ホークス一筋18年の田之上慶三郎投手(36)がスーツ姿で福岡ヤフードームに訪れた。少しばかり緊張した面持ちで、王監督、ナインに「別れ」のあいさつを行った。「始まり」があれば「終わり」がある。秋は最後の戦いの季節でもあり「別れ」の季節ともなる。 18年前の冬。学生服姿でホークスの入団会見に臨んだ田之上は、まだ角刈りだった。ホークスが福岡の地にやって来て1年目のドラフト生。といっても、ドラフト外でのプロ入りだっただけに「最後尾」からの新人生だった。プロ初登板は入団7年目の秋。文字通り遅咲きだったが、リーグ連覇の00年には優勝決定のオリックス戦(福岡ドーム)で先発し、V投手になった。大緊張のマウンドで6回零封。毎回握りしめた滑り止めのロージンの粉がなくなるほど手に汗かいて大役を務めきった。「18年もプロでできて感謝しています。今後についてはまだいろいろと考えます。でも、あれから7年ですか。早いですね」。プロ最高の思い出は00年の「ON日本シリーズ」。大舞台で先発マウンドに立てたことが、今でも脳裏に焼き付いているという。 この日、ホークスは田之上を含め4選手に来季以降の契約更新をしない旨を通告した。その中にはプロ11年目の倉野信次投手(33)の名前もあった。04年には先発、中継ぎなど37試合に登板し「谷間の花」として9勝をマーク。今季は1軍に昇格することなくホークスのユニホームを脱ぐことになった。田之上とは時間差でドームに訪れ、王監督にあいさつ。現役続行の決意で今後は他球団への移籍を目指す。「ホークスにはよくしてもらったという感謝の気持ちしかありません。ホークスじゃなかったら11年も雇ってくれなかったでしょうし」。倉野はそう言った。 8日からチームは千葉で決戦がスタートする。最後の戦いを前に「戦列」から離れた2人のベテラン投手は声をそろえるように同じセリフを言った。 「なんとか勝ってほしいですね」