世界は分けてもわからない | (本好きな)かめのあゆみ

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かしこいカシオペイアになってモモを手助けしたい。

科学者が素人にもわかりやすく

科学のロジックを展開してくれる

作品はどれも楽しい。


インスピレーションを授けてくれる発想が

満ちている。


この作品もそう。


文章の構成がとても巧み。


イームズの

パワーズ・オブ・テン。

10のべき乗という意味のこの作品世界の

紹介が実によい。


ソルビン酸を例に語られる

リスクとベネフィットの関係にも納得。

ベネフィットのみが強調されて

リスクが隠されやすいのは

どの世界でも似ている。


MAPラバーとMAPヘイター。

地図好きと地図嫌いの性質の違い。


ES細胞はがん細胞と同様に

制御不能であるという実態。


脳と身体に境界などない。

鼻はどこまでが鼻か。

鼻の外形ではなくて

機能の問題だとすれば

鼻を単独で身体から区別することは

不可能だし意味がない。

その論理から導かれる

臓器移植の問題点。


脳死を認める発想は

やがて

脳始を認める発想につながる。

そして

生命の誕生は合理性によって

もてあそばれる。


川上未映子さんの

わたくし率 イン 歯ー、または世界

歯で思考するという主人公の発想は

あながち荒唐無稽な思考実験でもない

というのは新鮮な驚き。


全体は部分の総和以上のものである

という考え方のオカルティズム。

仮に部分というものがあるとすれば

全体は部分の総和でしかありえない。

そもそも無理に部分として分けている時点で

特定の部分に含みきれずに

除外してしまわざるを得ない箇所があって

総和以上と思っているものは

実はその除外していた部分に過ぎない

ということ。


ひとは生き残るために

あらゆるものに意味づけをせずには

いられないということ。

仮にそれが無意味なものであっても

なんらかの意味をこじつけてしまう。

それらしい模様がなんでも顔に見えるとか。


後半からがらっと雰囲気が変わって

研究室へ。

スペクターという天才による

奇跡的な実験の数々にスポットがあたる。

華々しい成功の影に

サスペンスの不穏な気配が

流れている。

ちょっと科学的な記述には

ついていけなくなったところもあったが

それでもかなりわかりやすくて

生物の授業が大の苦手だった

ぼくなんかでも手に汗握って

物語を追うことができた。


きっちりと前半からの話が伏線として利いていて

後半にみごとに回収されていく構成は

じつにエレガント。


世界は分けないことにはわからない。

しかし

世界は分けてもわからない。


鳥の目と虫の目。


マクロとミクロ。


動的平衡

諸行無常。


1冊読み通した末の

最後のエピローグは

哲学的示唆に富んでいて

感動です。


こんなふうに世界を解釈できたら

どんなことがあっても

たじろがないでいられそう。



-世界は分けてもわからない-

福岡伸一