島田開八段の物語。
胃痛とのたたかいが痛々しい。
っていうか、読んでいるぼくの胃さえチクチクしてくるような錯覚。
将棋界ならずとも、社会人の世界はこういった神経衰弱の連続だ。
島田八段のひとの好さというのが際立っている。
A級棋士として、自らも天才の一員でありながら、その飾らない性格や、周囲への気配りに、おとなの知性を感じる。
渋い。
宗谷名人はいまだに謎に包まれているが、確かに神と悪魔は瓜二つだ。
今巻で気に入ったことはば、島田八段が宗谷名人について語ったあとにつぶやいたこのことば。
――しかし「縮まらないから」といって それが オレが進まない理由にはならん 「抜けない事があきらか」だからって オレが「努力しなくていい」って事にはならない
このことばは重い。
そしてやはり自分のことに重ねずにはいられない。
いや、別にぼくがだれかの背中を追っているわけでもなんでもないけれども、それでもやはり、決して手の届かない誰かを思って自らの怠惰の言い訳にしているのが常だから。
香子さんの愛らしさも今巻では目立っていた。
どう考えても根っからの悪女ではないよね。
林田先生のことばもいい。
ぼくにもこんなふうにいってくれるひとがほしい。
おまえはがんばってるよ、って。
でも、誰かからいわれるまでもなく、がんばっているかどうかは、自分がいちばんよくわかっているんだけど。
ぼくはいま、自分で自分を認められるほど頑張っているだろうか。
――3月のライオン(4)――
羽海野チカ