第4話 世界を書き換える者
空が崩れる。
街が砕ける。
人々の姿が、砂のようにほどけていく。
「くそっ……!」
足場が不安定に揺れる。
このままじゃ、全てが消える。
「カイト!もう時間がない!」
ルナの声が響く。
分かってる。
だが――どうする。
相手は“世界そのものを消す存在”。
戦うなんて発想自体が、間違っている。
「いや……違う」
思考を止めるな。
俺のスキルは何だ。
“索引”。
情報を読み、整理し、最適解を導き出す力。
なら――
「戦う必要なんてない」
視界を開く。
目の前の“世界”を対象にする。
「索引……最大展開」
瞬間。
視界が、完全に変わった。
色が消える。
代わりに見えるのは――無数の“線”。
情報の流れ。因果の繋がり。記録の構造。
「……これが、この世界の中身か」
理解できる。
いや、理解“させられている”。
そして見つける。
「……あった」
異物。
本来あるべき流れから外れた“歪み”。
誰かが加えた“改変点”。
「ここだろ」
手を伸ばす。
触れることはできない。
だが――認識できる。
それだけで十分だ。
「修正する」
意識を集中する。
歪んだ情報を、正しい形へ。
乱れた流れを、元に戻す。
その瞬間――
**バチンッ!**
「ぐっ……!」
激しい反発。
頭にノイズが走る。
視界が揺れる。
「簡単にいくわけ……ないか」
当然だ。
これは“誰かの意思”だ。
ただのバグじゃない。
意図的に書き換えられたもの。
なら――
「上書きする」
歯を食いしばる。
拒絶されるなら、それ以上の強度で。
押し通す。
「――書き換えろ!」
世界に、干渉する。
情報を書き直す。
その瞬間。
**光が弾けた。**
崩れていた街が、止まる。
砕けた地面が、再構築される。
消えかけていた人々の姿が、戻る。
「……戻ってる?」
ルナの声が震える。
だが――終わっていない。
「まだだ……」
空を見る。
巨大な目は、まだそこにある。
そして――
『修正行為を確認』
『権限外干渉』
『排除レベル――上昇』
「……チッ」
空の裂け目が広がる。
圧力が増す。
さっきとは比べ物にならない。
「カイト……!」
「大丈夫だ」
即答する。
根拠なんてない。
だが――
「やることは、分かってる」
もう迷わない。
敵が何であれ。
やることは一つだ。
「あいつも……読む」
視線を合わせる。
巨大な目と。
その瞬間。
“索引”が、対象を捉えた。
「……見える」
構造が。
思考が。
存在の定義が。
「こいつ……」
理解する。
「“システム”か」
感情ではない。
意思ですらない。
ただ、役割を遂行する存在。
なら――
「バグは許されない、ってわけだ」
笑う。
少しだけ、余裕が戻る。
「だったら」
手を上げる。
対象を定める。
「お前の定義を、変える」
世界と同じように。
情報として扱う。
そして――
「再構成」
干渉する。
巨大な存在に。
普通ならあり得ない行為。
だが今は――できる。
「ここを書き換える……」
構造の一部。
“排除”の条件。
そこに手を入れる。
ほんの少し。
ほんの一行だけ。
「対象――変更」
そして――
「実行」
**沈黙。**
次の瞬間。
空の目が、止まった。
『……』
声が消える。
圧力が消える。
そして――
ゆっくりと、裂け目が閉じていく。
「……消えた?」
ルナが呟く。
俺は、その場に崩れ落ちた。
「はは……マジかよ……」
勝った。
いや――
「追い払った、だけか」
完全じゃない。
だが、それでも。
「とりあえず……助かったな」
ルナが駆け寄ってくる。
「カイト、大丈夫!?」
「……なんとか」
笑ってみせる。
だが、身体は限界だった。
意識が遠のく。
「おい……カイト!」
ルナの声が、遠くなる。
そのとき――
「やはりな」
聞き覚えのある声。
黒衣の男が、そこに立っていた。
「やりやがったか」
「……お前」
かすれた声で呟く。
男は、楽しそうに笑った。
「ようこそ」
一歩、近づく。
「“世界の外側”へ」
「……は?」
意味が分からない。
だが――
嫌な予感だけは、はっきりとした形を持っていた。
「お前はもう、ただの人間じゃない」
その言葉が、重く響く。
「“書き換える側”に来たんだよ」
(第5話へ続く)
