Football, Guitar & Music

Alison
Elvis Costello

Oh it's so funny to be seeing you
after so long, girl.
And with the way you look I understand
That you are not impressed.
But I heard you let that little friend of mine
Take off your party dress.
すごく楽しいよ、
久しぶりでキミに会うのはね
キミがそうでもないのは、
分かっているけど
でも、ボクは聞いたよ、
あのボクの小さな友だちに、
キミのパーティードレスを脱がさせたってね。

  • 今回は『エルヴィス・コステロ自伝』(エルヴィス・コステロ著、夏目大訳、亜紀書房)を参考にしました。この本は2015年に出版され、著者はデクラン・マクマナス(エルヴィス・コステロの本名)です。日本では2021年に出版されています。750ページを超えるほどの分厚さで、電話帳かと思うほどの重さです。この分厚さの中で「アリソン」という言葉は、10ヶ所ほどしか出てきません。その中でも、第13章「不誠実な音楽」の項で詳しく紹介されます。
  • エルヴィス・コステロは、こう書いています。
    「『アリソン』という曲は、地元のスーパーマーケットで綺麗なレジ係の女の子を見かけたのがきっかけで書いた、と僕は常々言ってきた」
    とのことです。「常々言ってきた」というので、今までに何度も尋ねられたんでしょう。「彼女の名前のついた船ができてもおかしくないほど、綺麗な顔をしていた」んだとか。
    そこで、エルヴィス・コステロは想像を巡らせていきます。レジ打ちの日々では希望や夢は流れていってしまう。くだらない男が、彼女を束縛して、時間を浪費していくだろう・・・と。
    「彼女の姿を見て僕は白昼夢のようにそんな想像をした」
    と、自分自身でも振り返っています。
  • さらには、
    「『アリソン』は、別れを恐れる若い恋人の歌、つまり、恐れがテーマの曲だった」
    「『アリソン』でもテーマにした人間の『不誠実さ』についても歌っている」
    とも話しています。

I'm not going to get too sentimental
Like those other sticky valentines,
Cause I don't know
if you've been loving somebody.
I only know it isn't mine.
ボクは、それほど感傷的にはならないよ、
他のバレンタインカードみたいにはね
だって、ボクは知らないからね
キミが誰かを好きだったかどうかなんて
ボクのものじゃないってことだけは、知ってるさ

  • エルヴィス・コステロが、作曲や作詞について、どんなふうに思っていたのか書かれています。
    「僕が10代の時は、ロックンロールが1つの夢で、ロックンロールのおかげではじめて、他人の目を気にせずに言いたいことを大声で言えたような気がした」
    「新聞の一面を飾り、大騒ぎになるような派手な出来事ではなく、通勤電車に揺られる人たちの退屈な日常を歌にしている。そういう歌を誰かが書くべきじゃないかと思ったし、その誰かは多分、僕だろうと思っていた」
    「誰も僕に『ハッピーエンド』を書くことなんて求めていないのは分かっている。だからハッピーエンドだけは避けるべく最大限の努力をしている」
    「人に求められる曲を作ろう、そうすればきっと反響があるはず」
    エルヴィス・コステロにも、当然ながら下積み時代はありました。働きながら曲を書いたり、地元のライブハウスで歌える機会を探し、若くして家族を持ったので経済的にも厳しかったようです。そんな中で、デビュー初期の頃は勤め人としての日常を描いていました。
    「どれも静かな雰囲気の曲ばかりだ。いかにも子供が寝ている間に作った曲という気がする」
    とも振り返っています。
  • また、歌詞についての記述もあります。
    「僕はいつもわざと、いくら断片をつなぎ合わせても全体としてはすっきり意味が通らないような言葉の使い方をしていた」
    「一曲の中に、複数の現実、複数の道徳規準を同居させることはできると僕は思っていた」
    「また、物語の進む時間や、語り手、主人公の性別も複数にできると思った」
    「(アリソンの)リフレインの歌詞は今、読み返しても自分で感心する。それは、たとえ千回以上繰り返して聴いたとしても、本当は何を歌っているのかを大半の人は理解できないようになっているからだ」
    歌詞を書くときの思いは、エルヴィス・コステロらしくて面白いなと思います。
    歌詞の主語を「私」から「彼」に変えたり、ダジャレや語呂合わせ、文字の組み替えもしたり。
    それに、リバプールからロンドンに住むようになると、言葉の使い方が変わってきたと、自分自身を振り返っています。
  • ただ、歌詞への深い思いがありながらも、
    「僕はレコードに歌詞カードはいらないと思っていて、つけて欲しいと求められてもそれに抵抗していた」
    と語っています。
  • 詩人と作詞家の違いを意識していて、
    「両者は元来、まったく異なる仕事である。特に、自らの作った歌を自分で歌う作詞家は、詩人とは大きく違う」
    「歌は生き物だ。たとえ歌詞が同じでも、その時によって悲劇的なものになったり優しいものになったりする。場の雰囲気、聴衆の反応によっても変わるし、歌う時間が早いか遅いかでも違う」
    と書いています。紙の上に書かれたものを読むのではなく、音楽の中でこそ、歌詞を聴いて欲しいと思っていたのかもしれませんね。

