脳研究者の池谷裕二さんと作家の中村うさぎさんによる脳と遺伝子をめぐる対談です。
バイブレーターによる身体範囲認識のちょっとした実験とかちょっぴりエロくてでも内容はまじめ。
池谷先生なんかは好きな音楽を聴いていても、これって脳の報酬系のシステムが作用して気持ちよくなってるだけなんだよね、なんて冷静にも程がある。
アメリカの企業に唾液を送れば、99ドルでやってもらえるという、おそろしいほど詳しい遺伝子診断。
この話は、アスリート遺伝子かなんかでNHKで特集番組を見たことがあったけど、現実のもので手軽なものなんですね。
けれども話をきいていると、使い方をよくわかっているひとでないと危ない危ない。
占いとかを深刻に受け取っちゃうタイプのひとがこの遺伝子診断をやっちゃうと、もうその結果で人生が決まったような錯覚をしてしまうに違いない。
かかりやすい病気から性格的なものまでなんとなく数値化されて出てきてしまうから。
池谷先生や中村うさぎさんのようにあっけらかんとその結果を冷静に受け止めてほどほどに上手に活用できるひとならやってもいいけど、そうじゃないと危ないな。
そのうち、結婚相手や入社希望者に遺伝子診断の結果の提出を求めるようなことにもなりかねないだろうね。
っていうかもうアンダーグラウンドでは始まってるかもしれないけど。
でも遺伝子のひとつひとつの傾向に一喜一憂していても意味がないからね。
池谷先生の言うように短距離走に向いている遺伝子を持っていたからといって、根気がない遺伝子とかも持っていたら、スプリンターにはなれないだろうからね。
要するに複合的なものであるということです。
でも考えようによってはゲームの属性というかステータスというかそんな感じの組み合わせみたいで遊べるかも。
ところで、哺乳類の寿命は心拍150億回分とか。
小さい動物は心拍速度が速く、大きい動物は心拍速度が遅いので、寿命は違っても心拍数はほぼ一定。
ぼくの心臓もすでに150億回は拍動しているので池谷先生と同様、生物学的にはご臨終です。
対談の終盤は哲学的な内容に。
いかに遺伝子の呪縛から自由になれるかというもの。
真実はしかつめらしく語られるのか他愛のない雑談のような顔をして語られるのか。
そこに諧謔のこころが宿っているのならばぼくは深遠な議論でも軽薄な議論でも構いません。
あっけらかんと舌が滑りすぎている危険を孕みながら身もふたもない際どい対談が繰り広げられます。
これを読んだら人生の深刻な悩みなんて吹き飛ぶかな?
――脳はこんなに悩ましい――
池谷裕二
中村うさぎ