとはぜんぜん知らなかった


この文章で終わる未完断章。


果たしてカフカはこの続きをどのように膨らませ、この作品の世界を補強しようとしていたのだろうか。


あらすじだけまとめるとなんだかよくわからない話なのだが、紡がれることばのひねり方、ねじれ方があまりにも自然で、けれどもよく考えるととんでもなくどたばたしていて滑稽で、スラップスティックなのである。







――審判〈検事〉――

フランツ・カフカ

訳 中野孝次