Alison,
I know this world is killing you.
Oh, Alison,
my aim is true.
アリソン、
知ってるよ、この世界はキミを殺そうとする
あぁ、アリソン、
ボクのねらいは正直さ。

  • この部分の歌詞は、大きな騒動がありました。
    エルヴィス・コステロは「暴力的」「女性蔑視」だという評価に繋がってしまったようです。
    「曲に暴力的な要素を盛り込む意図はまったくなかった」
    「世界の現実によって裏切られて苦い思いをし、抱いている夢が殺されそうになっているところを想像しただけだ」
    でも、
    「僕のことを『ミソジニスト(女性蔑視、女性嫌悪主義者)』と呼ぶ人がいたのには驚き、困惑した」
    と書いています。
    「『アリソン』を書いてから半年くらいの間は、客の前で歌う度に失望が大きくなるばかりだった。過敏に反応して急に怒り出す客、好奇心剥き出しになる客、勝手な解釈で傷ついてしまう女の子たち。それに、自分が平常心を保てないことにもがっかりした」
    とも述べています。

Well I see you've got a husband now.
Did he leave your pretty fingers lying
In the wedding cake?
You used to hold him right in your hand.
I'll bet he took all he could take.
ところで、今はダンナさんがいるんだってね
ウエディングケーキの中に入ったキミのかわいい指を、
彼はそっとしておいてくれたんだって?
キミは彼を自分の手の内に置いていたんだ
彼が手に入れられそうなものは何でも、
彼が手に入れるのは確かだね

  • 「アリソン」で聴かれるギターの音は、見事なものです。ロマンチックな音、気持ちのすき間を埋めて歌詞に呼応するメロディー・・・。ただ、エルヴィス・コステロ自身だけで作ったわけではなく、演奏も他の人がしていたとのこと。
    エルヴィス・コステロが所属していたレコード会社の、クローヴァーというバンドにはジョン・マクフィーというギタリストがいました。
    「ジョン・マクフィーが『アリソン』や『レッド・シューズ』のイントロに関してアイデアを提示してくれた」
    「アトラクションズのメンバーとともにクローヴァーのジョン・マクフィーもギグに参加していた。『アリソン』のイントロをレコードのとおりに再現するためだ。僕にはどうしても、あのイントロのギターは弾けなかったのだ」
    と言います。

Sometimes I wish that I could stop you from talking
When I hear the silly things that you say.
I think somebody better put out the big light,
Cause I can't stand to see you this way.
ときには、キミがしゃべるのを止めさせられたらと思う
キミのくだらないおしゃべりを聞くときにね
誰かが照明を消すのがいいんじゃないかなと思ってるよ
だって、こんな風にキミを見るのはがまんできないから

  • 「僕が『アリソン』という名前を選んだのも偶然である」
    「もちろん、すでに艶やかで洗練されたイメージのある名前、たとえばグレースとか、ソフィアなどが使えないことはよくわかっていた」
    「僕が必要としたのは、誰のそばにもいそうな、身近な印象の名前だ。アリソンはその条件にとても良く合っていた」
    と書いています。
  • 「『パーティー・ガール』で歌われている女性がどこの誰なのか、また『アリソン』のモデルになった女性が誰なのか、それを知ったら曲がより好きになったとか、嫌いになったとか、そんなことがあるのだろうか。僕が作っているのはあくまでポップ・ミュージックだ。犯人探しのゲームをしているわけじゃない」
  • でも、
    「1979年の中頃には、僕のプライベートは何もかも暴かれ、どんな弁解も聞いてもらえない状況になってしまった。仕事も私生活も大混乱」
    と話しています。

Alison,
I know this world is killing you.
Oh, Alison,
my aim is true.
My aim is true.
My aim is true.
アリソン、
知ってるよ、この世界はキミを殺そうとする
あぁ、アリソン、
ボクのねらいは正直さ。

  • この『エルヴィス・コステロ自伝』は、読み応えが充分すぎるほどです。ミュージシャンであったお父さんやおじいさんのこと。音楽好きで、デビューまでのエルヴィス・コステロを支えてくれたお母さんのことも豊富に書かれています。
    特に多いのは、その時折にエルヴィス・コステロが聞いていたり、関心を持っていた音楽のことです。「私的な音楽史」と言っても差し支えないでしょう。
  • 例えば、
    「ティム・バックリィなら、エレクトラ・レコードから出ていたような芸術性が高く詩的な作品よりも、『グリーティングス・フロムLA』のほうが良い」
    という内容が全編にわたって書かれています。
  • それに、一緒に仕事をしたミュージシャンの話題もたくさん載っています。ジョニー・キャッシュ、ヴァン・モリソン、グラム・パーソンズなど、枚挙にいとまがありません。特にボブ・ディランとの出会いや会話は面白く読めました。
  • エルヴィス・コステロが好きな方は、ぜひ読んでみてください!