1.ベルサイユのばら
国会答弁で「ルイ14世」と「ルイ16世」の取り違えが話題となっている。
森羅万象を司っているつもりの総理大臣でも知らないことがあるのだろう。

 ルイ16世治下で起きたフランス革命を知らぬ者はいないが、ルイ14世の生涯を知るものは少ない。私もルイ14世による度重なる戦争とベルサイユ宮殿建設などで財政が逼迫し、後のフランス革命の遠因となった、ということぐらいしか知らないのである。
 フランス革命は池田理代子氏の漫画「ベルサイユのばら」で描かれる。後のナポレオンについても「エウレカ(英雄)」で描いている。
 池田氏は自身の最高傑作はロシア革命を舞台とした「オルフェウスの窓」だと述べている。しかし、「ベルばら」は出崎統-杉野昭夫コンビによるアニメ化で世界的に知られることとなった。「ベルばら」のアニメはフランス人が作ったと信じて疑わないフランス人がいるという。

 「ベルばら」の主人公オスカル・フランソワはバスチーユ監獄襲撃時に落命し、作中では後の血塗られた粛清の嵐についてはアランの回想独白に出てくる程度である。アランはその事を知らずに死んだオスカルは、ある意味で幸運だったのかもしれないと述べている。

 粛清の後にはナポレオンが登場する。皇帝ナポレオンはナショナリズム扇動によって軍事力を強化し、対仏大同盟諸国との戦争を戦い続けた。

 いわゆる革命思想に基づく社会の混乱を忌避する形で、オルテガの保守思想が台頭する。この問題に明確な答えはない。あまりに階層格差が存在する社会は根底から構造を変革しようとする人々の意思により破壊される。革命が起きる以前に格差の是正を行うことが必要であり、真の保守思想は人民への配慮が強いものであるはずである。だが、世界的な潮流として経済格差の拡大過程を固定する方向へ向かっている。


2.シュヴァリエ Le Chevalier D'Eon
 池田理代子氏は2009年にフランス政府からレジオン・ドヌール勲章シュヴァリエを受勲している。
 シュヴァリエとは「騎士」である。
実はルイ15世統治下を舞台にした冲方丁原作の「シュヴァリエ Le Chevalier D'Eon」という作品がある。
 実在した女装の外交官「デオン・ド・ボーモン」を登場させ、若き日のマクシミリアン・ド・ロベスピエールも登場する。
 デオンは政治的思惑で実姉を暗殺され、犯人を探索する。そのデオンに姉の霊魂が乗り移り、聖書の一節を唱えながら剣を振るう。妖術的な世界観も含まれた作品である。
 映像作品として剣闘シーンの再現性や背景に3D映像を使った濃厚な演出など、Production.I.Gとしても商業性よりも稠密な映像作品を追求した意欲作であった。
 王権や権力に批判的である作風は創作世界全体の潮流であるが、本作が与えた影響は少なくない。
 「シュヴァリエ」は冲方丁的なルイ王朝史観とも言える独自の解釈や演出で強いインパクトを作り出している。「シュヴァリエ」の存在意義は「ベルばら」に勝るとも劣らない。