秋の夜は虫の鳴く音で賑やかだ。
日本の秋だねえ、なんて風流な気分になる日もあれば、なんとも感じない日もある。
うるさくてかなわないなあ、と思うことはほとんどない。
それはやっぱり、日本の秋だから、なのか。
虫の鳴く音とひとくちに言っても、その種類はさまざまだ。
さまざまに違いない。
きっとそうだろう、たぶん…
まあ、よく知らないんだけど。
とにかく、さまざまには違いないものの、果たしてその音を聞き分けられるかというと、さあどうでしょう。
われながらあやしい。
虫のこえ、という童謡がある。
5種類の秋の虫が登場する。
まつむし、すずむし、こおろぎ、くつわむし、うまおい。
うまおい、って何?
童謡に出てくる虫の鳴き声だけど、たしかにそう聞こえる、っていう音もあるものの、スイッチョン、ってそれはちょっと想像力と創造力を膨らませすぎではないだろうか。
窓の外にそれら秋の虫の音を閉めだして眠っていた、草木も眠る丑三つ時。
チンチンチンチン、という音が聞こえて目が覚める。
薄い布団にもぐりこんで音に耳を澄ます。
しばらくの沈黙のあと、再び、チンチンチンチン。
静かになって、また、チンチンチンチン。
断続的に続く。
外から聞こえるにしてはやけに鮮明な音だ。
もしや部屋の中から聞こえるのか。
眠いので、できればこのまま起きたくはないのだが、眠ろうとすればするほど、この音が気になってしようがなくなってくる。
眠りたい気と眠れない気の闘争の末、やむなく布団から這い出して照明を点ける。
しーん。
静かになる。
やがて音が聞こえるはず。
それにしても待っている時間は長く感じる。
特に深い夜などには。
油断したころを見計らったかのように、チンチンチンチン。
たしかに部屋の中から聞こえる。
音の発生源らしきあたりを探ってみるも、虫の気配はない。
チンチンチンチン。
背後で音がした、ような気がする。
振り向いてしばらく待つ。
チンチンチンチン。
聞こえたあたりを探るがやはりなにも出てこない。
ほんとうにこれは虫の音なのか、と思う。
もしやぼくの脳内だけで再生されている幻の音か。
途方に暮れていると、音はいつしかしなくなり、やがてぼくのまぶたも重くなり、そして再び眠りについたのだった。
あの音はいったいなんだったのだろう。