1月中旬のある夜
鼻水がずるずるととめどなく出てきた。
例の奴がきたか
と思う。
文字にするだに
身体が反応してしまう奴の名は
花粉症。
あまり好きではないが
翌朝から薬を飲み
マスクをつけ始めた。
マスクをつけると
話しにくかったり
屋外ではメガネが曇ったり
してしまうのだが
慣れると案外
利点があるということを
発見した。
まず
満員電車のなかで
安心感がある。
これは
インフルエンザなどが他人からうつされにくいという
安心感もさることながら
自分がちょっとした咳をしてしまったときに
周囲に嫌な顔をされにくいという
安心感である。
ぼくのような小心者にとっては
これは大きなメリットだった。
また
これまでは咳やくしゃみが出そうになると
慌ててポケットからハンカチを取り出して
口を塞ぐという手間がかかり
しかもハンカチを取り出すのにてこずって
間に合わなかったということも
しばしばあり
その都度残念な気持ちになっていたのだが
マスクをしていれば
遠慮なく咳もくしゃみもできるのである。
さらに予期せぬ効果があった。
マスクをしていると顔があたたかくなる。
自分の呼気ではあるが
体内で人肌に温められた空気が
鼻や口から出てマスクのなかに
しばらく滞留するからだ。
ときには
低温やけどをしてしまうのではないかと
心配になるくらい熱い吐息を感じるときもある。
そして今日
あらたな効用を確認した。
ぼくは電車で座れると
つい居眠りをしてしまい
さらに深い眠りになると
わりと頻繁によだれをたらして
みっともないことになってしまうのだが
今日は見事にマスクがキャッチ。
誰にも気づかれることなく
下車することが出来たのである。
余裕である。
唯一残念だったのは
マスクの中が唾液くさく
なってしまったことだった。